第六部 切り拓きマイマイ
アキハバラダンジョン
63.大挑戦!アキハバラダンジョン攻略開始‼︎
「アキハバラダンジョンを攻略する」
ハロウィン前日。
俺は探求省大臣の下谷に宣言した。
他にも永田、松實や三昌、溝口など多くの探求省職員がいる中での発言だ。
先日の失態もあり、会議室内では動揺が広がっている。
「おぉ〜! いいねー!」
「やろやろー!」
と、隣の吾妻と松實だけは好反応を示す。
「ヨナグニダンジョンの異端者よ。ハザマが渋谷で事を起こすと宣告したというのに、なぜわざわざ再びアキハバラダンジョンを攻略する」
「東くんだよ! 東くん!」
吾妻が全力で名前を訂正させる。
下谷が軽く謝罪したところで、俺は答えた。
「渋谷で何か起こすことは間違いありません。シブヤダンジョンには仲間と思しき異端者もいました。そしてハザマには魔物を召喚する能力があります」
シンジュクダンジョンに現れたヨナグニダンジョンにいるはずのムガテの魔物は、ハザマの能力で転送したに違いない。
他の異端者の能力も合わされば……
「恐らくアキハバラダンジョンの魔物をシブヤダンジョンに転送させ、街中に解き放つつもりだ」
「では、それを阻止しないと!」
「無理だ。ハザマがわざと時刻と場所を宣言し、すぐに行動を起こさず約二ヶ月も置いたのは、召喚に多くの縛りをかけて確実に成功させるためだ」
「さらに、異端者への同情を誘って情報を拡散させた。当日は我々探求省が制限をかけようとも多くの人が訪れるだろう。パニックは避けられない」
「はい。透過能力を持った下戸がシブヤダンジョンに仕掛けたものを、私たちのスタッフが見抜くことはできます。しかし──」
「何か手を加えれば爆発する、といった術もかけられているか。あいつは炎を操る宝具を使用する。これくらい造作もないだろうな」
「奴らはかなり慎重だ。アキハバラ襲撃も勝算があったからこそ実行した。彼らには何年もの長い時間を与えてしまった。次も確実に成功するだろう」
俺と下谷の会話を受けて「そんな……」と繁長は落胆。他の職員も同様の反応を見せる。
「しかし、東さんは考えがあって、アキハバラダンジョンを攻略しようというのですね」
永田の言葉に俺は頷く。
「はい。慎重なハザマは当日も表には出てこない。アキハバラダンジョンで高みの見物をしているはずだ。そこを少数精鋭で突く。その日は魔物も少ないから行けるはずだ」
「渋谷はどうする」
「それは戦える他の探索者や探求省職員にお願いしたい。主に永田さんが」
「え、僕ですか⁉︎」
「ええ。渋谷には何人かの異端者は確実にいる。それをあなたに止めていただきたい」
「すみません、聞いてなかったんですが……」
「今、言ったので。永田さんならできます。顔出しが心配ならお構いなく。いい物がありますので」
永田は溜息をついたが、渋々了承を得た。
「とわくんなら行けるよー!」
「そうだな」
隣で三昌がうんうんと頷いて、バシバシと松實は永田の背中をぶっ叩いた。
「他にも策はありますので、各自お伝えいたします。何よりハザマたちは必ずいるはずのアキハバラダンジョンの異端者の能力が欲しいと考えて襲った。だからこそアキハバラを攻略する」
──そして、俺の推測は正しかったことになる。
渋谷に魔物は予定通り溢れ出し、帰って来れないアキハバラダンジョンに共に行って欲しいと要請した頼れる探索者たちは皆、それぞれ異端者と遭遇した。
『はっ! あそこ、みてみて! 誰かいる! お〜い!』
俺たちもまた異端者と遭遇した。
ツインテールの髪型、フリフリの衣装、まるでアイドルみたいな中学生くらいの女の子が行く先に立っている。
当然、普通の人間であるはずがない。
『わぁ……! ホタルのライブに来てくれたのー! うれしい〜! 一生楽しんでいってね!』
一人称がホタルの異端者が指を鳴らすと、ダンジョンの構造が変わりだす。
ホタルが立つ場所はステージへと変化、周囲は観客席となり、まるでライブ会場へと変貌を遂げた。
どこからともなく現れた照明がホタルを照らし、今にも開演しそうだった。
『おー! すごーい! ダンジョン内でライブが楽しめそー!』
『もー、おにいちゃんたちったら〜。会場内は撮影禁止だぞ☆ でもでも、ホタルのかわいいとこいっぱい配信してくれたら許してあげる! だからさ。ホタルだけ映さないなら、その女消す〜。ファンのみんなー!』
ホタルが呼びかけると、ファン──魔物がうじゃうじゃと湧いて出てきた。まだ、こんなにもいたのか。いや、SS級異端者だ。ソウシと同様に生み出せるのか。
多種多様な魔物は、共通にペンライトを所持していた。
『むむっ、なかなか大変そうだけど、最強のわたしが全部倒すからね! それでは、アキハバラダンジョン攻略……まいります‼︎』
今までは俺が吾妻を映しながら配信作業もしていたので、動きが制限されていたが、今は優秀なオーデュイがいる。
彼女にパソコン等を預けた今、かなり自由に裏から守ることができる。
それに、吾妻も二つの宝具を携えて戦える。
取り逃がしたものは俺が仕留める。もちろん、吾妻の活躍は撮り逃さないように。
SS級ダンジョン攻略戦。
今や大人気のマイマイ生配信の同接数は10万人を突破して、まだまだ伸びを見せていた。
◇ ◇ ◇
──一方、渋谷。
最初こそ混乱していたものの、迅速な探求省側の対応で被害は抑えつつ、魔物を渋谷外に出さぬよう討伐していた。
「対応早すぎるよな?」
「やっぱり探求省はグルだ!」
しかし、デモに参加した国民からはそのような声が上がった。
対応が早かろうと遅かろうと、デモを無理やり中止させようとも、批判が上がるのは仕方ない。
魔物を討伐する中には、職員や探索者じゃないものもいた。
「みんな! デモに参加してくれてありがとう! 俺たちは異端者だ! だが探求省の奴らは俺たちの人権を無視し、秘密を隠蔽するために、あいつらは魔物を解き放った!」
スクランブル交差点の真ん中で、筋肉隆々の伊藤が吼える。
この件は全て探求省のせいだと。
真実でないことは分かりきっている。しかし、疑念を抱かせるだけでも、国の分断を図るつもりなら効果的だ。
だからこそ、異端者たちは良い奴アピールとして魔物を討伐していく。
──しかし、そこにフルフェイスのヘルメットを被った男が、スクランブル交差点の真ん中に向かって歩いて来た。
「ん? ちょっとそこの君。危ないから離れなさい」
「……すみません、僕も魔物退治を手伝いたいなと思って」
そこに異端者の堀本、片村、川蝉、長尾に田中。見えないが下戸も全員集結してきた。
「ヒック……ただの人間は帰りなさい。邪、ヒク、魔なんだからよぉ」
「ねぇねぇ、顔見せてよ。ボク、君のこと描きたいな〜」
異端者が男に注視していると、周囲で見ていた野次馬が声を上げる。
「あ! 俺知ってる! シンジュクダンジョンでマイマイを助けたヒーリョーだよ!」
「え? じゃあマイマイのマネージャーってこと? けど、今マイマイチャンネル生配信中だぞ。別人じゃね?」
ヒーリョーの正体は東亮であると、実は一部考察勢ではバレてたりする。
(僕が探求省の人間ってバレないですよね……)
ヒーリョーの中身がヘルメットをちゃんと着用しているかを確認していると、会話を聞いていた伊藤がまた話し出す。
「ふんっ! ふははっ! ヒーリョー? ヒーロー活動にしては事件が起きてから来るとは、随分お寝坊さんじゃないかぁ!」
「すみません、6体の魔物がどのように戦うかを観察しておりました」
「……魔物、だと? 俺たちのことを言ってんのか?」
すると、ヒーリョーの後方にいた長尾が強く反応する。
「あー……困るなぁ、そんな酷い言い方してくれちゃって。差別的だ、排斥的だ、そんな君の思想が気になるよ、頭を覗かせてくれよぉ!」
鞭を手にしている長尾は、隣にいた川蝉の緩い制止を聞かずに飛び出す。
「武具:シェイブウィップゥゥ……」
「宝具:
長尾の振り回す鞭が地面を削り取る。
伊藤はメリケンサック型の宝具の名を唱えると、全身が鉄のように硬質化する。
二人の攻撃がヒーリョーに迫る。
「グッ⁉︎」
「ゲヘッ⁉︎」
だが、倒れたのは異端者側だった。
一蹴したヒーリョーの溜息はヘルメットの中に蓄積されたまま。
「……すみません、6体ではなく4体の間違いでしたね。同類相手じゃつまらなかったでしょう。僕が相手します。まとめてかかってきてください」
さっきまでつまらないことをしていた異端者たちは顔を見合わせる。
「……キャハッ、正義には飽きたとこなの。楽しませてくれるんでしょうねぇ!」
そして飢えた獣のように、一斉にヒーリョーを襲い出した。
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