98.【動画長いよ】まだまだ続くよクリスマス♫


「──奇怪な光景だ。まるでこの世の終わりを覗いているようだ」

「前の世界思い出しちゃった〜? あら、ごめんなさ〜い」


 廃教会になしおやじと、それにが大量に転がっていた。

 藤岡が訪れた時は7割くらいは作業が完了していたらしい。


「わたしの能力、エネルギー操作があればどんな姿にでも生まれ変わるのよ。マイマイの信者がマイマイの所有物になれるなんて彼らも本望でしょ」

「そこの三人は」


 マイマイファンクラブの創設者メンバーである向井、岡野、馬場の三人だけは人間のままその辺に倒れていた。


「あれらは使えそうだから宝具とか与えて向かわせようかなって」

「やはりソウシがいくつか持っていってたのか。宝具を使用する際は使用許可を得るように」

「──あ? 別にいいだろーが、これらはわたしが回収したやつだからよ。新参者がリーダー気取ってんじゃねぇぞ? ガキンチョがよぉ──って、いけない。わたしったら怖くなっちゃった⭐︎ 大人気ないわ〜」


 人格が変わった高嶺だが、またいつものに戻る。

 しかし、いつも違う話し方ともまた違う話し方に藤岡は疑問を呈した。


「君は、何者だ」

「……えー、先生忘れたのー? ソウシはソウシだよ。けど、少し、ほんの少しわたしが入って来てる。色んな人間に力を流し込み、ようやくマイマイという素晴らしい器を見つけた。ソウシの力が彼女に入り馴染むことで、さらにと思ったのに……逆に侵食されそうになっちゃった⭐︎」


 自分のために大切に育てようとしたはずの所有物に、牙を向けられてしまった。


「ならば難しそうか」

「はぁ〜? できないとは言ってないんですけどー? これ以上マイマイに近付くのは難しいってだけ。この魔物のイメージはマイマイの考えから知って作ったものだし〜。そもそも、先生に頼まれてやってあげてるんだからね!」

「あぁ、感謝しているよ。だが彼女はもう我々では手が及ばない。Sがいくつあっても足りないほどに危険人物となった。……だから周囲から攻め入ることにした」



   ◇ ◇ ◇



「さぁ、最期の大博打といこうではないか」

「はぁ、はぁ……半分ほどでいいでしょう」

「ローストチキンめ」


 永田が振るったサイコロの目は2・2・1。


「出目は……ピン……」

「最期にしては頑張ったじゃねーの。だが……ノッてる俺は神すら止められねぇ!」


(ピンゾロくらい俺の腕で出せる。遥か彼方までぶっ飛ばしてやる──)


 馬場がサイコロを放すと……地面が大きく揺れた。


「あっ⁉︎ 地震⁉︎」

「ゲーム中、使用者をお互い傷付けてはいけない制約……裏を返せばそれ以外は何をしても問題ない。自身すら傷付けてもね」


 自分の腕が壊れるのも構わず、永田は思い切り地面を殴り、茶碗を揺らした。

 馬場のサイコロの一つが縁に当たって茶碗から零れ落ちる。


「しょ、ションベン……! ず、ズルいぞ‼︎」

「僕は運が悪いのではない、運を頼りにするのを悪だと思っている。全ての過去の行動が必ずこの先の未来を物語る。運ではなく、自らの選択肢を信じる。──神はサイコロを振らない。目を決めるのは僕だけだ」


 重い一撃が馬場の頬に決まった。


 さらに、次々と決着は付いていく。


「うぅ……⁉︎ くそっ、マイマイは渡さない‼︎ 〈担次元当タンジェントォ〉‼︎」

「……彼女は誰のものでもない」


 振り上げようとする槍を猛李王は叩き斬り、よろけた岡野の前に大剣を突き付ける。


「い、いきがってんじゃねぇぞ、が‼︎」

「……それだけは……それだけは言っちゃいけないだろぉ‼︎」

「ひぃっ⁉︎ ぶくく……」


 猛李王の気迫に岡野は泡を吹いて倒れてしまった。

 女性を気絶させてしまったことに、彼は心の奥底から反省と後悔をしてしまうことになる。

 試合には勝って勝負に負けたみたいだった。



   ◇ ◇ ◇



「──それにしても、先生ってもっと理論派だと思ったけど、〝愛〟について試して欲しいことあるとか。意外と情熱的じゃん。ふぅ〜!」

「愛情が及ぼす能力を知りたいだけだ。なぜ我々が格下の人間たちに負けたのかを考えていた。我々との確固たる違いと、彼らの共通点。……人間は、他者のために戦うことで、想定の何倍もの能力を発揮すると仮定したのだ」

「ふ〜ん、まるでラブストーリーじゃん」

「創作物に愛はつきものだ」

「じゃあ、その愛情を奪っちゃうってこと? ソウシ、愛を愛する神様だからそんな非情なことできな〜い!」


 とか言いつつ、人間にエネルギーを与えて魔物へと生まれ変わらせている。


「だから逆に? わたしはマイマイのマネージャーに愛の力を引き出させるのが仕事なのよね?」

「ああ。我々と同じ異端者に愛を与えればどうなるか、彼ならいい実証になると思ってね。……異端者は種類は違えど、皆愛に飢えている。自分を認めて欲しい、求めて欲しい。だからこそ再びこの世に生を受けたのかもしれない」

「確かに。ソウシも人類から敬愛されたい! それが神のあるべき姿だから!」


 高嶺は折れた十字架の上に飛び乗り、天を仰いだ。


「先生もさ、誰かと愛し愛される人はいなかったのー?」

「……私にも家族はいたさ。無償の愛を与えてくれる両親がね」



   ◇ ◇ ◇



「そんな湯切りザルでわたしは倒せませんよ。どうぶつさんたちを葬ったその罪。必ずや贖罪を受けさせます……!」

「──天使のラーメン……エンジェルラーメンは天にも昇る美味さなのか」

「え、まさか……こ、この人……わたしを食材として見てる⁉︎」

「……じゅる」

「ヨダレ垂らしてる⁉︎ くっ!」


 イラミィは不利を読み取り、敗走しようとした。別にわざわざこの男を倒さなくてもいいからだ。

 しかし、彼の食への欲求は収まらない。

 狙いを付けられたら最後。もう彼女は空の上にはおらず、まな板の上にいる天使でしかない。


「数枚の羽だけでいい。是非ともエンジェルラーメンを! 〈昇龍しょうりゅう〉」


 盛影はその場で回転し空気を切ると、大きく舞い上がりイラミィの片翼を捉えた。


「あぁぁいっ‼︎」

「いたっ⁉︎」


 太めの注射針に刺された痛みがイラミィを襲い、彼女は堕ちていった。


「殺しはしない。絶滅させてはもう食えないからな」


 ラーメンに全てを賭けた男。盛影流。

 究極のラーメンのためなら非情にも慈悲深くもなれる。彼の前では皆が箸を突き刺されている状態にあるのだ。




『……ヤバッ、なんか追いかけてくるし⁉︎』

『つかれた〜』

『さぁ⭐︎ ボクちんの魅力を世界中に届けたまえ!』


 ミッチーは撮影しているゆめほのチャンネルに目掛けて飛来していた。


『……おい、俺を無視すんじゃねぇ……遠回しに莉奈に無視されてるって皮肉ってんのかぁ⁉︎』


 宝具:天涯飛隣てんがいひりん

 視界に入る場所に、自分と触れている者も合わせて瞬間移動ができるロケットペンダント型の宝具だ。なんと写真も入れられる。もちろん相手は妹の仲田莉奈。

 ミッチーの背後に現れた仲田は天使を一撃で蹴り落とす。


『あはーん♡ 散るボクちんも美し……い……』


 恍惚な表情を浮かべ、ミッチーは地に散る。


『ヤバッ、助かった……』

『てめぇら、危ないから離れろって言われてたんだろ。野次馬根性で近付くんじゃねぇよ』

『『すみません〜』』

『反省0かよ、ちっ……ん? お前ら……よく見たら元S級の異端者じゃねーか』

『『ギクッ⁉︎』』


 ハカタダンジョン異端者、社会名、福岡夢乃ふくおか ゆめのとヒロシマダンジョン異端者、社会名が洲崎穂乃すざき ほの

 彼女たちはアキハバラの件の際、素直に保護に応じていたため今は自由の身だが、元S級なので監視も強い。

 さらには攻略もされて、力が弱まるなどとばっちりを受けている。


『関係ねぇだろうけどよ、一応お前らも聴衆するから付いてこい。勝手にどっか行ったら適当にしょっぴくからな』

『……ヤバッ、探求省の人間だったのかよ最悪……』


 スーツ姿ではない完全私服、しかも胸に大きく妹の写真がプリントアウトされたTシャツを着る男がまさか政府の人間とは、到底思えなかった。


『ぽぉ〜』

『どうした穂乃? ……はっ! まさか⁉︎』


 桃色の表情を浮かべる洲崎に、福岡は全てを察する。


『俺に付いて来いだって〜男らしくて素敵〜』

『惚れっぽいのまた出てるぞー。おーい、戻ってこーい!』



   ◇ ◇ ◇



「さすがはSS級異端者。敵いそうにない。でも、そんな危険な奴を吾妻さんの側に置いておくわけにはいかないんですよ!」


 主人公みたいなことを本気で言いやがる。

 別に吾妻が彼と付き合ったところでそれなりの幸せは手に入るかもしれない……だが気に食わない。

 自分が隣にいる権利はもう手放すつもりではいる。ただ、なんかあいつに渡したくない完全私情で、俺はこいつを倒す。

 あとあいつが平々凡々な幸せで満足するわけないだろ。


 ベクトルアローの能力は厄介だ。しかし使い手が素人であれば、力を完全に引き出すことはできず大した脅威にはならない。

 外れた矢に当たったなしおやじが空を舞う中で、向井までの道筋を見つける。

 彼個人に恨みはないが……男として、一回ぶん殴ってみせる。


「……女性を取り合って決闘する。熱いですね。僕も物語の登場人物になったみたいだ」


 ニヤッと微笑む向井の頬を、俺は殺さない程度に軽く殴った。



   ◇ ◇ ◇



「──これらとこの人間だけで、東亮の本気は出せるのか?」

「さぁ〜? イラミィとミッチーも付けるけど、まぁ、これは単なるお遊びだよ。愛って本来、生殖行動を最高級に要約したものじゃん? 良い遺伝子を残すためには、命の危機に晒されないとさ〜」



   ◇ ◇ ◇



「生配信、終わったみたいですよ。東さん、この後処理は僕たち探求省の仕事ですし、ぜひ迎えに行ってあげてください」


 拘束される向井や天使たち。

 駆けつけた他職員により、なしおやじも次々と討伐されていく。

 永田たちの厚意で俺は先に行かせてもらえることになった。


「……当たって砕けろ。そして、リア充爆発だ」


 猛李王さんからの告白のアドバイスも貰った。

 しかし、俺が言うべきなのはバディを辞任するということ。……別れの挨拶だ。

 約束した集合場所に向かうために少し早いが電車に乗った。


   ◇ ◇ ◇


「マイマイを想うようになって、肩慣らしは済むようになるでしょ? それにここからなの〜、殺死愛ころしあいは。ねぇねぇ、元四皇って知ってる〜?」

「当然だ。黎明期に活躍した、現四皇たちよりも前に注目を集めていた四人の探索者。時代を作り出した吾妻大吾。最強の武闘派探索者かつ現探求省大臣、下谷健太郎。人気絶頂の実力派のアイドル探索者だったが、表舞台から姿を消した池永純香。そして……」




 ──クリスマスの夕方ともなれば、電車の座席は全て埋まっている。立っている人もチラホラといるが、まだ混雑はしていない。

 ……一人の白い衣装に身を包んだ女性が、隣の扉付近に立ち、こちらをジッと見つめていた。

 傘を持っている。今夜は雨も雪も降らない予報のはずだが。

 彼女は持ち手を引き抜くと……刀が現れる。


「……っ⁉︎ 伏せろ‼︎」


 警告も虚しく、女は周囲を巻き込むのも厭わず、横から斬り払った。




「──武壱葉たけ ひとは。今は亡き、最恐の女剣士」

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