78.【男子禁制!】マイマイおすすめ!今季の水着を紹介しちゃうよ〜☀︎


「ふぃ〜食った食った〜。ゲェーップ」


 アメリカの探索者達は、目の前に出されたものを勢いよく胃に詰め込んだので、満腹になるのは思ったより早かった。

 仰向けになり、ファルコは空を見上げ、ジェントルは手癖のようにカードを弄び、膨らんだ腹を出したマキノは爪楊枝で歯間掃除していた。

 山賊のように豪快な女性だな。ここは海だが。


「御三方はアメリカのどちら出身なのですか?」


 俺と、それと先に食事を終えた植山、三昌の三人で彼らを相手する。

 ちなみに他のみんなは、まだ食べている者もいれば、いよいよ始める撮影の準備にかかる者もいた。


「僕はロサンゼルスですよ。ファルコはサンフランシスコさ」


 ファルコはゆっくり頷いた。

 どちらも西海岸だが、かなり距離は遠い。


「お前は?」

「レディーにオマエなんて失礼ね。アンタ、モテないでしょ」

「そういうのいいんで」

「あらぁ? クールぶっちゃって。アタクシ好きよ。アンタ、モテるでしょ」


 どっちなんだよ。


「アタクシはU.S.Aよ!」

「……のどこだよ」

「マキノあねさんは宇佐市出身です」

「日本人じゃねぇか!」


 宇佐市は大分県にある町だ。

 マキノ・ハナブサと日本人名を名乗っていたし、せめて日系人なんだろうと思っていたら、日本人かよ。


「あらぁ〜? 国籍は日本ですけど、それが何ぃ? 日本人がアメリカ人と名乗ってはいけない法律なんてないのよ。悔しかったら訴えなさぁい。法廷で会うことになるわねぇ‼︎」

「僕たちは大学のダンジョンクラブで出会ったわけさ。彼女は留学でこっちに来たわけ」

「ビザも取得してるわよーん」

「生粋の日本人じゃねぇか」

「え……じゃ、じゃあ、マジシャン、日本語、上手いですね」


 いつも側にいるはずの松實が吾妻たちとワイワイしていて、ここにいないためか、三昌はコミュ症と成り果てていた。何でこっちに来てしまったんだ。


「HA? アタクシからしたらアンタたちが英語上手いわねぇ〜って褒めようとしたところよ?」

「ダンジョンの中では、言語の壁は無いみたいですよ。見事なイリュージョンですよねぇ〜」


 ジェントルが解説した通りであり、今までは日本のダンジョンに基本的に日本国籍のみが探索してたため、言語については誰も気にしなかった。

 しかし、ここ最近に出現した世界中のダンジョンでは、勝手に言語が翻訳される現象が報告されている。


「へぇ……」

「……松實のところに戻っていいぞ」

「う、うん。……おらぁ松實! お城作るぞー!」


 水を得た魚のように、生き生きとして三昌は戻って行った。



「葵お嬢様。配信の準備ができました」

「ありがとう爺や。では、東さん。撮影を始めましょうか」

「アタクシたちはこの通り動けないんで、ここから見てるわぁ〜。ぜぇひとも、日本の人気者をこの目で見届けましょっ」


 今回の配信はセブダンジョンに招待された仲良し御一行が攻略を目指す、至ってシンプルなものだ。

 なので、普通に撮影するつもりだったが……こいつらから目を離せない。何を考えているか未だに分からないしな。


「だからオーデュイにまた任せるよ」

「うん! おっけー。ワタシも怪しいと思ってたんだー。しゅっしゅっ」


 オーデュイは伸ばしたスライムの腕でシャドーボクシングをした。

 これだけ器用に身体を動かせるなら、あともう少しで人間の形になれる気がする。


 それと俺が撮影しない理由はもう一つ……少しだけ時間を遡る。



「──えー! やだよこれ!」

「やだじゃないだろ。それは露出が多すぎる。上からこれを着るんだ」


 セブダンジョンにある着替え(場所に勝手にしていた)小屋の前で、ピンク色のフリルの付いたビキニを持つ吾妻に対して、俺は青色のラッシュガードを渡そうとしていた。


「可愛くないじゃん!」

「可愛いとかじゃなくてだ。未知のダンジョンに挑むんだぞ。これは露出を抑えるだけじゃなくて、防御付与や緊急時の救命胴衣に様変わりする天空堂の製品だ」

「わたし最強だし……!」

「何より吾妻さんも嬉しいUVカットも付いてる……!」

「あ、それは嬉しい。でも、可愛くないもーん!」

「ちょっとアンタたち、にゃに痴話喧嘩してんの」


 呆れた野田に俺たちは

「していない」「してないもん!」

 と返事をした。


「えりにゃん聞いてよー! 東くんが可愛くないの渡そうとするんだよー⁉︎ あと、わたしチワワじゃないよ?」

「あー、はいはい。そうねー。マイマイは絶対ピンクの水着が似合うんだから、それにしにゃ〜。ほら、更衣室入って」

「うん!」


 吾妻が一度受け取ったラッシュガードを投げ捨てて、小屋の中に入る。


「あ、おい……!」

「はーい、ここからは男子禁制でーす。にゃに? 変態扱いされたいの? ド変態」

「最終進化してるじゃねぇか」

「マイマイの好きにゃの着せたらいいじゃん。言ってること束縛彼氏みたいにゃんだけど、キモい」

「遠慮なく言うな……。まぁ、確かにやり過ぎたかもしれないが、吾妻はもう1000万人以上のファンがいるストリーマーだ。でもまだ女子高生だ。彼女は何も悪くないのは分かっている。しかし、好きなことが吾妻を危険に晒すかもしれないんだ」

「……そうね。それは分かる。アタシもいっぱいそういうのは経験してきた。けどさ、それでもやっぱ好きにゃことして生きてたいのよ。だって人生一度きりだし! よく知らにゃい奴らのために気を遣うのとか、もったいないじゃにゃい?」


「絵里奈ー、まだ外にいるのー? こ、これ前後分からないんだけど……」と小屋の中から下池の呼ぶ声がする。


「それにマイマイとアタシには、過保護な人外がいるし! にゃんかあったら守ってくれるんでしょ? それでいいじゃん♪ いるよー! すぐ行くー! ……じゃ、覗いたら殺す」


 物騒な挨拶をして、野田も小屋の中に入った。



   **



『こんマイリー♪ マイマイです!』


 そして、吾妻が着たい水着のまま、撮影が始まった。

 昔、ビキニアーマーで配信したら数字が取れるかもなんてほざいてたが、そんなの使わずに8桁までファンを伸ばすことができた。

 俺としては、やっぱりラッシュガードでも良かったとは思う。

 彼女はどんな格好でも、魅力的であるのは間違いないのだから。

 ……だからカメラで今の彼女を捉え続けるのは、俺の心が保たないと判断した。

 はぁ……てか、結局ビキニアーマーではなく、ビキニで攻略することになるんだな。


 一旦の撮影としては、この砂浜から次のエリアに行く場所捜しだった。

 セブダンジョンは、目に見える範囲のビーチに閉じ込められたダンジョンだ。

 ビーチ沿いに歩いてもボートで水平線の向こうに行こうとも、気付けば帰って来てしまう。海底に潜ったり、砂浜を掘ってみたりなど、さっきまでの遊んでいる最中にも探してみるものの手掛かりは何もなかった。



「──いいわね。アンタたち。目的は分かってるでしょうね」

「もちろんだとも。僕たちはディープウェブの住人。ディーパー。華麗に宝具を盗んで転売してやるさ……!」

「うん」

「よぉし、アイツらが宝具見つけたら、アンタの入れ替わりマジックを使って奪うわよん」

「イェス、ライス」


 ……と、三人がコソコソしているなと思い、耳を澄ませているとこのような会話が聞こえてきた。

 馬鹿だろ、こいつら。

 作戦会議は誰もいないところでしろ。


 しかし、こいつらディープウェブに通じていたか……。

 海外ダンジョンの影響で宝具を手に入れやすい状況に陥ったため、転売事業が活発化してるという。

 一攫千金を狙って一般人も出入りするようになった問題があるらしいが、彼女たちもその口だろうな。

 下谷中心に日本の探求省が躍起になって、法の制定と取り締まる組織作りをしているが、世界相手になるとかなり難しい。


 ただ、吾妻の言う通り、この三人はさほど脅威ではないな。



『ぷへーっ! 海の中にはなさそうだよ〜』

『そだねーマイマイ! 綺麗なお魚さんはいっぱいだったね〜!』

『もっと入ってたい……』

『だね! もう一回……んん?』


 海中探索組である吾妻、松實、三昌の面子が帰ってくると、空が分厚い雲に覆われ始め、終いには大雨が降って来た。

 熱帯特有の気候、スコールだ。


『うわー! 雨だ!』


 濡れてはいけない機材を先行に、みんな小屋へと避難する。


「……あれ?」

「吾妻さん、早くこっちに。風邪引くぞ」

「東くん! 雲の中! なんかある!」


 吾妻が一人指差す雲の中には、巨大な黒い影が微かに見え隠れしていた。

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