第八部 盛り上げマイマイ
チバダンジョン
88.最近のホラゲはリアル過ぎて笑う
「──ねぇ、オーデュイ。ちょっとこっち来にゃさいよ」
それはセブダンジョンの頃に遡る。
ニンゲンフォルムを手にしたオーデュイはみんなとひとしきり遊んだ後、吾妻たちが水分補給している間に、野田に小屋裏へと呼ばれた。
隣には植山もいる。
「どしたのー、えりにゃん。それに葵嬢まで」
「オーデュイ、すっごくかわいいじゃん。ちょーいい感じ」
「えへへー、照れるな〜」
「ええ、とても美しいですわ。ところで、一つお聞きしたいことがあるのですが……」
「ん? なになにー?」
オーデュイの気を良くさせたところで、二人は早速本題に入る。
「オーデュイってさ、好きな人とかいんの?」
「是非ともお聞きしたいですわ」
「好きな……人? うーん、そーゆのあんまり考えたことないな〜」
「本当にいにゃいのね⁉︎」
何故か圧の強い野田と植山──
オーデュイは何か察した様子で二人に問う。
「もしかして二人って亮くんのこと──」
「あ、それは全然にゃい」
「あ、それは全然ないですわ」
「ええっ⁉︎」
オーデュイはニンゲンの姿をしているが、頭から水色の〝⁉︎〟を生やした。
「ま、別にいにゃいなら大丈夫よ」
「オーデュイさんですら、名前呼びですというのに、あの御二方はまだ苗字呼び……かなり遅れていますわね」
「あっ! もしかして亮くんとマイマイをくっつけようとしてる?」
「「しーっ、しーっ!」」
ようやく真実を察知したオーデュイが大きな声を上げると、二人は静かにするよう鎮めた。
周りには気付かれていない。もっとも下池と植山の付き人たちは今彼女たちが何しているかは把握済みだが。
「だってオーデュイも見てて思わにゃい? あの二人の何とも言えにゃい関係性……! こっちは見ててむず痒いのよ!」
「あー、ワタシも最初、二人は付き合ってるもんだと思ってたよー。でも、付き合ったらマズいんじゃないの? だってマイマイは人気ダンジョンストリーマーだよ」
「もちろん、承知の上です。しかし、何と言いますか……お付き合いされたとしても、あまり変わらないと思います」
「むしろ、今のままの関係性の方が、付き合ってにゃいから逆に距離が近いのよ。マイマイは基本距離感バグってるし、マネージャーの方はマイマイにメロメロでしょ? それならいっそ、二人は恋人関係ににゃった方が、動画でもプライベートでも気を付けるでしょ?」
「ほほーん?」とオーデュイは何となく納得した。
確かに二人は想いあっているのは間違いない。特に、あまり感情を表に出さない東亮が吾妻舞莉の水着を目の前にして、明らかに照れていた。と、オーデュイは見ていて思っていた。
「あと、にゃによりマイマイが幸せにゃ方がいいでしょ」
「「間違いない」」
「にゃら決まりね。オーデュイも手伝って」
「もちろーん! マイマイラブラブ大作戦だね!」
「
その後、三人はお節介なことにグループチャットまで作って、どうしようかと勝手に作戦を立てていた。
期限は来たるクリスマス。
そう、そこで取った作戦が〝オーデュイが告白することで二人に危機感を抱かせる〟だった。
偽告白をした夜、オーデュイは早速チャットで作戦実行したことを報告する。
『──亮くんには、返事は全然後でいいよーって言っておいた!』
『万が一に、了承された場合どうなさるのですか?』
『え。考えてなかったや。まー、返事待たせる男は嫌だ。やっぱいいやって言うよ!』
『にゃんか、嫌われ役させてごめん』
『全然いいよ〜。それにそんなことはないと思う! 告白した時の二人、どんな反応したか分かる??』
?のスタンプを野田と植山は送る。
『なんとお互いに見つめ合ってた!』
『脈ありじゃにゃいの』
今度はオーデュイが確カニ! と蟹のスタンプを送った。
『そういえば、マイマイさんのお母様の前で告白されたのですね……?』
『うん。マイマイママは心読めるからすぐに作戦バレちゃった。あまり首突っ込み過ぎないようにって怒られちゃった。けど、』
『けど?』
『見逃してくれるって。マイマイママも考えてることは同じだった』
『気のせいでもにゃく確定ね』
これで別に好きではないのにくっつけるという最悪な結末にはならなさそうだ。
続報はまたオーデュイに任せることになった。
『では、わたくしはこれから撮影ですので抜けますわね』
『夜なのにこれから撮影?』
『ええ。こちらはまだお昼ですので──』
「お嬢様。他の方々の準備も整いました」
「ありがとう爺や」
「随分と楽しそうでございますね」
「ええ。女の子はいくつになっても、恋バナが大好きですから」
「ほほ、そうですか……えぇ⁉︎ お、お嬢様……恋を……⁉︎」
保科は血反吐を吐いた。
「わたくしじゃありませんよ⁉︎」
「そ、そうですか……爺や、安心しましたよ。たくさんの縁談の中からどなたかお選びになったのかと……」
「有り得ませんわよ。わたくし自身、そのような気持ちを抱くことはありませんから。他の方のお話をお聞きするだけでとても楽しいですわ」
「……ふむ、そうでございますか。それもまた爺やは寂しい気持ちになってしまいます。お父様もきっと……」
「その話はまたにいたしましょう。皆様を待たせております。行きますわよ」
「……かしこまりました」
**
『──ごきげんよう、紳士淑女の皆様。本日もわたくし達の動画を観ていただき誠に感謝いたしますわ。さて、本日は日本を飛び出して、ニューヨークダンジョンへと赴きました。今回は世界の御令嬢とのコラボ配信ですわ』
レンガの壁にはグラフィティ。あちこちに昔の車が放置され、誰もいないのに煙は上がるダウンタウンの景色。ここがニューヨークダンジョンだ。
その内の一つ、とある五階建ての建物の屋上でティーパーティーの会場が開かれていた。
世界各地から訪れたお嬢様とその従者が一堂に会していた。
植山から時計回りに、一組ずつ自己紹介をしていく。
『ハーイ。ワタシはパルファン.D.リッチ。こっちはメイドのマリー・オールド。よろしくね〜』
アメリカの令嬢である彼女は、派手な赤いドレスに価値の高いアクセサリー、高貴な香水で身を包むなど、とにかく高級ブランドで固まっていた。
対して、メイドのマリーは素朴な、とても小柄な女性だった。内気なのか、挨拶はペコリとだけ済ませている。
何故かこの場にはそぐわない麦わら帽子を、とても大切そうに被っていた。
『英国から参りました、マーチ・ブリッジスと申します。こちらがワタクシの護衛、チェリー・フロントでございます』
『押忍! チェリー・フロントっす! 押忍!』
『おほほ。チェリーは日本が大好きで、柔道や剣道などの武道だけでなく、茶道も嗜まれておりますの』
『まぁ……! わたくしと話が合いそうですわね』
イギリスの令嬢であるマーチ・ブリッジスは、金色の髪で塔が頭上に建立されていた。令和とは、いや海外に元号など通じないが、とにかく時代錯誤ないわゆる中世の姫君であった。
『押忍っ! 葵お嬢様にそう言っていただき光栄です! うちは将来、絶対ニンジャになります! 押忍っ‼︎』
対して、柔道着を着用したチェリー。
とにかく元気いっぱい張り切っていた。
『では、最後は私ですね。ハルカマ・ツィです。私はインドネシアの方から来ました。こちらは、執事のロニー』
『ハハ、ヨロシクデスヨー』
アジアンテイストな衣装を着た、褐色肌の二人。
ハルカマはとても大人びているが、齢16の、日本で言う高校二年生。吾妻と同い年になる。
なので法律上、明るいロニーが必ずダンジョンには同行している。
ダンジョン内であれば、言語の壁などない。
世界のお嬢様による優雅なティーパーティーが行われた。
……会話内容は今回割愛させていただくが、この動画で一番リプレイ再生数が多かったのは、ニューヨークダンジョン攻略のある瞬間であった。
それがこちらだ。
『──こちらでは、どのような冒険が待ってるのでしょう。ふふ、楽しみですわね。宝具はきっとアメリカらしいものなのでしょうね』
『NYダンジョンは簡単じゃないわよ。ほら、モンスター来た』
一行の前に、地面から出現するのは大量の──ゾンビ。
腐った死体を這わせて、生者の気配を感じ取れば本能のままにやって来る。
『一度でも傷付けられれば、ワタクシたちはジ・エンド……。慎重にいかないといけませんわね』
『ぜひともアオイ様のご活躍を……ん?』
『いやあぁぁぁ⁉︎ ゾンビィ⁉︎ うぇぇぇん‼︎ 怖いよぉ、爺やぁぁ⁉︎』
初対面のコラボ相手、さらにはカメラを前にして、ホラーが大の苦手な植山は大泣きしてしまった。
「ゾンビは幽霊と違って、物理的な攻撃が通りますから大丈夫です」と、植山は意気込んでいたが、いざ目の前にすると呆気なく撃沈した。
ただ、流した涙を侘び寂びで攻撃すると、聖水の役割を果たしていたのか、ゾンビたちは簡単に浄化できた。
結果としては、植山の強さと意外な弱点が公になったので、彼女もまた人気を自らの力で手にしていったのだ。
……植山自身、ホラーが苦手だとバレるのは些か不服のようだが。
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