第七部 落ち着きマイマイ

セブダンジョン

76.インタビューを受けちゃいました♫


 救世主──なんて吾妻は持て囃されるようになった。

 数々のメディアが彼女を取材し、その度に賞賛する記事やニュースが公開された。


「本日は取材に答えていただきありがとうございます」


 今日もまた取材。

 今回はインターネット上で見られる放送局のニュース番組から、真面目な若手アナウンサー辻本天音つじもと あまねが訪れた。


「こんまいりー♪ マイマイです! 今日はよろしく〜!」

「今やチャンネル登録者数が1000万人を超えた人気NewTuberのマイマイさんですが、もうダイヤモンドの盾は手にされましたか?」


 そう、東京での一件があってから爆速にチャンネル登録者を伸ばしていき、今やその数は1200万人を超えた。日本人の10人に1人は登録している計算だ。


「もちろん! でも、トウキョウダンジョンにいたから、盾が直接届かなくて実家に配達されたんですよ。でも、その時お母さんもいなかったから、わざわざ荷物預かり所に取りに行ったんだよ! あれは、まいりましたよ〜」


 最近仕入れた鉄板エピソードを自慢げに話した。


 あとはトウキョウダンジョンでの活躍や、普段の吾妻舞莉についてなど、大体一時間くらいで取材は終わった。



「私、実は大ファンなんです。あの、一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」

「今ならサインも付けるぜ⭐︎」


 明らかに調子に乗ってるな、こいつ。

 辻本アナは吾妻にお礼を言って、取材班共々この場を後にした。


「吾妻さん。今日はあと、19時40分から雑誌の取材。20時30分までには移動開始し、21時からはワクドナルドのCM撮影だ」

「おっけ〜!」

「あと移動中に学校の宿題を……」

「ぶー。やだ」


 唇を尖らせて、明らかに不満そうになる吾妻。

 彼女は勉強が大嫌いだ。

 この週末で出された宿題はいつもに比べて多いから、計画的にやっていかないと月曜日までに間に合わないというのに。


「わたしもう大人気ダンジョンストリーマーだもん。もう勉強しなくてもよくなーい?」

「いつ仕事を失うか分からない職業だ。勉強はちゃんとしといた方がいい」

「えー、それでもやなものはやだ〜」


 最近、ワガママイリになってきている。

 そろそろしっかり注意しないといけないが……つい怒れず、甘やかしてしまう。

 俺含めてみんな吾妻に甘い。教育係を雇いたいものだ……。


「この土日も仕事が詰まってるんだ。やれる時にやらないと」

「忙しくて疲れてるもーん。東くん、代わりにやってよー」


 それは俺も同じ状況下なんだが……。

 吾妻のマネージャー業はもちろん、現実世界でもファンから守るための警護など、仕事は膨大に増えた。

 あの戦いの後に、こうも過密スケジュールだと、さすがに休みたいな……。


「あー海行きたいなー。この夏、行くの忘れてたんだよ〜」


 吾妻もバカンスがご希望のようだ。

 平泳ぎのジェスチャーをして、脳内の海を妄想して泳いでいる。


「どっか海系のダンジョンなかったー? ヌマヅダンジョンとかは!」

「あそこ深海モチーフだろ。潰れるぞ」

「わたしならだいじょぶ〜。でも暗くて冷たいか。なんかあったかいところがいいな〜。沖縄の方にないかなー?」

「あるだろうが、今はそれどころじゃ──すまん、電話だ。今のうちにトイレ済ませとけよ」

「あ〜い」


 電話をかけてきたのは、オーデュイだった。

 探求省の、俺たちが保護されていた部屋で、撮り溜めていた動画の編集作業をしてくれている。

 スライムの姿じゃ外に出れないからな。


「もしもし、どうした?」

『東亮か』

「その声……下谷大臣か?」


 探求省大臣、下谷健太郎。

 トウキョウダンジョンの後処理や、世界中のダンジョンへの対策にとても多忙な日々を送る男が、何の用だろうか。

 彼とは直接連絡先を持っていないが、職員を仲介せずオーデュイを通してコンタクトを取るとは急ぎの内密事項か。

 ちなみに下谷はオーデュイを認知しているので、誤って討伐されることはない。


『まぁ、そう固くならなくていい。少しばかりお願いを聞いて欲しいだけだ』

「探求省大臣から直々のお願いに、身構えないわけないですよ」

『それもそうだな。だが、簡単なものだ。今の君たちにとってはな。ところで来週の土日、予定は空いてるか?』

「仕事で詰まっている」

『そうかそうか。では、それらの仕事を断って協力してもらおう』

「強制じゃねーか」

『指名なのさ。断ると国際問題にも発展しかねない。今ある仕事先には私からも声をかけよう。それに、そろそろ休みたい頃合いでもないかな?』

「……どこの国に行けばいい」

『察しがいい。場所は──』



   **



 こうして俺たちは今、フィリピンのセブ島に存在するセブダンジョンへと足を運んでいた。

 急遽決まった海外遠征だが、俺たちはパスポートを持っていない。

 が、特例で三日後にはできていた。



「うぃー! やっほー! マイマイのマネージャー!」


 松實が手を振りながら、ビーチパラソルの影の中で休む俺の元に、三昌と共にやって来た。

 攻略配信であるので、吾妻と仲の良いダンジョンストリーマーたちも呼んだ。

 植山葵とその使用人たち。野田と下池のバディ。そして、探求省から松實と三昌だ。

 保護者役の永田がいないことを三昌に聞くと、


「あぁ、あいつは仕事で忙しいから」

「そだよー! ワタシたちの分もしてくれるのー!」


 原因はこいつらだった。

 可哀想だし、何かお土産でも買って帰ろう。


「少ししたら配信するが、二人はそのまま出演するのか?」

「もっちのろ〜ん! マイマイと冒険したいからね〜!」

「トウキョウでの活躍に伴い、上から許可は貰った。もっともユキカナチャンネルとはバレないだろうがな」


 絶対バレるだろ。

 宝具や声、話し方。ましてや名前まで晒してたよな。

 もう1200万人のファンという名の監視者がいるんだぞ。そっちも500万人超えているだろ。

 

 そう、このメンバーはトウキョウを救った際、吾妻に駆け寄ったところも配信されていたからか、仲良いNewTuberとしてチャンネル登録者を一気に増やしていた。

 ユキカナチャンネルは534万人。えりにゃんチャンネルが296万人、アオイ嬢の優雅なひとときチャンネルが163万人だ。

 人気も、そしてS級異端者と激闘を繰り広げるほどに力を付けているので、この公式依頼には彼女たちも招待した。


「そういやマイマイのマネージャーは遊ばないの〜? 遊ぶと遊べるよ!」

「バカか松實。遊ぶんじゃない、創作だ。でっかい砂のお城を作るぞ」

「えー、さんしょーちゃん、おもしろくなーい。いつも運動しないからワタシより弱いんだよ〜?」

「うるせぇ! 今は関係ないだろ!」


 ……まぁ、今は衣装と称した水着姿で、ダンジョン内にある海っぽい場所で遊んでいるだけだが。

 目の前にいるスクール水着姿の松實幸(今年28才)と、ラッシュガードを着用した三昌奏はいつもの如く言い争う。


「おしり砂まみれになるよー。海入ろうよ〜」

「いや、焼ける……」

「おしり丸見えのくせにぃ〜」

「出してねぇわ! 変な誤解与えんな‼︎」


 実際出てるのは、脚だけ。


 それを言うと、露出に関して気にかかるのはあっちの二人組か。


「え、絵里奈……! こ、これ! これ付けて!」

「パレオ? いいけど夏菜、アンタかなり大胆ににゃるけど♪」

「……っ、うぅ……」


 レースをあしらった黒のビキニを着た野田絵里奈と、対して純白のものと麦わら帽子を被る下池夏菜。

 バディの露出が気になる下池が自身のパレオを譲り渡すが、どちらかといえば彼女の方が目立つようになり、麦わら帽子を深く被る。身体隠さず顔を隠す。

 まぁ、裏方だからカメラに映らないし、現在は俺たちしかいないけども。


 そして、俺のバディである吾妻舞莉は、緑色の和柄模様の水着姿の植山葵とビーチボールで遊んでいた。


「それー! わわっ、ちょっとミスったー!」

「大丈夫ですわよ! この距離ならゆとりを持って届きますから!」


 勢いよく走って、海に飛び込みながらビーチボールを吾妻に跳ね返した。

 その様子をお付きの人達は、昼食の調理とセッティングをしながら温かく見守っていた。


「おー! 葵ちゃんすごーい!」


 吾妻の水着は……。っ、ダメだ。直視はやめておこう……。

 俺が目を逸らすと、下腹部がヒヤリとした。


「うぉ……オーデュイか。どうした」


 真夏には嬉しいヒンヤリボディのオーデュイが、胡座に座る俺の上に乗ってきていた。


「あのさ、お願いがあるんだけど〜……」

「お願い?」

「うん。わたしさ……ニンゲンの姿に戻りたいんだ!」

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