第2話 夢への第一歩

    ✳︎


「はぁ!」


 手に持った木剣を横に払う。枝はそのまま目の前にいる相手の脇腹へ向かっていく。しかし木剣は直前で相手の持つ木剣に弾かれてしまう。

 弾かれた反動で足を縺れてしまったサミーはその場でスピンしてしまう、その隙をライングは見逃さない。ライングはスピンしたサミーの木剣を掴み取り。


「行くぜえ!」


 そう言いながら掴んだ木剣を力任せに引っ張った。サミーは身体ごと持っていかれてしまいそのままうつ伏せに倒れてしまう。


「痛ッ!」

「よっしゃあ、俺の勝ち!」


 ライングは木剣を空に掲げ勝利宣言をした。

 一方、負けた僕は平原の原っぱの上で仰向けになり名残惜しそうにその光景を見上げた。


「今日はこのぐらいにしよう!」

「はあ、やっぱりライングのパワーはすごいなぁ」

「すげえだろ、ハハハ!」


 僕とライングは村の外の平原に倒れ込んだ。

 流れる風が汗を冷やしてて、とても気持ちが良い。


「疲れたぁ!」

「おいおいサミー! そんなんじゃ冒険者になるのも一苦労だぞ!」


 ライングの呼吸は乱れておらずまだまだ余裕そうな表情だった。


「ら、ライング……すごいね……」

「だろ!」


 僕たちは今、冒険者になるための特訓をしていた。

 あの時二人で冒険者になるために決意した次の日、まずは身体作りということになった。


 二人で配達の手伝いで村中を駆け回ったり、重い荷物の持ち運びをしたりして身体を鍛え、手伝いが終わったら二人で木で作った剣を使って戦いの稽古。それを五年間、毎日欠かさず繰り返している。


 その成果が実って僕の身体には筋肉がそれなりに付けてきた。とはいえライングの方が筋肉の量が多いし、剣の腕だって僕より格段に強い。


「おーい、二人とも」


 シオンが元気に手を振りながら近づいてきた。その手にはバスケットが握られている。


「二人ともお疲れ様、はい、いつものね」

「やった、いつもこれが楽しみなんだよね」

「今日は俺が勝ったから一個多く貰うぞ!」


 そう言いながらバスケットから取り出したのは丸くて大きなパンだ。

 彼女の家は普段は村のパン屋をやっており、柔らかく美味しいパンとして村のみんなから愛されており、特訓が終わるといつもパンを持ってきてくれてるのだ。


「いただきまーす!」

「お腹空いたー!」


 そうして僕とライングは大きなパンに向かって齧り付く。ふわふわしててとても美味しい。


「美味しい!」

「そんなに早く食べなくてもパンは逃げないよ」

「それぐらい美味しいんだよ!」


 そしてパンが食べ終わり、しばらく三人で夕日を眺める、オレンジ色の光がとても綺麗だ。


「よーし! それじゃあ帰るか!」


 ライングは元気に立ち上がり、寝ている僕に向けて手を伸ばした。


「ほら、行こうぜ! 家まで競争だ!」

「負けないからね!」

「二人とも待ってよー」


 そうして三人と村へ走っていった。

 村に着くと僕は膝に手をつき肩で息をしていた。やっぱりまだまだ身体ができていないんだろうな。


「よー、お前ら。またやってるな」


 疲れている僕たちに同い年の男の子が話しかけてきた。


「ライングは相変わらず余裕そうだな」

「鍛えてるからね! 冒険者になるためにはこれぐらいやらないと!」

 

 男の子はライングに尊敬の眼差しを向けていた。子供たちの中で一番強く、そして誰よりも優しいというのがその理由だろう。


「それに比べてサミーは何だよ。もうヘトヘトじゃないか」

「ほっといてよ」

「いーや、ハッキリ言ってライングと違ってお前は弱いじゃないか! そんな調子なら冒険者にならない方が良い!」


 こんなやりとりは特訓を始めてから何度も起きた。

 才能もあって、僕よりも沢山努力しているライングと僕が比較されるのはある意味宿命でもあったのだ。


「おい! さすがに言い過ぎだぞ!」

「サミーはすごい頑張ってるんだよ!」


 僕の悪口を言われて、ライングとシオンは怒りを露わにしながら男の子に怒鳴ってくれた。


「悪い悪い。あ、それじゃあ俺は配達が残ってるから!」


 睨まれた男の子は、慌てて逃げるように去って言った。


「まったく、いいかげんなことを言いやがって。サミーは誰よりも冒険者になるために頑張ってるのに」

「大丈夫だよ。僕のために怒ってくれてありがとね」

「いいのよ、だって私たち親友だからね」


 二人に感謝の言葉を伝える。やっぱり彼らは良いやつだよな。僕が悪口を言われたというのに自分の事のように怒ってくれたんだ。

 感謝の言葉を聞いたライングはいきなり僕の両肩に手を当てる。


「……いいかサミー、確かにお前は俺よりも弱いかもしれない。でもな、お前は俺たちと一緒に冒険者になるためにすごく頑張ってるってのはわかるんだ。だから絶対に三人で冒険者になろうな!」

「…………うん」


 そして眩しくなるような笑顔を浮かべ再び前を向いて歩き始めた。

 地平線に落ちるオレンジ色の夕陽が僕達を照らしている。


「それじゃあ帰ろうか」

「そうだね」

「見て、お空が綺麗だよ」


 確かに僕には才能が無いのかもしれない。でも僕は冒険者になるんだ、そう約束したから。


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