第九部 遊び歩きマイマイ

ナルトダンジョン

101.攻略済みダンジョン探索してたら偶然出会った人とコラボした!


『こ、こんチヒロー……。どうも、チヒロンです……。はぁ、ダメだ。撮り直そ……』


 これで314回目の撮影、開始してから18日目である。

 危険等級C級。既に攻略された徳島県にあるナルトダンジョンにて、新人NewTuberチヒロンこと、西浦千尋にしうら ちひろは苦難に強いられていた。


『あう、人いる……う、映ったら迷惑だし、ちょ、ちょっと休憩……』


 彼女はとにかく恥ずかしがり屋で、


「はぁ、撮影上手くいかない。どうせ、わたしには無理なんだ……」


 ネガティブだった。

 この調子の撮影ペースなので、投稿を始めてから3ヶ月でまだ4本しか動画を投稿していない。

 チャンネル登録者数は4人。両親と父方の祖父母のみ。


「今日はもう頑張ったし、充電ないし……帰ろ」


 中古の武具と防具を装備。そして、持ち歩けるのはいくらかの食糧と救急キット、撮影に使う自身のスマホのみ。

 帰宅しようとしたその時だった。



『おぉ! ねぇねぇみてみて! グルグル模様の石‼︎ ナルトダンジョンは色んなものがグルグルしてるね〜。……ん? 見て‼︎ あそこにも頭がグルグルしてる人がいる‼︎』

[失礼極まりないな]


 ──吾妻が見つけたのは蹲る探索者。スマホはカメラを録画待機画面で開けたままだし、おそらく別のダンジョンストリーマーだろう。


『え、あっ、えっ⁉︎ ま、マイマイ⁉︎ ま、ちょ、ほ、ほんも、本物⁉︎』


 吾妻に気付いた女性は大ファンだったのか、緊張で顔が真っ赤になり、言葉がたどたどしくなった。


『うん! マイマイチャンネルのマイマイです! えっとー、だれー?』

『あっ、チヒロンチャンネルのチ、チヒロンこと西浦千尋です。その、マイマイのファンで、わたしもマイマイに憧れてダンジョンストリーマー、に、なって……』

『わー⁉︎ なんで泣くの⁉︎』

『その、嬉しすぎて……ナマイマイ』


 吾妻が西浦を慰めようとするも余計に感動し、嬉し泣きが止まらない。

 そんな大ファンの存在に吾妻は『むふぅ』とこっちに満足げな顔して向けてきた。

 ……はぁ……よし、可愛いな。


 しばらくして。

 落ち着いた西浦はナルトダンジョンだけで一人ダンジョンストリーマーで活動していること。しかし、全く上手く行かないことを教えてくれた。

 俺たちが活動を始めた春頃よりも、ダンジョンストリーマーはさらに増えた。今では海外にもダンジョンができたわけだし、ライバルは世界中にいる。

 何の後ろ盾もなく始めた初心者が人気になるのは、かなり難易度が高い。


「今は家族しか観てくれなくて、応援はしてくれてるけど……」

「なるほどなー。気持ちは分かるよ! 最初は大変だもんね。わたしも動画公開しても4人しかコメントしてくれなかったし!」

「し、知っています……! マイマイにもそんな時代があったのは。マイマイ四天王と呼ばれてる方々ですよね、最近コメントでは見ないですけど」


 初期から応援してくれた熱狂的ファンのことを指す。

 ゴールデンチャイルドの正体こそ不明だが、もっとも他の2人は捕まり、残る1人は切り抜きチャンネルで得た収入以上に課金する変態しかいない。


「でも、すぐに売れたのはマイマイの魅力があってこそで」

「それはそうだね」


 間髪入れず、吾妻は返事する。

 自身の大部分を構成する自信にありふれた彼女だが……俺も完全に同意する。

 ここまで来れたのは全て吾妻舞莉であるからという理由に片付いてしまう。世界最強最高のダンジョンストリーマーなわけだ。

 ──別に恋人だからと贔屓目で見ているわけではない。最初からそう判断していたさ。だから惚気てないって。


「……わたしには、何もないから。このまま続けても登録者が二桁にすら行くことなんて……」

「んー。キッカケさえあればみんな見てくれると思うけどなー。──あ、そうだ! コラボしちゃおー!」

「コラボ……え⁉︎」

「ふっふっふっー、わたし2000万人以上ファンがいるんだー。コラボしたらみんなもチヒロンのこと見てくれるよ!」

「そ、そんな! わたしみたいな底辺ストリーマーがマイマイとコラボなんて、烏滸がましいってアンチ湧くし、それにマイマイに悪いし……」

「えー、せっかく出会えたんだし、わたしは一緒に冒険したいよ! それに、アンチ? って悪口言う人たちでしょ? そんなのほっといたらいいんだよ‼︎ だってその人たちに直接迷惑かけてないしー、わたしたちが楽しめたらそれでいいんだよー! そんなわたしたちを応援してくれる人を大切にしよっ! ね?」


 吾妻のそのポジティブシンキングは、どんな批判的意見も暗い思想でも、全てを晴らしてしまう。

 西浦とコラボすることに、こちら側のメリットはないがデメリットもあるわけではないし──それに初期では、俺たちだって植山や野田とコラボすることで認知度を増やしてきた。

 それを後進育成として恩返しできるなら構わないだろう。

 何より吾妻がやりたいと言うならば否定することはしないさ。


「うん……。マイマイの誘いを断る方が悪いよね。いい思い出にもなるし……。こっちこそ、よ、よろしくお願いします……‼︎」


 西浦の了承も得たところで軽く打ち合わせをし、早速撮影を始める。



『こんマイリー♫ マイマイです!』

『こんチヒロー……チヒロンです』

『さてさて、今日もダンジョン攻略をしていくよー! 今回攻略するのは〜?』

『じゃ、じゃじゃーん……ナルトダンジョンです』

『安心安全なC級だねー。ここって、チヒロンの地元のダンジョンだよね?』

『う、うん……』

『あ!』

『えっ⁉︎ なに……⁉︎』

『チヒロンの紹介してなかった〜!』


 と、ここで西浦を紹介し、コラボした経緯なんかも軽く話した。

 危険等級C級であれば、取り残された宝具を探すことが主な目的であることを視聴者に伝える。


『それじゃあマイリましょう!』

『あ、木の根が……』

『ふげっ‼︎』


 歩き出した途端に、渦巻くように絡んで地面から飛び出していた木の根に吾妻は引っかかり、顔面からこけた。


『大丈夫っ⁉︎』

『だいじょぶだいじょぶ! これくらい平気だよ〜──ん? これ、なんだろ?』


 渦の紋様が刻まれた石。壁から少し飛び出しており、あからさまに怪しい。

 吾妻はとりあえず勢いで押した。

 すると、離れたところで大きな音が響く。


『な、なに⁉︎』

『この展開なんか知ってる! 奥で何かが動いたんだよー! チヒロン行こっ‼︎』


 西浦の腕を吾妻は引っ張り、音のした方へとすぐ向かう。

 辿り着いた場所は煙と埃が巻き起こっていた。その中から現れるのは、銀色に光るメタリックな鳥の形をした魔物だった。


『こんなのここで見たことない……もしかしてレイドボスじゃ……』


 魔物はこちらを捉えると、口からいくつもの泡を吐き出した。

 吾妻が西浦を連れて逃げると、さっきまでいた地面は溶けてドロドロになっていた。


『おー、泡を吐く鳥さん! 通称、アワオドリだね!』

『ひぃっ……、し、死んじゃう……』

『よし! チヒロンやっちゃいなー!』

『えっ⁉︎ 無理、無理無理無理無理‼︎ わたしが倒すとか……』

『だいじょぶ、わたしがついてるし! それにチヒロンは強いよ! あとは自信だけだよ‼︎』


 吾妻の励ましに、西浦は量産型の剣を強く握り締めて振りかぶる。

 しかし、勇気は出したものの目は瞑ったままだ。

 そこに襲いかかる泡に気付かないが……それは吾妻が蹴り飛ばした。酸性の泡も何のその。

 そのままファイヤーフランタンに連れられて一気に空飛ぶ魔物の背面に回り込むと、西浦がいる方向に蹴り落とす。


『チヒロン今だよ!』

『うっ、うわぁぁぁぁぁ‼︎』


 雑に振り落とされた剣は見事に魔物を斬り裂いた。

 吾妻の見立て通り、彼女に勇気はなくても力はあるみたいだ。


 その後、魔晶石は『仕留めたのはチヒロンだから!』と西浦に譲った。

 宝具こそ何も得られなかったが、のちに上がるコラボ動画により、彼女のチャンネルは徐々に増えていくようになったのであった。



「ありがとうございました……‼︎」


 ダンジョン入口で深々と頭を下げられた。

 帽子とサングラスで変装する吾妻だが、これ以上いたら結果オーラでバレてしまうので早めに挨拶は終わらせて解散しておきたい。


「あの、いつも二人で撮られてるんですか?」


 動画を締めてから、西浦は俺たちにそんな質問をした。


「ううん! 本当はオーデュイ、あ、別のスタッフさんもいるんだけど、オーデュイはドウゴダンジョンで打ち合わせとかで先に行ってるんだー」

「そうなんだ……なんか二人を見てると、兄妹というよりカップルに見えるなーって」

「えっ⁉︎ そ、そそそんなことぉ、ないよぉ⁉︎」


 動揺しまくる吾妻。動画のように堂々と仲の良い兄妹と言い張ればいいのに。しかし、何故そう思うのだろうか。気をつけていたが……。


「チヒロンは何でそう思ったの⁉︎」

「あの、会った時から……兄妹にしてはずっと距離近くて、ボディタッチもあるし、服装もお揃いで、あと二人見つめ合ってる時間長いしで何だかわたしいるの気まずくて、出来立てカップルみたいだなって……」

「「え」」


 誰かに指摘されるまで気付かなかった。

 自分も浮かれていたか、距離感は少し考え直そう……。

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