96.メリークリスマス‼︎♡クリスマス女子会開催♡
『『『メリークリスマス‼︎』』』
12月25日、12時15分。
配信トラブルで予定開始時間の正午から少し遅れて、生配信が始まった。
以前も言った通り、スタッフにはオーデュイ、下池、大城(豪華料理は中島が作ったものだが)の女性のみと、男性禁制のクリスマス女子会である。
ちなみにもう一人、新たに松實と三昌のバディとなった人も裏方として参加している。
「……はじめまして? ケホッ。この度松實・三昌探索官のサポートを? することとなりました
──ファンフェストの最終リハ中、舞台横でスーツ姿の女性と挨拶をした。
マスク着用。おでこには冷感シートと、明らかに体調が悪そうだった。
「マイマイのバディをしてます。東亮です。……あの、大丈夫ですか?」
「ええ。お気になさらず? ゲホッ、体調不良が続く怨呪にかかりまして……? もう十年も前のことですし、これで慣れてるので大丈ブハッ! ゲホッ、ゴホゴホゴボッ⁉︎」
気にするわ。あと、さっきから疑問符が頭の上に見えるのだが……。
松實たちの顔出しは【中身までかわいい!】と反響を呼び、色々と仕事が激増したために探求省が新しく派遣したみたいだ。もちろん、二人が政府の人間であることだけは未公表だが、多分世間は信じない。
永田から色々と引き継ぎされているらしいが……
「そういえば永田さんは?」
「ゴホッ、入院しました?」
「……原因は?」
「過労です?」
ああ……だろうな。
普段から3倍の仕事量。SS級異端者によるテロの発生。人員も減った中、対応していたらそりゃ倒れるか。俺の知っている人も亡くなったと聞く。
アキハバラダンジョンやこのテロを経て、世間に明るみになった異端者に対しての意見は二分している。
魔物と同じく討伐するべきだとか、人権を担保することが彼らの目的なんだと同情する意見。とりあえず国に責任を擦りつける者もいる。
まだ俺はヨナグニダンジョンの異端者とバレていないが、それも時間の問題だ。
どうすれば吾妻に悪影響を及ばないのか……考えた結果──
『──じゃーん! アオイ嬢! ちょっと遅れたけどお誕生日おめでとー!』
現在生配信はプレゼント交換会から、12月23日が誕生日の植山葵へのサプライズプレゼント会に変わっていた。
吾妻は、植山が大好きな抹茶をモチーフとしたキャラのモチモチぬいぐるみをプレゼントした。自分も欲しくてお揃いに2個買っている。加えて、本物の高級抹茶よくばりセットも一緒に渡した。
「すみません、わざわざ僕のお見舞いだなんて……いいんですか、生配信の方は?」
「ええ。完全女子会にはバディの私も行けませんから。オーデュイが全てやってくれますし、他の方々もいらっしゃいますから」
俺は約束までの空き時間、ようやく永田の元に見舞いに行けた。
「そうですね。松實たちが問題起こさなければいいのですが……」と、過労で倒れたにも関わらず、ベッドの中から彼女たちを心配していた。
「それと猛李王さんもありがとうございます。まさか来てくださるとは……」
「……構わない……今日は何があっても大丈夫なようフリーだからな」
赤色のニットと暗い紅色のズボンを着た猛李王さんは、大きな白い袋に入れて見えないようにしているが、大剣を携えていることが分かる。
不測の事態に備えて、変わり果てた東京の街を巡回しているのだろう。さすがです。
「大人な御二方に尋ねたいことがあるのですが……クリスマスに二人で会えばそれはデートですか」
「っ⁉︎ ……当然だ……‼︎」
「そんなもの、ねぇ⁉︎ 相手は吾妻さんですか。ですよね⁉︎」
永田も猛李王さんも思ったより食いつきの良い返事をした。
彼らはS級探索者まで上り詰めたことのある実力者だ。きっと、今も昔もモテているに違いない。
「女性の取り扱いに心得ているお二人にお聞きしたいのですが……」
「ナチュラルに煽ってます?」
「ぴえん」
「──相手を傷付けず、断る方法がありますか」
俺は……吾妻に告白されても付き合う、という選択肢を取るつもりはない。
「……意外ですね。お二人はお似合いだと思っていましたが、まさか振ろうとは。他に好きな人でも?」
「いえ……。ある意味、こちらも告白するつもりでした。──私は、本日をもってマイマイのバディを辞めようと考えています」
二人は豆鉄砲を喰らったような顔をした。
当然だ。話すのは彼らが初めて。決断してからは心が読める那緒子さんにも会わないようにはしていた。
「……何故だ」
「もう彼女は私がいなくても十二分に強くなりました。それにバディとして優秀なオーデュイもいます。私がいなくても活動できる。彼女を思うなら、私は側にいない方がいい」
もう既に2000万人を超えたファンが常に彼女を監視している。
アンチが極端に少ないことで有名なマイマイでも、男と撮られればと考えるとどうなるかは容易に想像できる。
だから最近は車移動や、必ずオーデュイを始めとした他の女性が共に行動するようにしている。
「……それは逃げだ」
だが、説明しても猛李王さんはしつこく食い下がってきた。
「……目の前の女性を幸せにするために側を離れる。否。たとえ爆発しても抱きしめて守ってやるのが、真の男だ。ビビって逃げたら、他の男に奪られるぞ。あと──」
……分かっている。猛李王さんの言う通りだ。
学校では宣戦布告されているし、吾妻がいる芸能界には国宝級のイケメンや、金を持て余した業界人が多く出入りしている。
吾妻が幸せなら……でも、これから彼女は俺に──
『そういうシャバいのはナシだぜ』
会話に割り込むように窓辺に立つのは、今話題のなしおやじだ。
いつもはすぐ逃げるが……
『今日はクリスマス。俺たちの出番ナシはナシだぜ』
振り返ると、病室の入口には別個体のなしおやじがいた。
さらに、廊下から、空から落ちてきたり、ベッドの下から這い出てきたりと、なしおやじがワラワラと出てきた。
その数ゆうに100を超える。
「なんですか⁉︎ この量は⁉︎」
あまりの数に病院内が騒然としている声が聴こえる。ここ以外にも大量発生しているのか。
なしおやじが同時に出現したことも、ここまで逃げずに滞在したことはない。
『ナシてこうなった?』
大量に進撃してくるなしおやじ。
一瞬にして囲まれてしまうが、猛李王さんが宝具を一振るいして道を切り拓く。
「……緊急事態」
「分かっています。宝具の使用許可は事後に取りましょう。はぁ、僕はまだ入院中の身ですよ……」
猛李王さんが永田を抱えて3階の窓から飛び降りたとしても、依然として大量のなしおやじから追いかけてくる。
すると、前から挟み込むように3人の姿が。
「危ないので離れてください!」と、猛李王さんから降りて自力で走り出す永田が注意するも──逃げない。
……⁉︎ 中央に立つあいつは……!
「──マイマイファンクラブゥ! 会員No.2‼︎ ルゥタン⭐︎こと
身長の低い女性が自分よりも何倍も長い槍をぶん回し、隣にいる男共を巻き込むのを臆せず攻撃する。男たちはいつものことのようにしゃがんで避ける。
「宝具:黒鷺」
左から襲いかかる槍は猛李王が大剣で防ぎ、弾き返す。
すぐさま岡野に詰め寄って、俺たちから彼女を引き剥がしてくれた。
「──マイマイファンクラブ。会員No.3。バババンガこと
ガタイの良い馬場はしゃがんだまま茶碗を地面に置き、サイコロを三つ振るう。
「出目は3のゾロ目。〈サンタのアラシ〉」
氷塊を巻き込んだ竜巻が襲いかかるが、それを永田が捻じ伏せる。
「はぁ、病み上がってもないんですよ。始末書は僕が書くというのに……。ただ座ったままでいいなら僕がその勝負引き受けますよ」
「運の無さそうな男だが、面白い」
そして真ん中に立つ、爽やかでいけ好かないイケメンなあの男も宝具を携えている。
「東さん! 決着付けましょうよ。どっちがマイマイにふさわしい男かどうかを──マイマイファンクラブNo.1、聖徒会長こと向井裕人。宝具:ベクトルアロー。僕たちを導く彼女を、僕が支えるんだ……!」
向井が放つ黒い矢印型の矢。
それを避けはするものの、後ろに迫っていたなしおやじ達に貫通する。
透過したようなので傷を負ったわけではないが、掠った魔物は全て後ろに飛ばされいった。
『傷付けるのはナシだぜぇぇー──』
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