92.NewTubeドリーム‼︎
NewTubeFestは幕を開ける。
50万もある座席チケットは即完売。
オンライン配信も大盛況。今年は海外からの接続も多く、同接が脅威の3000万を超えた。これは去年の倍、過去最高記録だ。
毎年大注目の大型イベントには、吾妻の親友で熱狂的な大ファンの金子が自力で高倍率のチケットを勝ち取り、会場に来ているらしい。
吾妻が出演するなんて情報は渡していないというのに、『今年マイマイが出ないわけないでしょ? で、いるんでしょそこに。ねぇ、舞莉いるんでしょ?』と連絡してきたので、そっと未読無視した。
「わぁ〜、あのアイドル可愛いね!」
数々の人気NewTuberやダンジョンストリーマーが出演し、様々な演目が繰り広げられる中、吾妻が注目したのは6人組のアイドルグループだった。
見たことないグループだが、吾妻がお気に召したようなのでちょっと調べてみるか……。
〝ハイスクールサイレン〟──略称〝ハイサイ〟
カイキンなど四皇が所属するNewTuber事務所
グループ名に制服風の衣装。高校の生徒会をモチーフとしている。
歌唱力があるだけでなく、グループのお笑い担当として動画のMCも行う〝庶務〟
セクシーお姉さん的担当。女優としても活躍の幅を広げてきている〝風紀〟
ボーイッシュ系女子。スケジュール管理や交渉術にも長けておりグループを裏からも支える〝会計〟
全人類の妹キャラ。イラストレーターとしての顔も持つ〝書記〟
クールに見えるがちょっぴりおバカ。モデルとしての名も売り出し中の〝副会長〟
『みんな! まだまだイベント楽しんでいきましょう!』
そして、絶対的エース。誰にも譲らない拘りを持ち、それらを圧倒的な実力で周囲を黙らせる〝生徒会長〟
以上、6名がハイサイのメンバーだ。
「いつかコラボしてみたいかも!」と吾妻が動画内かで話題に出せば、すぐその話が舞い込んで来る。だから先に知っておいて良いだろう。
てか、もう言ってるし。
「さて、そろそろ出番だぞ。準備できてるか?」
「おぉ⁉︎ もうそんな時間⁉︎」
メイクと衣装をバッチリ決めた吾妻は、楽屋を出て行こうとするが、ドアノブに手をかけたところで振り返った。
「どうした、忘れ物か?」
「うん。……ねぇねぇ、亮くん。わたしかわいい?」
「……っ……。あぁ、もちろんだ」
「むー」
「……世界一かわいいよ。だから自信持って行ってこい」
「むふふ〜。自信はいっつも持ち歩いてるよ!」
「マイマイー、スタッフさんが呼んで……おぉ、マイマイかわいいー!」と、オーデュイが扉を開けて楽屋へと入ってきた。
彼女には今回、本番当日の現場を色々と任せていた。男が吾妻の側で常にうろついてると、他の出演者やスタッフから変に噂を立てられても困るからだ。
だから、今日は楽屋に引きこもって色々と事務作業、編集に勤しんでいたが……今の会話、誰かに聞かれてたら一発アウトだったな。
「行ってきまーす‼︎」
笑顔でこちらに敬礼して、オーデュイと一緒に吾妻はステージ裏へと向かった。
……俺も少ししたら舞台袖までは行くか。
◇ ◇ ◇
「……大丈夫。私たちがバレるわけない、今までもそうだったもの……」
「──じーっ、だいじょぶ?」
「きゃっ⁉︎ ……え、マイマイ⁉︎ フェストに来てたんだ……」
舞台袖で緊張している女性に、吾妻は話しかけた。
「マイマーイ、そっちじゃなくてこっちだよー」とオーデュイが呼んでいるように、本来の待機場所とは間違えているようだ。
「あ、ごめ〜ん。じゃあ、わたしあっちだ! またね〜」
「あっ……待ってマイマイさん!」
「えへへー、さん付けだなんて照れるな〜、なになに〜?」
「……マイマイさんほどの実力者の方にお聞きしたいです。あたしたちは似ていますか……?」
彼女たちはチャンネル登録者数33万人のタルムラツインズの二人だ。
吾妻は即答で答える。
「うん! 双子ちゃん⁉︎ すっごく似てるね!」
「……ありがとうございました。自信が持てました」
吾妻の言葉に少しだけ笑顔を取り戻した彼女たちは、急上昇中のダンジョンストリーマーの括りとして、舞台へと出ていった。
◇ ◇ ◇
いよいよか……。
四皇のカイキンと、同じくダンジョンストリーマーである彼の兄ジョウキンの二人が、MCとしてダンジョンストリーマーたちを紹介、企画していく。
その大トリに任されたのが吾妻たちだ。
『──実は、このNewTubeFestに……スペシャルゲストが来ています! こいつらだぁー!』
照明の光が落ち、会場が期待に包まれる中、一つの映像が流れた。
『こんマイリー♪ マイマイです!』
彼女の挨拶映像に、観客が一気に沸き立つ。
そこから流れるのは彼女の軌跡……これは運営に頼まれて俺が編集しまとめたもの。だから最近の仕事はオーデュイに任せることも多かった。
映像が終わり、ボルテージが最高潮となった瞬間、軽快な音楽と共に舞台後方のステージがせり上がる。
舞台上手からユッキー、カナデ、マイマイ、えりにゃん、アオイ嬢の五人の姿が。これを機にとっくにバレてはいたが、ユキカナチャンネルの中の人の素顔を公式に明かすことになった。
さらに沸き立つ観衆。後でネットニュースにもなっていたが、気を失った人もちらほらといるらしい。……心当たりある人物が一人いるが。
……まぁ、そこからは後ろの画面に表示されるトークテーマを元にMCが場を回すトークライブとなった。
『最近買った高額商品は?』や『強すぎて二度と戦いたくない魔物は?』など、彼女たちの更なるプライベートを引き出す度に会場は盛り上がる。
トレンドにも上がるくらい特に話題になったのが──最後から二つ目に質問された、恋愛に関したもの。
『ぶっちゃけ……モテちゃう?』
この質問に女子会のノリでみんなソワソワし出すが、松實が答えを切り拓いて行った。
『ワタシはモテるよ! いや〜、モテすぎてさんしょーちゃんに嫉妬されちゃうんだよな〜』
『うるせぇ! 私の方がモテるわ‼︎』
『では、好きな人はいたりするの?』という質問には、植山がまず当てられる。
『わたくしにそのようなお方はいらっしゃりません。今は活動に精一杯ですから』
『アタシも同じかにゃ〜。ダンジョンを探索するのって命懸けなわけだし、彼氏にゃんて作ってる場合じゃにゃいも〜ん』
野田は嘘をついている。彼女には元カレが何人かいたはずだ。
同じ舞台袖、隣でうんうんと頷く下池がいるが、破局になった原因は全てこいつだろう。
そして、最後は吾妻に話が振られた。
適当に話を流すだろう、と思っていたが、俺の存在に気付いたのか、彼女は突然こちらに目を合わせる。
『……います。わたしは好きな人いるよ』
予想外の答えに会場はどよめく。
『え、その人どんな人なの⁉︎』
『……えっと、優しくて、いつも見守ってくれてて、時には厳しいことも言うけれど、ずっと味方でいてくれる。それに、かわいいって言ってくれる』
『マイマイ、アンタ……』
『そう! それはファンのみんなのことだー‼︎』
沈黙からの大歓声。
全く何を言い出すのかと思ったが、ヒヤヒヤしたぞ……。
「──東さん、ドキドキしてませんでしたか?」
隣にいた下池が話しかける。
「いえ、決してそんなことは……」
「……わたし、ずっと考えてたんです。アキハバラダンジョンで、完全攻略されたはずのわたしが、何故消えずにいるのか」
藤岡に告げられた異端者としての謎。
あの件以降に、俺も話には聞いていたが原因はよく分からないままだった。
しかし、彼女なりに答えを見つけた。
「わたしは絵里奈のことが大好きです。今までも、これからも一緒にいたい。だから絵里奈を置いて消えることはできないのかなって」
「愛があるから……なんて、物語の典型的な答えみたいなことですか」
「イジメも復讐も、戦争だって。最初はいつも愛を与えるために、愛が欲しくて起きてるものばかりじゃないですか。人として何か欠けているわたしたちが求めているのは、それなのかもしれません。答えは思ってるよりも単純だったのかもって」
世界は、要素が複雑に絡まってできている。
けれど、俺たちの存在がそんな単純なものであるならば、もっと気楽に生きてもいいかもしれない。
……それでも、俺は──
最後の演目は、出演したNewTuberが大集合して、NewTubeオリジナルの曲を大合唱。
吾妻は数少ないマイクを持たせてもらったので、彼女の歌声が直接全世界に届いた。
天使のようなモチモチとした歌声に魅了された人も多いはずだ。
このイベント後、チャンネル登録者数はさらに伸び、2000万人を超えた。
ひとまず無事にイベントは終えた。
しばらくすれば、また彼女に日常が訪れる。
俺もまた彼女と共に、いつもの日々に戻るだけのはずだが……そう上手く事が進むわけはなかった。
──世間はクリスマス一色となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます