幕間 成人の儀式
第4話 成人の儀式①
✳︎
僕とライング、シオンは村の広場に集まっている。
周りには村の人達が僕達を丸く囲んでおり、目の前には村の村長が杖を付き立っていた。
「三人とも集まったな。では移動しようか」
そう言って僕達三人は村長と共に村の外れにある森に向かって歩き始めた。
「成人の儀式っていつも遠巻きに見ていたけどいざやるとなると緊張するな……」
「大丈夫よ、別に危ないことをするわけじゃないわ」
僕達は現在十五歳。前の世界では二十歳で成人を迎えていたが、この世界では十五歳で成人となる。
そして今日、毎年行われるこの村の『成人の儀式』に参加することになっているのだ。
「さて、着いたぞ」
「これは……」
歩き始めて十分。目的の場所に到着した。
そこには大きな樹木と壁があった。
壁には太陽のような二重丸の下に四本の足で立っているドラゴン、その周りに沢山の人が祈りを捧げているような絵が描かれている。
この壁画は村で祀られており、代々語り継がれている『神様』を象徴する壁画らしい。
その隣にある樹木も長い年月を経ておりとても大きい。
「成人の儀式の説明はしたじゃろう。それじゃあまずはサミーからやろうか」
「は、はい」
そうして壁画の前に立ち壁画に手を当てる。
「………………」
そして目を閉じ一つ深呼吸をした。
後ろに居る三人はその様子を静かに見ている。
(探求の神メイデン様。ここに願いを捧げます。僕は仲間と共に冒険者になります。僕の冒険に幸運と仲間を守るための力を…………)
この村では、祀られているこの壁画に描かれている神様に願いを捧げるというのが成人の儀式で執り行われる。神に願いを捧げ加護を得るとかそういう理由だ。
「…………」
願いを捧げたら壁画から手を離し、次に樹木の下へ。
樹木の側で跪き、懐から装飾が施されたナイフを取り出し右手で握る。
そして、
「…………ッ」
そのナイフで自分の左手の親指を切った。
親指からは血が流れ、樹木の根本をポタポタと赤くしていく。
「………」
樹木が僕の零れ落ちる血を吸っていく。
この樹はいわゆる村の御神木。その御神木に自身の血を捧げるのがこの儀式だ。
前の世界の成人式はよくわからないが、昔のとある国では成人した時に歯を抜くという風習があるらしい。
『大人になる』ための覚悟として痛みを伴わせ、自覚させるということらしいがやっぱり痛いのは勘弁だ。
そうして一分程御神木に血を垂らしたら立ち上がる。
これで成人の儀式は終わりだ。三人の元へ戻った。
「サミー、お疲れ様。これで君も一人の大人に成った」
「……はい」
村長は労いの言葉と共に指の血を拭うための布を渡してくれた。僕はナイフを村長に返して布を受け取る。
「次はライングの番じゃ」
「わかったぜ!」
渡された布を指に巻いて、二人の儀式の様子を静かに見る。
「ぅぅぅ…………」
ライングは何か唸り声を上げながら壁画に手を当てている。
おそらくだが『世界一の冒険者になるんだ』と言った内容の願いを捧げているんだろう。とてもわかりやすい。
「チクッとしたけどこれで俺も大人になれたぜ!」
血を捧げ、戻って来る時の表情は眩しいほどの笑顔をだった。
「………………」
一方のシオンは落ち着いた様子で静かに儀式を進める。
魔法使いでもある彼女は常に冷静だ。故に願いとしても『親の魔法をしっかりと受け継ぎ、それを研磨します』と言うような真面目な内容なのだろう。
「これで終わりね……あ」
血を捧げ、戻って来た彼女はおぼつかない足取りで今にも転んでしまいそうだった。
僕とライングは慌てて近づいて彼女を支える。
「大丈夫?」
「少しふらついただけ、大丈夫よ」
そうして僕達三人の成人の儀式はこれで終わった。
「戻ろうか」
村長の号令と共に村に戻るため、歩き始めた。
✳︎
成人の儀式は収穫祭と同じ時期に行われる関係上、一緒にお祝いするのがこの村の恒例だった。
広場には沢山の美味しそうな料理に加えお酒が村の大人達に振る舞われる、これは成人した僕達にも同様にだ。
「それでは、新たな成人の誕生と収穫を祝って乾杯!」
『乾杯!!』
音頭と共にお酒を飲む。
「ゴホッ、ゴホッ!」
むせた。生まれて初めてのお酒の味は喉の熱さと一緒に吐き出されてしまった。
「サミーにはまだ酒の味はキツかったなぁ!」
それを見ていた周りの人達はガハハと笑いながらお酒を飲んでいた。
僕は慌てて水を飲み、その後はじゃがいもの塩焼きや獣肉の丸焼きなどの美味しそうな料理を食べた。
「サミ〜!」
「ライング……」
ライングは真っ赤の顔を浮かべていた。
弱い、僕が言うのもなんだがあまりにも弱すぎる。まさか一杯目でここまでになるとは。
「お酒を飲むと身体がぽかぽかするな〜」
「あんまり飲み過ぎないようにね……」
「だぁいじょうぶさぁ!」
その後、ライングは二杯目を飲むことなく倒れてしまい少し騒がしくなったのはまた別の話だ。
そして、祭りも終盤になった頃、村長が僕の元に来た。
「楽しんでおるか?」
「はい。ここまで楽しいのは久しぶりです」
「なら良かった。……お前達は冒険者になるんじゃよな」
「……はい。おそらく二ヶ月後には冒険者試験のためにこの村を発つつもりです」
その言葉に村長は微笑みを浮かべる。
「そうか……お前は冒険者になるんじゃな。寂しくなるなぁ」
村長にはお母さんが亡くなって生活が出来なくなった僕を助けてくれた。その恩はとても大きい。
「いつか大きくなって帰ってきます。その時まで待っていてください」
「そこまで言うならわしも笑顔で送らなければな」
そう言って村長は僕の肩に手を置いた。
「頑張れよ」
「……はい」
こうして村の成人の儀式の祭りはお開きとなった。
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