82.わたしをスケートに連れてって♡あそびたーい!
「ふぅん!」
マキノの攻撃はかなり大振りだが、トゲ鉄球の大きさを自由自在に変えれるため案外隙がなかった。
「ふぅ、運動してアタクシ暑くなってきたわぁん。いえ、寒いわね。寒っ!」
「はぁ、はぁ……確かに……」
「「さむーい‼︎」」
唯一戦っている野田の吐く息は白くなっていた。
セブダンジョンが雪と氷に覆われ出していることを四人は知らない。
とりあえず吾妻と松實は抱き合って、お互いの温度を交換し合った。
「ダンジョンですもの。そんなこともあるわよねぇ〜ん? それにしても大したことないわね〜、所詮小娘ね! HA‼︎」
宝具を忘れた吾妻と松實は役に立たない。
「えりにゃん、わたしたちはだいじょぶだよ! 当たっても平気だよ!」
「そだよー!」
「だからといって、はい、そうですかって傷付けたくにゃいでしょ」
「「えりにゃん、やさしぃ……」」
「引っ掻くわよ? ……けど、隙は見つけた。そろそろアタシを手伝いにゃさい」
野田は二人に耳打ちして作戦を伝える。
「アタクシ待つのは嫌いなの。〈ビッグバン〜アタクシから宇宙は始まった〜〉‼︎」
マキノは小さなトゲ鉄球を前に振り投げると、扱える最大の大きさにまで一気に変える。
「避けて!」
野田の合図にみんなしゃがんで避ける。
狭い空間だからこそ、大きいトゲ鉄球では逆に届かない隙間がいくつもできる。
「チッ、ここだと戦い辛いわねぇー。おやぁーん?」
マキノがトゲ鉄球を縮めて元に戻すのを見計らい、野田が右側から走って行く。
「あら、死角から狙うつもり? 甘いわね!」
「こっちだよー!」
「ん?」
正面から吾妻が何かを投げ付けてくる。
何かと思い、警戒してトゲ鉄球を大きくし防御するもただの石だった。
(……なるほどねぇーん。あの小娘が引きつけてる隙に猫娘がアタクシを狙う算段ね。しかし、アタクシの武具は大きさを自由自在に変えれる。小さくもなれば軽くもなるのよ……! ちなみにここまで思考時間は0.02秒!)
「ちょっと、爪が甘いんじゃないのぉ〜⁉︎ ふん!」
マキノはトゲ鉄球を小さくしては右へと腕を振るい、再び大きくする──も、彼女はいない。
(えっ、来てない⁉︎ てか、猫娘走って戻っていくわん。彼女の方が囮だった……てか、小娘が一人いないような……ん? 猫……)
「──にゃー! 本命はワタシでしたー!」
「んんっ⁉︎」
野田とは逆方向から、宝具を借りた松實がハチワレ柄の猫となって素早く忍び寄っていたのだ。
スク水姿に猫耳、猫手、猫の尻尾と性癖を詰め込んだコスプレとなってしまった松實は、マキノの腹に向けて思い切り横蹴りをした。
「そこで猫の能力使わないんかい……ぐふっ」
彼女は普通の一般人だ。
松實の蹴りを食らっては、一発で沈んだ。
「うぃー! たおしたぜー!」
「ユッキーすごーい!」
「はいはい、喜んでる場合じゃにゃいわよ。早く出てみんにゃと合流しにゃいと。そろそろ夏菜が心配だし……」
しかし、マキノが罠に嵌って、しばらく閉じ込められていたこの場所。出口は存在しない、あるいは隠されているのかもしれない。
「どんどん寒くなってくるね〜、うぅ、なんだか眠く……さんしょーちゃーすやぁ……」
「ユッキー! 寝ちゃダメぇ‼︎」
「にゃんにゃのよ、この寒さ……早く出にゃいと、ほんとに凍死しちゃう」
野田は丸くなり、吾妻は松實を揺らして起こそうとするが、鼻ちょうちんが出てくる。
しかし、あまりの寒さにそれは凍り、地面に落ちてはパリンと音立てて割れた。
「うーん……はっ! 閃いた! 出口がないなら作っちゃおうよ!」
「はぁ……、どうやって……?」
「天井をぶっ壊して!」
◇ ◇ ◇
隼は〝世界一速い鳥〟と称されている。
両翼を折りたたみ、尾の羽も閉じた状態に、正にロケットような姿勢となって地上の獲物を狙う。
その急降下時の最高速度は、時速300kmを超える。
「くそっ……!」
宝具のない三昌と回復手段しかない下池には、ファルコと戦う術がなかった。
崩壊した天井の瓦礫を物陰にして、床や壁に突撃させて自滅を図ったが、彼はそれすら打ち砕く。
もう、隠れ場所はない。
「……っ、三昌さん、あそこ!」
下池が指差したところには、下へと続く階段が。
さっきファルコが突進して、破壊された瓦礫の下に実は埋もれていたのだろう。今なら通れそうだ。
だが、それは容易なことではない。
上空から見ている彼も階段には気付いている。
入口は狭いが、内部は広そうだ。室内でも隼になったファルコからは逃げられそうにない。
「私が、囮になる。その間に、できるだけ逃げて」
「それならわたしがします。わたしは、異端者ですし、人より丈夫ですから」
「けど……っ⁉︎」
突如、吹雪に見舞われた。
青かった空は灰白いものへと変わり、大粒の雪が建物内へと舞い込んでくる。
「雪⁉︎ 寒い……三昌さ……えっ⁉︎」
「ガチガチガチガチ……‼︎ さ、寒いの、無理……」
「寒さに弱いんだ……でも、これなら相手も……きゃっ⁉︎」
いつの間にかファルコは、いつでも爪が届くすぐ側で羽ばたいていた。凍てつく風が彼女たちを襲う。
隼は寒さに強い。
「お、お願い……助けて……」
寒さと恐怖から、思わず下池は三昌を抱き締める。
鋭い眼光で、ゴーグル型の宝具越しに彼女たちを見定めていた。
「……そうだな。お前たちと約束したもんな。弱いものイジメはしないって」
「……え?」
何かと重ねたのだろうか。
目の前にいない誰かと会話した彼は、しばらく見つめたのちに、どこかへと飛び去ってしまった。
「た、助かった……? あ、早く三昌さんを中に連れて行かないと……!」
「うぅ、寒い……まつみぃ……」
下池は三昌をおんぶして、吹雪避けと野田を探すべく下に降りていく。
しかし、下に行けば行くほどに温度も下がっていく。
その先に待ち受けるのは、時が止まった世界だ。
◇ ◇ ◇
──六面銀世界。
室内だというのに吹雪く極寒の中を、河遺は呑気にスケートをしていた。
「寒いっすね」
「お前の宝具のせいだろっ……!」
迫る河遺の頭に蹴りを入れようとするも、体を逸らされて避けられる。それに足元が滑るので踏ん張りもきかないから力が入らない。
そもそも彼に当てたところで、その場から体が凍っていくかもしれない。
「宝具じゃないよ。これは自分本来の能力。あまり気に入ってないんだよね。寒いし」
彼は説明しながら、右腕に氷の剣を生み出した。
正直なす術がない……素手で迂闊に触らない方がいいのなら、何か武具や宝具がないと……!
河遺は俺の心臓の高さに氷剣を構えた。
俺がスケートの要領で逃げるも、彼はそれを遊んでいるかのように追いかけて来る。
策を思い付くまでは距離を取らねば。
「さて、いつまで逃げれるかな」
「──どりゃー!」
「え?」
俺と彼の間に滑り込んで来たのは、オーデュイだった。
彼女に躓いた河遺はこけそうになってジタバタとステップを踏む。
「大丈夫かオーデュイ⁉︎」
「うん! なんか体が硬くなっちゃったんだ!」
「まぁスライムは液体だからな、凍ったんだよ」
カーリングストーンのようにガチガチとなったオーデュイ。床を滑って河遺に突撃したのか。
凍っても変わらず元気そうだった。
「でも、凍っただけじゃないみたい……ふぎぎぎ〜‼︎」
オーデュイは力を入れると、体を変形させていき剣のような形となった。
「亮くん! ワタシを使って! スライムのワタシだって役に立ちたいんだ‼︎」
「……あぁ、分かった」
彼女の強い意志を聞いて、迷うことなく俺は彼女を手に取った。
「危ない、こけるところだった……。へぇ、スライムって剣になるんだ。じゃあ殺しの続きを……ん?」
突如として、地面の氷はヒビが入り、次の瞬間、大きな穴が開いた。
「──どりゃぁぁ‼︎ マイマイさんじょー‼︎」
下から飛び出して来たのは吾妻舞莉だった。
「吾妻さん⁉︎」
「マイマイ⁉︎」
「ん? あ! いた‼︎ 寒っ⁉︎」
やっぱり上着を持ってきてあげたら良かった。
氷の世界で水着姿の彼女を見て、そう思った。
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