85.出発する前にはミラーチェック!マイマイはいつでも盛れてるZE⭐︎
都内某所。
ある工事現場が丸ごと陥没したのを放置されたまま、忘れ去られてしまった場所が存在していた。
高い仮囲いの中を確認しようとする人間はいない。不思議と、誰も気にすることなく通り過ぎて行く。
……その地下深く。地面に無作為に刺さる鉄骨を抜けて降りていくと、大きな鳥居がひっそりと立つ。
そこへ曰西が訪れる。
「神社って地面の下にもあるんだ。私びっくり〜」
「事故が起こらないようにと近くに建立されたものらしい。東京が生まれ変わった際、巻き込まれて建物ごと沈んだがな。神はいないみたいだ」
「ねぇいるから。ソウシが神だし。で、マイマイが先導者ね!」
側に建てられている、傾いた祠の前にはキョウトダンジョン異端者、藤岡辰也が座っていた。
バチ当たりに鳥居の上に座るのは、イズモダンジョン異端者、
「マイマイ? あ、悪い女でしょ!」
「はい〜? あ、そういうこと言っちゃうんだ。ねぇ、あいつイジメちゃお」
「……自分は真っ二つに斬られてますよ」
鳥居にもたれて立つシレトコダンジョン異端者、河遺フーガに高嶺は協力を煽るも失敗した。
「それはあんたが弱いだけだよ? あー、味方いないんだ。みんな寄ってたかってソウシをイジメるんだ。ムカつく」
「リオ、フーガ。吾妻さんを殺すことだけは避けて欲しい。彼女は私の大事な生徒で──」
「先導者たる器だからね♫」
藤岡の話を高嶺が横取って補足する。
「はいはい。もう。こっちはせっかくできた家族を廃棄したのに」
「人形遊びでしょ」
「本物の家族よ。あ、フーガもそんなこと言っちゃうんだ。あいつイジメよ? プンプン」
「ね、イジメよ」
「え」
河遺を敵に、高嶺と曰西が結託した。
と思ったら「はい、チーズ」「「いぇーい」」と三人で自撮りの記念撮影を始めた。
今は「ソウシ盛れてる⁉︎」とうるさい。
その自由な振る舞いに、相変わらずSS級に癖と我の強い異端者だと藤岡は思った。
「あ、ねぇねぇ。あれは? フジヤマさんは? あの引きこもり。来てんの?」
「──私が代理で来ました」
祠の裏から現れたのは、下がスカートのスーツ姿の女性だった。
「
「お、私とイワイワコンビじゃ〜ん。うぇーい」
「……ただの人間だ」
「え、そうなの?」
「彼女には、仲介と共有のために来てもらった」
河遺が見抜き、曰西が調子に乗ったところで、藤岡が説明を始めた。
「……私には理想の世界がある。平等に教育を受けられ、誰も苦しまず皆が夢に向かって永遠に挑み続けることができる世界だ。そのためにも……一度この世界を終わらせる。人類が永遠の命を手にする新しい世界となるためには……吾妻舞莉の力が必要だ」
「そー! それがすなわち、先導者たる器ってわけ。も〜ソウシが探し出すのに、どれだけ頑張ったと思うの⁉︎ 褒めなさい⁉︎」
「「すごーい」」
河遺と曰西は棒読みで褒めた。
それでも彼は満足気になるくらいにはチョロい。
しかし、彼は見逃さなかった。
「あんたイワタリン」
「平板読みですか。成分の名前みたいになってますが」
「ソウシを褒めなかったのちゃんと見てたから。恨むわよ⁉︎ マイマイは世界を滅ぼして、再生する者──ソウシはそれを見守る神なんだから。もはやママなの。母性たっぷりの女神様ってわけ。わかる?」
「とてもよく」
磐田は逆らわない方がいいと思い、とりあえず賛同した。
「マイマイをあんたお得意の洗脳で操れば一発じゃないの?」
「彼女がその器と気付く前に洗脳は溶けてしまった。洗脳をかけられるのは一度のみ。二度目をかけることはできない」
「ヨナグニダンジョンの異端者に負けて気絶してたから、解けたらしいよ」
「わ〜辛い〜。大丈夫? よしよししてあげようか。私、幼稚園の先生だよ?」
「私は全ての先生です。大丈夫ですよ」
と断ったものの、曰西は構わず「よしよ〜し」と頭を撫で出した。
無理に断れば、このまま首を飛ばされる。
全員が強力過ぎる力を持った異端者たちだ。いざこざが起きるだけで辺り一体が消し飛ぶ。
だからこそお互い強くは出ることなく、付かず離れずな関係性を築いていた。
藤岡は河遺と接触を図り、キョウトダンジョンへの観光誘致と攻略護衛を頼み、そこからSS級に昇格したことで、SS級異端者のグループチャットに入れてもらった。
そんなものがあるのに衝撃だが、今は綿密に連絡したお陰で、ここまで嗅ぎつけることができた。
「フーガ。君に頼みたいことがある」
「何? 直接手を下すのは勘弁だよ。あまり好きじゃない。観光なら全然いいけど」
「希望通りさ──世界各地で戦争を起こして欲しい。日本だけは巻き込まれないように、吾妻舞莉にも影響が及ぶからね」
「いいよ。人間が争うのは大好きだ。また負の遺産が増える。新しい観光地ができるね」
彼の能力は絶対零度──全てを凍結させ、物質の動きを止める。
一度力を発揮すれば、あちこちの農作物は寒波で枯れ果て、交易は麻痺し、人々は簡単に死に至り、国が滅ぶのにも時間はそうかからない。
また、宝具:どこでもドアノブは世界中のダンジョンを繋ぐため、今では容易にあちこちへと移動することが可能だ。
「ソウシ。君は──」
「マイマイを見守るのね。任せて⁉︎」
高嶺の圧に頷くしかないが、頼もうと思っていたことだった。
「でもソウシねぇ〜ひとりぼっちじゃん? だから、天使さん作っちゃった♫」
高嶺が指を鳴らすと、地面から白い翼を生やした男女が現れる。
「お呼びでしょうか。ソウシ様」
「ボクちんを召喚するなんて⭐︎ さすがはソウシ様、分かってらっしゃるZE⭐︎」
「ふふっ、ミッチーたら。本日もキモいですね♪」
「あっ……⭐︎ ポイズンベリー♡」
とても丁寧な言葉で毒がある言葉を吐く小柄な女性と、とにかくナルシズムが高い男性。
「イラミィとミッチーね。ソウシの守護天使なの。みんな仲良くしてあげてね──っしゃぁ‼︎ 早速マイマイ作戦考えんぞおらぁ‼︎」
また性格の変わった高嶺は従者を引き連れて、地上へと昇っていった。
「じゃあ、私も行こーっと」
撫でるのを止めた曰西もまた、ここから出て行こうとする。
「どこに行く」
「ん? そんなまどろっこしいことしなくてもさ。あれ殺しちゃえば、楽じゃない? じゃあ、行ってきまーす」
曰西が、さらには何も言わず河遺も続いて解散していき、この場には藤岡と磐田だけが取り残された。
「行きましたね」
「勝手にな。SS級ともなれば、我の強さも段違いだ。元より協力できると思っていない。ここまで会議が持つこと自体、想像以上だ」
「なるほど」
「フジヤマダンジョンの異端者に伝えて欲しい。彼らが動いた以上、春までに時代の終わりが告げられると」
◇ ◇ ◇
「お疲れ様です。ボス」
秘書の繁長楓と共に、多忙な毎日を送る探求省大臣、下谷健太郎。
本日は、いくつかの大企業を相手にし、次の時代について討論をしてきた。
現在は仕事が終わり、地下駐車場に停めた車へと向かうエレベーター内にいる。
「ふぅ、中々上手くいかないな」
「ええ。今日は古い価値観を持った人ばかりでしたから。ダンジョンの存在自体、懐疑的な人がいるくらいです」
「そうだな。だが、続けるさ……世界に新しい秩序ができ、俺が政界を引退するまではな」
「えっ⁉︎」
「世界は新しい時代を迎える。俺みたいに昔の人間がいつまでもいるわけにはいかないさ」
「そう、ですか(いやぁ⁉︎ ボスがいないなんて……私も辞めよう)」
「引退でもしたら、どこか旅行でも行くかな」
「はぁ……オススメなら挙げておきますよ。国内か国外ならどちらがいいでしょう? (私も行きたい……)」
「そうだな、君の勧めるところに一緒に行こう」
「……えっ⁉︎ (えっ⁉︎)」
地下に辿り着き、エレベーターが開く。
繁長の心は動揺したまま、地下駐車場に入る。
「あ、スマホ忘れた」
「と、取りに行きましょうか……? (おっちょこちょい可愛い!)」
「いや、大丈夫だ。車の鍵を渡しておく。先に乗って待っていてくれ」
下谷はさっき来たエレベーターに乗り直して、また上へと昇る。
足取りが浮ついたまま車に乗り、繁長はシートベルトを締めた。
「……えぇぇ⁉︎ ま、まさかボスと、とと、りょ、旅行ぉ⁉︎ これは、もしかすると……もしかするなの⁉︎ ……っ!」
ずっと尊敬する彼に仕えてきた繁長。
誰にでも分け隔てなく接する彼が、初めて個人的に誘ってくれたのだ。
──髪型は変じゃないか、車のバックミラーで前髪を整えた。
「──こんにちは。幸せなところごめんね。さようなら」
同じミラーに映る、後部座席に座る女性。
すぐ振り返るも──
──車が揺れて、ガラスに赤い血が飛び散った。
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