74.これが伝説のオフ会10000000人事件!
『わー! ホタルのファンがいっぱ〜い。みんなー! ホタルのおにいちゃんになってくれるー⁉︎』
老若男女問わず、彼女に魅了された者たちが雄叫びを上げる。
東京都港区、芝公園上空。
東京タワーを眼下に造られた特大なライブ会場に向かって人々がどんどん集まってくる。
増える来場者数に合わせて、客席も会場の面積も増大していく。
『じゃあ〜、ホタルがみーんなの妹になるためにも〜、早くあの女を殺して♡』
視線がステージ端にいた吾妻とオーデュイに対して、一斉に向けられる。
「ど、どうしよマイマイー! ライブ配信も乗っ取られちゃったし、このままだと負けちゃうよ!」
「ふっふっふっ、だいじょぶだよオーデュイ。なんたってわたしは最強だからね! 逆光であるほど燃えあがるものだよ!」
「逆境じゃない?」
ホタルの虜となった者共が波となって、吾妻たちに襲いかかる。
とりあえず逃げるが、すぐに回り込まれてしまう。
「うーん、よし殴ろっか!」
「ダメだよ⁉︎ そんなのすぐ炎上だよ! 暴力はダメダメ!」
「おー、たしかに暴力は1番ダメだよね」
殴って目を覚まさせよう作戦を、オーデュイが頭上でポヨポヨ跳ねながら全力で止める。
「マイマイを助けるんだー!」
すると、訪れた人の中にはマイマイファンがいたらしく、襲うホタルファンと守るマイマイファンの間で抗争が起きていた。
「おー! なんだかオフ会みたいだね」
「言ってる場合じゃないよ! 何とかして止めないとだよ!」
「そだね! こらー! ケンカはダメでしょー!」
しかし、止まらない。
ホタルが煽るのもあるが、マイマイ本人が止めても聞かず、勝手にファン同士で争っている。
困り果てたその時、仲間が駆けつける。
「宝具:侘び寂び──〈
優しい雨が降り注ぐ。
打たれた人から少し落ち着きを取り戻した。
「心を落ち着かせ、思いやりが持てるようになる雨ですわ。ただ、今のわたくしでは、これが精一杯ですが」
「葵ちゃん! わぁ、宙に浮いてる!」
人混みに巻き込まれぬよう、猛李王がバンザイして植山を高く掲げて来ていた。
「猛李王さんに運んでいただきましたの」
「おぉ、おじさん! ありがとうー!」
「……おじさん」
「猛李王さんありがとうございますわ」
「……ぉふ」
争いはまだ収まらない。
今や東京ドーム四個分まで広くなった会場のあちこちで騒ぎがあった。
**
「──にゃによこの人の数⁉︎」
野田たちも北東側から会場下まで駆けつけたが、多くの人が詰めかけ、身動きがなかなか取れない。
**
「マイマイどうする⁉︎」
「うーん、みんなホタルちゃんに夢中かー。じゃあ、ホタルちゃんに止めてもらおう!」
「ど、どうやって⁉︎ それに、人が多くてあの子のとこまで辿り着けないよ!」
「だいじょぶだいじょぶ。わたしに作戦があるよ! おじさん!」
唐突に呼ばれた猛李王はビビり散らすが、吾妻からこしょこしょと作戦を聞いて、少し青春した気分になって感涙する。
その涙を宝具:侘び寂びで増幅し、植山がまた優しい雨を降らす。
「おぉふ……。……やるのか」
「うん! 思いっきりおねがい‼︎」
「ああ──宝具:黒鷺──〈
猛李王が力の限り大剣を振り、面部分に立った吾妻を、上空に思い切り飛ばした。
「──ホータールーちゃーん! 遊びに来たよー!」
「落ちて♡」
降り立つ予定だった床が、ホタルの力で穴が空いて、吾妻とオーデュイはそのまま落ちてしまった。
「「わー……⁉︎」」
上空300m。
地上までは8秒もない。
「──絵里奈あれ! 吾妻さん‼︎」
偶然にも落下する吾妻たちを発見した下池だが、どうあがいても間に合わない距離にいた。
「宝具:ディサラレーション‼︎」
「おぉぉ……?」
永田が所有するリモコン型の宝具が、吾妻の自由落下速度を遅くする。
「あ! とわく〜ん!」
「無事……ではなさそうですね」
「ピンピンだわっ‼︎」
永田の元に四人が合流すると、そこに勢いよくスライムが落ちてきて、爆散した。
そして、すぐに戻った。
「わー! 怖かったよ⁉︎ 死ぬかと思ったー! でもスライムで良かったー! はっ! マイマイは⁉︎」
「ス、スライムが喋ってるー‼︎」
松實と三昌には知られると面倒だからと、オーデュイについて伝えなかった永田。
「プニプニだなぁ!」「わぁ〜かわいいよ!」と全力で二人にもう弄ばれている。
「アンタたちそれどころじゃにゃいでしょ!」
「ええ。速度は遅くしていようとも、落下の衝撃は変わりません。このままでは……」
「ならワタシに任せて! みんな、ワタシの身体を引っ張って‼︎」
**
「う〜、ゆっくり落ちるの変な感じ〜」
「マイマイ‼︎」
「ん〜? あ! えりにゃーん! それにみんなもー!」
「ここに落ちて! そして、あのホタルって子をにゃんとかしにゃさい! マイマイにゃらできるでしょ‼︎」
「もちろん!」
永田が宝具の効果を切ると、維持されたままの重力加速度に則って再び吾妻が落ちる。
そして、みんなの手によって広げられたオーデュイの身体をトランポリンにし、吾妻はまた空へと跳ね上がった。
『──みんなホタルが1番の妹だよねー♪』
『とうっ!』
ホタルが東京中のファンに向かって呼びかけた時、空けたままだった穴から吾妻が飛び出してきた。
『はぁっ⁉︎ 何で生きて⁉︎』
『ホタルちゃん』
『どうやって戻ったか知らないけど、今度こそ殺してやるっ! ホタルが1番の妹なんだからー!』
『わたしがお姉ちゃんになってあげよー!』
吾妻の堂々たる言葉に、思わずホタルの動きが止まった。
『お姉ちゃんに……お前が?』
『うん! いやー、わたし一人っ子だから、欲しかったんだよね〜』
『え、お兄ちゃんいた──』
『一人お兄ちゃんがいてー! し、下が欲しかったんだよぉー。かわいい妹が特にね! ……ふぅ、あぶないあぶない』
『……それだけじゃヤダ。ホタルはみんなの妹なの! だからいっぱいホタルは可愛がってもらいたい!』
『そっか! じゃあー、ん!』
吾妻は両手をバーンと広げた。
『なにそれ……』
『ん? よしよししてあげよーって』
『ふざけないで!』
ホタルがステージの床からいくつも石の塊を作り出し、吾妻に飛ばす。
それを彼女は避けなかった。頭に当たり、血を流したとしても防ぐことはしなかった。
『何で……何でやりかえさないの!』
『わたしはもうお姉ちゃんだから! かわいい妹が悪いことしても、わたしは暴力で怒らないよ。もちろん「こらっ」って叱るけど、その後はギューっと抱きしめるの。そしたら、心がホワってして幸せな気持ちになるの。わたしもお母さんにそうしてもらったから。だから、おいで?』
吾妻は優しく微笑みかけた。
『ホタル悪い子だよ』
『悪い子なんていないよ。わたしが全部許してあげる』
『許してって……そんな……あれ……』
するといつの間にかホタルの瞳から涙が流れた。
本当は何か忘れてしまったけど、きっと自分は、安心がずっと欲しかったんだと。
『……おねえちゃん……おねぇちゃん!』
絆されたホタルが走り出すと──頭を撃たれ、床に倒れた。
『……っ⁉︎ ホタルちゃん‼︎』
◇ ◇ ◇
「──あー、ホタルンったらダメなのにー。これじゃ次に行かないでしょ、ほんともー。それにS級の奴ら使えないしさ。あー、ほんとムカつく。ソウシがしてあげるの、ここまでだからね」
ライブ会場から遥か遠く、スカイツリーの展望台の上に座るイズモダンジョンの異端者、ソウシ。
彼は指を丸めて作った指望遠鏡を通して行末を見守っていたが、気に食わない展開になったので、指望遠鏡をそのままレールガンの発射装置として、その辺で使われているネジを撃ち飛ばした。
「じゃ、生きてたらまた会おうね、ホタルン♪」
◇ ◇ ◇
ホタルがやられたことで、魅了されていた人々は自我を取り戻した。
……そして、ダンジョンが、東京中が崩壊を始めた。
このままでは上にいる人は落ち、下にいる人は落ちてきたものに潰されてしまう。
「──吾妻! どこだ、吾妻‼︎」
『この声は……! お兄ちゃーん! こっちだよ‼︎』
悲鳴と叫喚の中、東の声を聞き分けた吾妻が呼び込み、それを聴き取った東がすぐに駆け付けた。
『吾妻! 無事か! 今すぐに脱出しよう、ここは崩れる!』
彼女だけでも救出しようとする東だが、吾妻は『やだ!』と拒否する。
『みんなを助けなきゃ。上にいる葵ちゃんたちも、下にいるえりにゃんたちも、そしてホタルちゃんを……東京中のみんなを! お兄ちゃん。どうやったら全部救えるかな』
吾妻の真剣な眼差しに、東は強く頷いた。
『……考えよう。俺たちは最強のバディなんだろ。何でもできるさ』
『うん! だよね‼︎』
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