90.とっておきの魔法で、キラキラのパーク体験を!
「モフモフ‼︎ イイオトナダ!」
吾妻、改めチビマイリはモフモフのぬいぐるみで簡単に籠絡した。
「スヤァ…」とすぐに眠りについたし、それに釣られてチビエリナもチビアオイも寄り添って寝てしまった。
寝る子は育つ。だから小さい子供はよく寝る。
寝ているチビエリナの頭を下池はそっと撫でて「この子はうちで育てます」と一筋の涙を流しながら喋っているが、一旦無視しておこう。
「責任者の方を連れて参りました」
大城は
「いっけね、やっちまいました」
随分軽いな、おい。
彼女は大型イベントを取り仕切る者ではあるが、結構抜けてることが多くてミスが多い。何度か一緒に仕事していてもそう思う。吾妻を招待したのも彼女によるものだ。
まぁ、人望はあるので周りが何とかしてくれる。というより、手伝いという名目で勝手に色々と動いてくれてるので、今までも上手く行ってきた人だ。
ちなみに彼女は引退したダンジョンストリーマー。元A級探索者だ。非公式ランキングでも、松實たちが現れる前は最高A級1位にランクインするほどの実力者であった。
現在は一線を退き、次世代の支援と育成を手掛けている。
「すみません〜。これはわたしのミスですね。ミスミス。でも安心してください。実はちゃんと戻る方法があるんですよ」
「罰ゲームとして使いますからね。そりゃ、あるでしょうよ」
「確かにそうですね。じゃあ、伝えなくて良かったか。ミスミス」
「で、どうすればいいんですか」と、俺が問いただすと、池永はグッと親指を立ててこう言った。
「満足するまで全力で遊ぶこと!」
**
「ワァ…ネズミーランドダー‼︎」
現実から乖離された世界──夢の国ネズミーランド。
世界的人気のネズミーとその仲間達。そして、多くのネズミー映画の世界がこの遊園地には広がっている。
先のアキハバラダンジョンの影響で、安全と点検のためしばらく閉園していたが、つい先週営業が再開された。
チビマイリたちに何して遊びたいか聞いたところ「「「ネズミーランド‼︎」」」と即刻返事。
高速を使えば車で20分ほど。行ける距離だったので、要望に応えることにした。
この願いが果たせれば元に戻る、かもしれない。
リハーサルもまだ何も終わっていない。明日には他の演者も参加するし、明後日は本番だ。早々に満足させないとだな……。
「では東様、下池様、オーデュイ様。葵お嬢様をどうかよろしくお願い致します」
植山の付き人たちは、いつ三人が戻っても大丈夫なように他の準備を全て進行してもらうことになった。
あの人たちなら大丈夫だ。本当に頭が上がらない。
「絵里奈、私から離れちゃダメだよ」
「フン! イワレナクテモワカッテルワヨ!」
「かわいい……」
下池は自分のバディと手を繋ぎ、もう片方の手でずっと動画を撮り続ける。野田にとっての黒歴史になりそうだ。
「葵嬢はどこに行きたいー?」
「…アルクトコ」
そうか。植山の3歳の時の記憶では、白湯華を使う遥か前、まだ歩けない状態だったか。
混乱しているだろうが、自由に動けることに喜びを感じているんだろう。植山の方がオーデュイの手を引いて、その場をクルクル歩いていた。
そして、吾妻担当の俺は彼女を肩車していた。
「アソコー! ネズミープリンセス! ナリタイ-‼︎」
と、俺の髪を引っ張って入園口近くの店を指す。
ネズミープリンセスのドレスを着た女の子が店内から出て来た。きっとあの店で憧れのプリンセスに変身して、園内を巡ろうというものだ。
今のこの子達にはほとんどのアトラクションには乗れないため、こういったもので彼女たちを満足させるしかない。
結構高額だが、人気ダンジョンストリーマーの収入からしたら、雀の涙だ。俺たちはその店に入って、三人のプリンセスドレスを選ぶこととなった。
◇ ◇ ◇
「──ネズミーランド〜♡ 来ちゃったイェ〜イ」
街中なら目立つ彼らも、ここならテンションの高い若者のとして溶け込むことができる五人組が入園してきた。
「ソウシ様。あちらにプリンセスになれるお店があるみたいですよ」
「マジ⁉︎ 行くわよ」
SS級異端者、高嶺ソウシが自撮り棒を使って五人で写真を撮ると、彼が作り出したイラミィが入園口近くの店を指す。
天使の羽が生えていたイラミィとミッチーだったが、現在はしまっており、全身白色のコーデで人間のふりをしていた。
「あー、でも小学生以下しか無理みたいだよー?」
そして、同じSS級異端者、曰西と河遺も共に訪れていた。
河遺はいつも通りの灰色パーカー。曰西はベージュ色のサロペットスカートを着用していた。
そして全員ネズミーキャラクターのカチューシャを装着済みだ。
「ソウシ小学生の心持ってるからいけるってことね」
「見た目大人じゃーん」
「はぁ? リオチーそういうこと言うんだ。ソウシの心は傷付いた。イラミィ、ミッチー。やっちゃいな?」
「お、やっちゃう?」
高嶺とイラミィが、笑ったフリをする曰西と睨み合うも、河遺が制止する。
「ここでは止めておこう。自分、まだここを観光していないので。せめて終わってからで」
「たしかにー。ソウシもネズミーランド無くなったら困るわん。あんた命拾いしたわね。あとで表出な〜?」
「ほんと、ムカついちゃうわ。ぷんぷん」
「うわっ、マネするんだけどこの女〜。ソウシもっと可愛いんだけど!」
曰西が高嶺を真似て、頬を膨らませながら地団駄を踏むと、彼もまた彼女に真似て同じことをする。
「ソウシ様。プライオリティパスの時間が迫っております。急ぎましょう」
イラミィがスマホで有料取得していた、アトラクションに並ばず乗れる優先チケットがあるので、彼らはさっさと目的地に向かった。
……ただ、イラミィはさっきの場所にまた戻ってきて、さっきからずっと自撮り写真を撮り続けていたミッチーに声をかける。
「……ナルシストも早く来てください。置いていきますよ」
「ソロソロさ。ボクちんの写真集ができるんだZE⭐︎」
「わー、鍋敷きの代わりにはなりそうですねー」
「購入ありがとサンキュー⭐︎」
◇ ◇ ◇
「ミテミテ-! オヒメサマ-!」
吾妻じゃなくてチビマイリが選んだのはアニメーション映画『ヤンデレラ』のプリンセス、ヤンデレラ。
3歳児サイズの、見ていると重い気持ちになりそうな水色のドレスだが、吾妻が着るとそれがとても明るく見える。
「絵里奈可愛い‼︎」
「葵嬢似合ってるよー!」
そして、野田ではなくチビエリナは『アイジン』のプリンセス、キスミン。
エメラルドグリーンなアラビアンドレス。おへそが覗くくらいにちょっとだけお腹の部分が空いている。
植山は……チビアオイか。彼女は『不思議の国のアリスコンプレックス』のヒロイン、アリスコのオーシャンブルー色のエプロンドレスだ。黒のリボンカチューシャも可愛らしい。
みんな寒色系だな。てか、ネズミー作品は何故揃いも揃って題材が暗くて重いんだ。
「ンー」
「ん? どうしたチビマイリ」
「ワタシニハ~?」
「え……あぁ。とても似合ってるぞ、かわいいな」
「エヘヘ-」
……小さい彼女なら、まだこうして面と向かって言っても照れはしないか。
というよりも、彼女と過ごす日々が重なるにつれて、素直に言えなくなってしまっている。
「アリガト! エットエット…」
「どうした?」
「ナマエ…」
あぁ、そうか。まだチビマイリには名乗ってなかったな。
記憶が3歳当時までに戻っているから、俺の名前を知るわけがないか。
「東だ」
「アヌ…マナ? アウ、アウマ」
幼児にはこの名前が言いづらいのか、かなり苦戦している。
音だけで言ったら彼女とほぼ名字一緒なんだけどな。
「東って難しいんだから下の名前で呼んでもらいなよ!」
歩き回るチビアオイと手を繋ぎ、腕だけがにょいーんと伸びているオーデュイが、そうアドバイスする。
「そうだな……亮。亮って名前だ」
「リョ-ウ? リョウクン‼︎ ワカッター! エヘヘ-、リョウクンスキー」
……っ⁉︎
一瞬だが、また気を失っていたのか⁉︎
何者かが園内に潜んでいて、俺たちを狙っている……わけないか。
分かってるよ、原因くらい。
下池もチビエリナに対して同じこと起きているし、オーデュイはチビアオイにモチモチされて遊ばれている。
俺だけでもしっかりしないといけないが……もう、どうにもならないくらい既に苦戦を強いられていた。
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