81.人生で一度は行くべき観光スポット教えて‼︎
「絵里奈……」
天空遺跡、最上層。
浮力の高い雲に囚われてしまった三昌と下池が何とか抜け出して辿り着いた場所には、優しい陽光が差していた。
天井が崩壊した隙間からは青い空と、見せかけの太陽が見える。
そんな場所に二人きりにされたわけだが、正直とても気まずい。
マイマイチャンネルを通じてよくコラボするのだが、三昌と下池は直接会話したことがない。仲良くも仲悪くもない微妙な間柄。
(ぜ、全然目を合わせてくれない……あまり話したことないけど、普通こういうのって協力するもんじゃないの……?)
下池の方も気まずいのか、ずっと外を向いている。
濡れた水着姿のままでは少し寒いのか、身体をさすりながら偽太陽の光の下まで移動する。
「うぅ、絵里奈……、早く降りないと……!」
違った。ただただバディの野田に会いたくて震えていただけ。
下池が壊れた壁によじ登り、外へと飛び降りようとするので、三昌は急いで引き留めた。
「ちょ、あの、あ、危ない……」
「うぅ……」
二人ともコミュニケーション能力が高いわけではない。
下池の行動は止められたが、会話も止まった。
(この人、ずっとバディのことしか話さないな……喋り辛い……。くそっ、松實め、私を一人置いていくなよっ……!)
彼女もどっこいどっこいだった。
「あ、あの……あ、一緒に下、ね。その、道、あ、あの……」
「あの、落ち着いてください。ダンジョンで落ち着きを失うと命取りになりますよ……」
(身を投げようとしたおめぇに言われたくないわ! ……って言えない……! この人、バディいないとなんか冷たいな……てか、私達キ、キスまでした仲なのに……⁉︎ ちょっと、ひどくないかっ⁉︎)
アキハバラダンジョンでのことを思い出して悶える三昌には構わず、空をまた見上げる下池。
彼女は何かいることに気付く。
「あ、鳥……」
「え? あ、ほんとだ……でかっ」
空いた天井から見える空には大きな隼が周回していた。
……彼女たちは煙に巻かれて撒かれたので姿を知らない。
あの隼が敵であることに。
「っ! 来る……!」
真っ直ぐ超高速で飛来するファルコを、三昌の反応もあって二人は間一髪避ける。
「……避けたか。次は」
ファルコはそこまで言うと、再び空へと舞い上がる。
全員がそこまで喋るタイプじゃない。静かに戦闘が始まった。
「どうしよう。早く下に行かないと……」
「外は、ダメ。格好の餌食だ。狭いとこ逃げても、追い詰め、られる。だから、ここで仕留める」
「どうやってですか……?」
「私の宝具、銃だ。一石二鳥で仕留めてやる」
「どちらかといえば、二石一鳥では……? それに、宝具はどこですか?」
三昌は自身の腰やお尻を叩き、手ぶらなことに気付く。
「……あ、小屋に忘れた」
ファルコの突進に二人は口をつぐんで、床に飛び込んで逃げた。
◇ ◇ ◇
「うぅ、助かったよ。マイマイのマネージャー……」
「気にしなくていい」
ダンジョンの奥へと吸い込まれるように飛ばされたオーデュイを壁にぶつかる前にキャッチした。
スライムだし大丈夫なんだろうが、大事なスタッフを怖い目に遭わせるわけにはいかない。
「さすがマイマイのマネージャー! マイマイと同じでマイマイのマネージャーも足早いんだねー。てか、ずっとマイマイのマネージャーって呼んでたけど、マイマイのマネージャーって名前長いからマイマイのマネージャーから呼び方変えていいかな?」
「あぁ、好きにしろ。もうオーデュイも立派な吾妻のマネージャーでバディだしな」
「おぉ〜、やったぁ! んーと、東くん……って、マイマイとややこしいか〜。じゃあ、亮くんで!」
「え? あぁ……」
亮くんって呼ばれるのは初めてだ。
正確には亜澄さんと那緒子さんの保護者にはあるから、同世代では初めてになる。
いや、彼女は知らないが、本当ならば俺たちより10歳年上か。
「うわぁ、それにしてもよく分かんないとこに来たねー。でも、神秘的だぁ〜」
天空遺跡内部の、かなり広い場所に出たな。
本来では光の届かない閉鎖的な空間だが、青く光る苔と魔晶石があるお陰で辺りが見える。
前方にあるのは、祭壇か……?
過去に栄えていた文明の祭祀場だったのだろうか。
そもそもダンジョンに文明とは、よく分からない設定だが。
「とにかく吾妻たちと早く合流しよう。まぁ、無事だろうが何をやらかすか分からない」
「そうだね! 一応動画回す? カメラは無事だよ」
オーデュイは自身の体の中からカメラを取り出した。
いくらでも入る便利な収納スペースが内部には広がっている彼女。
ただ体重は入れた質量分増えてしまうので、必要最低限の物しか頼んでいない。負担をかけるから、ではなく(一応)女子高生らしく
「そうだな。この天空遺跡のインサートが欲しい。撮っておいてくれ」
「わかった!」
「──おっと、マジックに撮影は困りますねぇ。何度も見返されてはマズいのですよ。ライスは美味しいですけどね」
飛ばされて来た道を戻ろうとすると、ジェントルが帰り道を阻んでいた。
「一人……ってことは、そっちも罠にハマったか」
「はい。見抜けませんでした。マジシャンとしてまだまだですね。この隠す技術はちゃんと盗まないと」
手を挙げたジェントルの左手には俺たちのカメラが。
「えっ⁉︎ 盗られてる⁉︎」とオーデュイがしっかり握っていたはずなのに、無くなっていたことに彼女は驚く。
「何の宝具だ」
「チッチッチッ。タネも仕掛けも、武具も宝具もありませんよ。これはマジックです。いえ、怪盗のテクニックかな?」
彼が左手を翻すと、カメラは消えて無くなった。
どういう仕掛けだ……あと、高級品だぞ。ちゃんと返せ。
「しかし、1対2のこのままじゃ圧倒的に僕の不利だ。だからここで仲間出現マジックをお披露目しましょう!」
ジェントルはマントを脱ぎ、通路を隠した。
「それではカウントダウン! 3・2・1……タラーン‼︎」
「──あ、部屋だ」
出てきたのは……知らない長身の男だった。
「へー、ここって祭祀場とかかな。何かを生贄に捧げてたとか」
「Who? えっと、君はー誰かな?」
「仲間じゃないのか?」
「僕たちは三人組ですよ」
ジェントルも知らない男。もちろん俺たちの仲間でもない。
つまり、あいつらとはまた別のディープウェブの住人なのか……?
「あ、ここのスタッフの人ですか?」と彼が語りかけて来るので、俺は首を横に振った。
「そうですか。色々と歴史を知りたかったんですけどねー。そっか、では」
「ちょいちょい、君、何者──」
ジェントルは去ろうとした男の肩を掴むと……掴んだところから徐々に体が凍っていった。
「冷たっ……うわぁぁぁ⁉︎ ちょ、誰か怪盗を解凍してくれる解答をく──」
そして、一瞬のうちに彼は全身凍らされてしまった。
すぐさま俺は戦闘態勢を取る……!
「触らない方がいいですよ。あ、遅かった……まぁ、死んではないのでゆっくり溶かせば戻ります。別に意味のない殺生はしたくないので。では」
「待てっ‼︎ お前何者だ……人間じゃないな。セブダンジョンの異端者か……?」
「ここにはまだいないみたいですよ。でも、まぁ異端者です。あ、初めまして。えーと、社会名付けてもらったな。確か自分は
……っ⁉︎
SS級ダンジョンの異端者だと……⁉︎ どうしてここに⁉︎
「オーデュイ、隠れるんだ」
「う、うん! 亮くん気をつけて!」
祭壇の裏側に身を潜めるため、オーデュイはピョンピョン跳ねて逃げた。
「へー、喋るスライムですか。色々観光してきたけど、初めて見たなー。あー、てか亮くんって、もしかして東亮ですか。ヨナグニダンジョン異端者の。うーん、困ったな」
「何がだ……」
すると、河遺は逃げ道を無くすため、近くにいた氷漬けのジェントル諸共、通路の入口を生み出した氷壁で塞いだ。
「東亮はできたら殺しておけって言われてるんです。困ったな、キョウトの二の舞だ。自分、本気出すと世界が凍るんですよ。貴重な観光地を破壊しちゃうじゃないか。観光保全第一なんで、自分」
冷たい殺意が場を支配する。
同時に、青かった空間が白い氷の世界へと早変わりした。
◇ ◇ ◇
「──あら?」
「どうされましたか葵お嬢様……おや……」
セブダンジョンのビーチで体力を回復していた植山とそのお付きたちは晴れ渡る空を見上げて、すぐに疑問に思った。
「……雪が降ってきましたわね」
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