【期間限定】クリスマスダンジョン

93.イマドキ高校生の恋愛事情って衝撃的⁉︎


「──えへへ〜、いやぁ〜そんなに褒めても何も出ないよ〜」


 今日も今日とてクラスメイト、他のクラスからも、さらには先生までもが参戦して、昼休みにはお弁当を食べる暇もないほどに吾妻はずっと褒められていた。

 世間で話題に上がるたびにいつもチヤホヤされているが、彼女は飽きもせず、素直に全て受け止めている。


「うぇへへへ〜」


 現在チャンネル登録者数2007万とんで216人──もう吾妻は四皇に加えて〝五皇〟だとか。野田、植山、松實と三昌のチャンネルを次世代の四皇にしようとか、彼女たちはネット上で持て囃されている。


「マイマイのクリスマス配信楽しみにしてるね!」「全部リアタイする!」「給料全てを赤スパするから……!」


 次の日曜日はクリスマスイブ。

 この日の夜は、先述したメンバーと共にクリスマス生配信を行う予定だ。

 完全女子会とするので、スタッフは下池と大城、それとオーデュイが参加する。


「わー! ありがとうー!」


 ニパァー! と笑顔で答える吾妻。

 その推しの顔にみんな多種多様な喜びを見せる。てか、教師が生徒に全額振り込むな。吾妻も止めろ。



「──ちょっと東、こっち来なさい」


 廊下から金子が俺を手招きした。

 あいつNewTubeFestで吾妻を目の前にして、よく生きて帰って来れたな。


「金子さんは吾妻の元に行かなくていいのか?」

「ええ。私はあんなミーハーたちと一緒じゃないの。私だけが舞莉の魅力を分かってるから。わざわざ近くで騒いだりしないの」


 ライブスタジオの後方で彼氏ヅラする厄介ファンかよ。

 まぁ、事実彼女が一番吾妻と交友関係が長いし、切り抜きマイマイとしてマイマイの活躍や可愛さを最大限に広報している人物だ。

 彼女のチャンネルも登録者数600万人を超えた。切り抜きチャンネルとしては驚異的な数字だ。


「それで、何のために俺を呼んだんだ」


「はぁ……」と金子は大きく溜息を吐く。


「……何だよ」

「東はほんと周り見れてないのね。舞莉しか見てなさすぎよ。危機管理能力が何もない」


 誰が言ってんだ。


「少し前、私が舞莉の親友だからって理由で恋愛相談されたのよ」

「恋愛相談?」

「ええ。さっきも聞こえてきたし、多分、まだその話で盛り上がってるはずよ。付いてきて。口を開くなよ」


 強い言葉で金子は一緒に来るよう命令する。

 連れてかれたのは、以前はよく会議場所として使用していた屋上入口に向かう階段だった。

 ……上から数人の男の話し声が聴こえる。


「──だから僕はね、決めたんだ。……吾妻さんに告白する」


 ……っ⁉︎

 告白だと……⁉︎ いや、そりゃ彼女は可愛いし、今の人気ぶりからは引く手数多なのは間違いない。

 ただ、その気を起こした人はもれなくを付けて、諦めさせてきたはずだった。


 ……あぁ、そうか。

 最近忙し過ぎて、吾妻だけでなく俺も登校できていないから、情報が一切入って来ず、この事態にまで発展してしまったのか。


向井むかいなら行けるっしょ。だって、昔からマイマイのファンだもんな」


 告白しようと策略しているのは、向井裕人むかい ひろと──マイマイ古参勢の一人〝hiroto〟だ。

 以前、他の友達と一緒にスタッフを志望してきたことがあったが、やはりそれが狙いだったか。

 かわいいーしか語彙力なく、スパチャもしない奴なんかに吾妻を渡してたまるか……!


「向井モテモテだからさー、マイマイ行くなら一人くらい恵んでくれよ〜」

「あはは、別にモテてないけどね」

「嫌味かよ、こいつー」

「だって、たった一人の好きな人に好かれなきゃ意味ないからね」

「「ふぅー‼︎」」

「モテ男の言うことはやっぱ違うなー!」

「やめてくれよ……!」


 ……そう、ただ一つ心配な点は、実は彼が学校一モテる男であるということだ。告白した人は数知れず。

 勉強も運動も優秀で、当然顔も認めたくないがカッコいい部類に入るんだろう。人間の基準は俺には分からないがな。

 優しくて、とても気配り上手……だからこそ、褒められただけでデレデレするほどチョロい吾妻なら、言葉を並び立てられるだけでイチコロだろう。

 それに彼は、最序盤に吾妻の魅力に気付いていた人物だ。


「向井ってさー、マイマイファンクラブの創設者だよなー」

「え……あ、あぁ。うん。そうだよ」

「いいのかよ、好きな人のファンクラブ作るとか。もう会員数1万人近いんだろ?」


 そういえばそんな非公式組織あった気がするな。他にもいくつもファンクラブの存在を確認しているが、向井の作ったものがいつの間にかここまでの規模に成長しているとは……。

 ちなみに金子はファンクラブに入らない。独占欲強めだからだ。


「まぁ、彼女の魅力を伝えることこそ、彼女のためになるからね」


 向井ははにかんで彼の友人に答える。


「お、もう彼女呼びかよ、おぃ〜」

「まだ代名詞だよ」

「まだっておい〜。……けどよ、東だっけ? あいつ編集とかでマイマイと距離近いんだろ? その二人がもう付き合ってるってことないか?」


 一人の男が、弁当のおかずをくちゃくちゃと音をたてて食べながら、疑問を呈した。

 それを別に注意することなく、向井はこう答えた。


「んー、別に問題視はしてないかな。だって前聞いた時、吾妻さんに興味ないからスタッフとして働かせてもらえてるって言ってたし。だから大丈夫だよ」


 ……何だろうな。

 別に男同士の会話なら全然ある話だし、別に特段としておかしなことを言っているわけではないが、今すぐに会話を中断させて一発ブン殴りたいなと個人的に思った。

 別に理由があるわけではないが……。


 一通り事態を把握した俺は、金子に「もう大丈夫だ」と小声で伝える。

 少しばかり移動して、こちらも作戦会議する。


「東。これで分かったでしょ。今、舞莉には魔の手が迫ってるのよ!」

「……あの手の男なら、腐るほどいる」

「でも、舞莉はチョロいのよ? このままじゃあんな男に奪われちゃう。私からしたらあんな奴、はぁ? って感じ。舞莉に相応しくない。狙った時点で極刑よ、極刑」


 かなり私情を挟んでいるが……俺もまぁ、同意見だった。


「……いい。私が男の中でも、一番マシ。ほんと、土下座したらギリギリ許さないでもない人は……東──あなただけよ。あなたはずっと舞莉を守ってきた。イズモダンジョンから時間をかけてでも連れて帰ってきたし、アキハバラダンジョンでの時だってそう」

「スタッフだから当然のことをしたまでだ」

「はぁぁ? 何、バカなの? そんな頭悪かったっけ?」

「さっきから何が言いたいんだ」

「舞莉が何であんなカメラ前で可愛いか分かる? 何であんなにニコニコできるか知ってる? 別に舞莉はプロだからとかじゃない──あなたが撮ってくれるから、あの子は笑ってられるのよ」

「……っ⁉︎」

「舞莉はレンズに笑いかけていない。あなたを見ているの。何千回映像を私は観たと思ってるの。切り抜きしていたら嫌でも気付くわよ」


 ……彼女自身に魅力と才能があるならば、一人でやっていたというNewTube時代に登録者数はもっと伸びていたはず。

 確かに今までも、彼女と目が合うことは多かった。

 その度に俺は──


「私は、舞莉のいいところをいっぱい見つけることができる。でも東は、私が見たことない舞莉をたくさん引き出してくれる。嫉妬するけど感謝してる。だからこそ……あなたももっとちゃんと舞莉を見てあげて。このままじゃ、本当に他の男に取られるわよ」


 彼女が幸せなら、いずれ誰と付き合うとも別によかった。

 けど、それは誰かじゃなくても──


「……俺が幸せにしてもいいのか」

「調子乗んな」


 突然、金子はビンタしてきた。


「あ、はい」

「でも、私は別にあなたは止めはしないわ。調子に乗って迎えに行きなさいよ」


 すると、向井のグループが教室に戻るためかこちらに歩いて来た。

 彼は俺を視界に捉えると、ほくそ笑んだような表情を浮かべる。


「吾妻さんは、僕が貰うね」


 すれ違いざまにそれだけ言って、彼は去っていった。


「……今の聞いた?」

「ああ……絶対許さん。あいつがその気なら、俺も本気で立ち向かってやるさ。彼女に手を出そうとしたことを後悔させてやる」


 吾妻の知らぬところで、聖夜決戦が行われようとしていた。



   ◇ ◇ ◇



「……あの、上手く行ったと思います。ソウシ様」


 放課後、向井が訪れたのはとある廃教会。

 半壊した巨大な十字架の前に堂々と座るのはSS級異端者──高嶺ソウシ。両脇にはイラミィとミッチーもいる。

 さらには長椅子には多くの人間が怯えながら座っていた。


「ご苦労さま〜──じゃ、始めちゃいますか。マイマイのラブラブ大作戦♡ みんな、マイマイのためなら命、賭けれるよね⁉︎」


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