91.子育ての極意!それは……いっぱい褒めること〜♫


「ワー! ネズミート、ネミーダ‼︎」


 ネズミーランドのキャラクター達と会えるエリアに連れて行くと、そこで三人娘は着ぐるみに抱きつき、そして写真も撮ってもらった。

 ネズミーランドはトイレであっても世界観が崩れないよう作り込まれているので、どこでも写真映えスポットになる。

 ……今日だけで、彼女たちの写真が千枚を越えた。撮りすぎただろうか。いや、成長し行く我が子を収めるなら、これくらい当然か。

 ……別に我が子でもないが。


 年齢身長制限のないアトラクションに並んでいる間は、動画を観せて暇を潰させる令和なりの子育て法で、彼女たちがワガママを言うのを防ぐ。

 他の並ぶ人たちもほとんどがスマホと睨めっこしている。友達と会話しながらでもスマホ操作するのが今では当たり前だ。

 その中でももう15年以上も席巻し続けるダンジョン配信というジャンル。世界にもダンジョンができたわけだから、人気と話題性は更に加速している。


 チラ見え程度だが、吾妻の動画を視聴している人もいくらかいた。まさか本人が隣で今、3歳児こんなことになってるとは誰も想像できないだろうな。

 変装しようとも吾妻のオーラはバレる(というよりうるさい)ので、こう言う時にしかネズミーランドには来れない。


「リョウクン! ダコチテ-‼︎」

「……はいはい」


 立つのが疲れたのか、吾妻は俺に抱っこしろとせがむので、叶えてあげる。そうしないと満足せず、戻らないかもしれないからな。

 まだまだ並びそうだ。クリスマスシーズンだからだろうか。平日にも関わらず人が多い。


「リョウクンヘンナカオー」


 ネズミ耳のカチューシャに、今の時期にお似合いの、白くてたくましい髭が付いたサングラスをかけた俺の顔を見て、吾妻は笑った。

 動画に顔出ししたことのある下池とオーデュイもそれなりに変装している。コアなファンになら俺たちでもバレてしまうので念のためにだ。



『ガオ〜』


「イヤァァァ‼︎ ウェーン、ゴワイィィ‼︎」


 俺たちが今並んでいるのは、ホラー系のアトラクション。といっても小さい子供向けの、可愛らしいお化けがイタズラするテーマのライドアトラクションだ。

 しかし植山は、並ぶのに飽きさせないために演出された仕掛けにすらもビビって泣いてしまった。


「わわ、チビアオイ大丈夫⁉︎」

「ムリー! ノリタクナイィ‼︎」


「よしよし」と、オーデュイはチビアオイを抱っこしてあやしてあげる。


「亮くん、夏菜ちゃん。チビアオイ怖いみたいだから、ワタシたちは外で待ってるよ」

「いいのか?」

「うん♪ 待ってる間ブラブラ冒険してるよ〜!」


 チビアオイはオーデュイに一番懐いている。彼女がそばにいてあげるのが最善手だろう。

「グスン」とチビアオイは抱きついたまま離れず。オーデュイは俺たちに手を振って一時の別れを告げた。


「……ねぇ、チビエリナ。もし疲れたら私が抱っこするよ?」

「イイ。イラナイ」

「あぅ……」


 ……下池も泣きそうだ。

 チビたちの世話はまだ続く。



   ◇ ◇ ◇



「ねぇ、ニンゲン多くない? 前の奴らやっちゃいなぁ〜?」

「いけませんよソウシ様。今、騒ぎを起こしてしまえば、せっかく考えなさった策が実行できなくなるかもしれませんよ。それに朗報です。先程調べたところ、大人でもプリンセスドレスが着れるお店を見つけ致しました」

「ま⁉︎ それ、ま⁉︎」

「まです」


 高嶺がイラミィと興奮して喋っている中、ミッチーは「ナイグッ……‼︎」とか言って、変わらず自撮りしている。


「ソウシ絶対『美女と四十肩』のヘルになるから。絶対なるから!」

「ソウシ様ならヘルの可愛さを余裕で超えられますよ」

「あんた、分かってるわね。褒めてつかわしてあげちゃう」


 そんなイズモ組の会話に混じることなく、河遺は背負うリュックサックの中から取り出した、ネズミーランドのトラベル雑誌を隅々まで読んでいた。


「つまんないなー。並ぶのしんどい。何人かやっちゃダメ?」

「自分、直接手をかけるのはあまり好みではない。それにまた閉園されると観光できなくて困る。明日以降で頼む」

「各地で戦争を起こしてる奴の言葉とは思えないなー」

「自分は厳冬を呼んだだけだ。農作物がダメになり、港が凍って船を出せなくなり、インフラが死に何もできなくなって人々は貧しくなる……すると、潤沢な地を求めていつも争いを始めるのさ。ふっ……とても愚かしいだろ。そしてまた歴史が生まれるのを自分はとても楽しみにしているんだ」

「うわ、サイコ」

「誰が言ってるんだ」

「サイコより、最高なことをしようよ。ちょっと私遊びに行ってくる」


 列を仕切るガイドポールの鎖を、曰西は跨いでいく。


「あら? 戻ってきても列に戻してあげないからねっ!」

「大丈夫。あんた達はもう乗れるから」


 すると、高嶺たちの前を並んでいた人々が次々と、アトラクションに乗るのが怖いだとか、並んでいるとトイレに行きたくなって嫌だとか様々なトラウマを思い出し、徐々に曰西に続いて出て行った。


「お、私パレードを指揮してるみたい」



   ◇ ◇ ◇



「チビアオイもう元気だね!」

「ウン…!」


 オーデュイはチビアオイの機嫌が治るまで、手を繋いで園内を散策していた。


「…ッ!」

「えっ⁉︎ チビアオイ⁉︎」


 子育てあるある、子供が突如飛び出していくように、チビアオイもいきなり走り出す。

 あまりの唐突さにオーデュイはビックリしてしまう。

 このままでは逸れる……だが、人が多い。すぐに誰かの膝に顔面をぶつけると、チビアオイはまた泣いてしまった。


「もうチビアオイったら! ごめんなさい! ケガしてないですか?」

「──大丈夫だよ。この子こそケガしてなーい?」


 顔に当たったもののチビアオイに怪我はなさそうなので、オーデュイは「大丈夫です!」と答えた。


「そう、良かった。この子のトラウマにならなくて。……でも、誰かを怪我させては取り返しが付かないの。絶対に忘れてもいけないわ。もちろん、親のあなたもね」

「…ウン」

「あはは、ワタシ実は親じゃ……あれ? どこかで見たことが……」

「そう? 私はぁ……ふふ、初対面だよ。じゃあ、またね」


 ベージュ色の服を着た女性は手を振って立ち去る。

 チビアオイも同じく手を振った。


「んん? やっぱりあったことある気がするんだけどな〜。お?」


 思い出せないオーデュイの元に、『今、どこにいる?』と東からチャットが入る。

 今度は手放さないように、オーデュイはしっかりとチビアオイと手を繋いでから、みんなのところへ戻った。



   ◇ ◇ ◇



「リョウクンミテ-! キラキラ~‼︎」

「そうだな」


 色々なアトラクションを回り、キャラクターたちと触れ合い、割高でも美味しいご飯を食べた。

 フィナーレに、毎晩行われているエレクトリカルパレードを観た。

 これでネズミーランドを存分に満喫したことだろう。

「ネムイ…」と三人はそれぞれ寝てしまい、各自おんぶしてあげる。


 園を出て駐車場へ向かうと、中島の運転で付き人たちが迎えに来ていた。


「どうやら満足されたようですね。池永様が仰っていた話ですと、寝てから五分後に元に戻るだとか」

「お嬢様方。元のサイズの服でございます」


 大城が車の中で三人を瞬時に着せ替えてあげる。

 ネズミーランドから上がる最初の花火に合わせて、三人はポンッと元に戻った。


「もうチビエリナに会えないなんて……。あの宝具ってフェスト後、売り出しますか?」

「……そ、それは池永様に聞いてみないことには……」


 下池が何やら怖いことを保科に聞いているが、関わらないでおこう。



「……んー、あれ、ここどこ〜? ふぁぁ……」


 花火の音に起きたのか、吾妻があくびしながら車から降りて来た。


「ネズミーランドの駐車場だ」

「えっ……⁉︎ ネズミーランドに来たの〜! って、もう夜じゃん!」


 どうやら子供の時の記憶はないみたいだ。まぁ、現実でもその当時を覚えている人なんてほとんどいないか。


「これから帰ってリハーサルだぞ。向こうの責任もあるから待ってくれてるけど、かなり押してるから早く戻ろう」

「えー、何も覚えてないけど分かったよぉ……。ネズミーランドで遊びたかったな〜」

「また一緒に来よう。ちゃんと変装してだけどな」

「ほんと⁉︎ へへ〜、約束だよ!」

「ああ。……え?」

「ん……あれ?」


 たとえ覚えていなくても、小さい頃の習慣というのはずっと身に付いたままだったりする。

 例えば、幼い頃から両親のことをパパママと呼べば、大人になっても変わらないように──


「わたしって、亮くんのこと亮くんって呼んでたっけ……?」

「いや……。……まぁ、好きに呼べばいい」

「……っ! ──えへへ〜、じゃあ亮くんって呼ぶ〜」


 ただ、下の名前で呼ばれているだけなのに、照れながらも嬉しい……気がする。


 ……っ、とにかくだ。俺たちは急ぎ幕張へと戻ってから、深夜を通してリハーサルを実施することとなった。

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