62.ハッピーハロウィ〜ン! ウィンウィーン‼︎
「今日、人多いっすね。花田先輩」
「ハロウィンやからなー。まだ昼過ぎやのに上の交差点はすっごい混雑してるみたいやぞー。多すぎて都内あちこちに分かれてやっとるみたいやわ、フミフミー」
「そっか。今日、デモか」
シブヤダンジョン門番、フミフミこと、
そして、大学生の上田の倍を生きる、金髪のおっさん、
2人はこの時間、入口警備をしながら、そんなことを駄弁っていた。
「異端者ね〜? そんなんダンジョンにおったとか嘘ちゃうか?」
「うーん。けど、探索者の間では昔から噂されてたみたいですよ」
「オレは信じとらんで。そんな都市伝説」
「でも、探究省が会見開いてたじゃないですか」
「政府のくせに会見早すぎやろ。あれは最初から仕組んでんねん。グルやグル。探究省も全部グルや」
「一応、僕たち探究省からお金頂いてるんですけどねー」
「最近、金払い渋いやないか。こっちは生活がかかっとるねん!」
「ダンジョンストリーマーなら稼げますよ。花田先輩は芸人なんですから、トークとか、ほら、いけませんかね?」
「……いけてへんから、今ここにおるんやろがい」
「あ、そっか。──スベッてましたもんね、舞台」
「やかましわ! 他人から言われるんは、いっちゃん傷付くねん!」
「あ、すいません」
「ったく。それになぁ、見たことあるから疑っとうねん」
「何の話ですか?」
「なんや、ハザマやったか? ハザマという男出とったやないか」
「あー、あのカッコいい人」
「おう。何や腹立つけど、そうや。多分、売れない俳優かなんかがバズるために犯罪者の名前騙ってやってると思うねん。映像慣れしとるし、それにどっかで見かけた気が──」
「おーっす! しっかり働いてるー?」
花田が微かな記憶から思い出そうとした時、とある女子が上田に話しかけた。
と、すぐそばには似た顔の女の子もいる。
「あ、
「上田くんも、おつかれ……」
「茜音ったら、なぁにもじもじしてんの!」
「いたっ! ちょっとお姉ちゃん……!」
チャンネル登録者数22万人〝タルムラツインズ〟
元気が取り柄の姉、
対して大人しい妹、
双子のダンジョンストリーマーとして、最近始めたばかりの二人だが、徐々に人気を獲得している次世代ストリーマー。
そして、上田の幼馴染である。
「今日の撮影どうだった?」
「どうも何も撮れ高なしだよ〜。シブヤダンジョンってさ、魔物多いはずだよね? なのに一匹もなし」
「お姉ちゃんのグダグダトークしか撮れてないの」
「ちょっと、茜音〜?」
双子のやり取りに微笑む上田。
を背後で、血涙を流し、物凄い形相で見つめる花田の姿があった。
「あ、百均先輩。いたんだ」
「こんにちは……」
「誰が百均先輩や!」
花田の下の名前が、某百均ショップの名前に似ているため、双子から親しみ(?)を込めて、そう呼ばれている。
「ったく、ほんまフミフミったら羨ましい限りやのぉ」
「ん? 何がですか?」
「鈍感系主人公か。ほんまこんな可愛い幼馴染いて……少しくらい青春分けてくれてもええんあだぁ⁉︎」
ぼやく花田の頭に噛み付く小さな魔物。
大して強くはないので、軽傷程度では落ち着く。
「あ、魔物だ。全然ダンジョンにはいなかったのに」
「は、早く助けてあげましょ、きゃっ!」
ダンジョンの中から、その小さな魔物がどんどん出て来る。
上田たち門番やその場にいた探索者たちが相手するも、数だけ膨張していき、ついには対処できないような凶悪な魔物まで現れる。
「お、多すぎますよ、これ……!」
「あかん、地上に出てまうぞ‼︎」
ダンジョンから溢れ出した魔物は、建物の中を這いつくばり、遂にはハロウィンとデモで人がごった返しているスクランブル交差点へと出ていく。
──様々な理由で渋谷を生配信していた人たちのチャンネルを見漁りながら、ハザマは悠々と高みの見物をしていた。
動画内には魔物に襲われてパニックになる人々の姿。
何か仕掛けてくるのは分かっていたから、探究省職員や雇われ探索者が配備されていたものの、あまりの混乱に現在は上手く対処ができていない。
「──さぁ、始めようや……幕はまだ上がったばかりやで‼︎ もっと盛り上がっていこうや‼︎」
「──〈静寂之涙〉‼︎」
ハザマの頬を、水が一線。
流れる血は一筋。
それを舐めて彼が振り返ると、そこには植山葵が一人でいた。
「へぇ〜こんなとこにお嬢様一人とか珍しっ。だいじょぉぶか?」
「ご心配いりませんわ。アキハバラダンジョンには他にもたくさんの仲間がいらしてますの。もちろん、渋谷や他にも。見下ろす前に、目の前のわたくしに集中なさって?」
植山が流した涙は宝具:侘び寂びによって増幅され、大きな水流となって彼女を包み込む。
対して、ハザマは宝具であるハンドマイクを取り出して、炎を纏う。
「ハハッ‼︎ 見下して舐めとるねん、こっちは。一人でワシを相手にするなんて、いやぁ、笑わせてくれるね──涙が出ちゃうじゃないか」
「ふふっ、泣いた方が晴れやかな気持ちになりますわよ」
◇ ◇ ◇
アキハバラダンジョン、別エリア。
完全治癒した初瀬川も、一人の漢と対峙していた。
「これはこれは。中々の強敵が来ちゃった、だよね!」
「…………」
背中に携えた黒い大剣を両手に構え──猛李王は、ただ目の前の敵に集中する。
「おやおや、挨拶はなしですか。NewTuber同士、下の者から挨拶するのは常識、だよね!」
「……お前はもう、配信者じゃない……」
「あぁ、本当に悲しいこと、だよね! ファンのみんなも嘆いていたよ。帰って来て欲しいって……嬉しいねぇ! 人の嘆きコメント見れて最高ぉ、だよね!」
「……ファンって、女性が多いのか」
「んー? あー、最後に見たアナリティクスでは8割女性、だったよね!」
「よし、殺す」
◇ ◇ ◇
また別の場所では、女同士の争いが勃発しようとしていた。
「──絵里奈、あそこにいる。S級だ……気を付けて」
「分かってるわよ。まぁ、勝つのはアタシだから、安心して安全なところにいにゃさい」
「うん……!」
「あらぁー? 聞き捨てならない言葉が聴こえたわ。って、なーんだ。マイマイのおこぼれを貰う醜女じゃない」
高いところにいた中原は水の触手を使って、じっくりと降りて来る。
対する野田は宝具で
「は? アタシ可愛いんですけど。アタシより可愛いのはマイマイだけだよ、ブサイク」
「中盤だけ共感してあげる。けど、勘違いしてるようだから言ってあげるわ」
「ほんと? アタシも同じこと思ってた。アタシたち気が合うかもね」
中原は何本も触手を増やして相手に向ける。
野田は爪を伸ばして構えた。
「「1番はマイマイ。2番は」」
「アタシ」「わたし」
「「お前は頑張っても3番以下だよ、ブース‼︎」」
◇ ◇ ◇
「うぇー、本多くて頭いたい〜」
野田と中原が戦う場所から程近い空間。
ダンジョン内とは思えない、本棚が建ち並ぶ空間に松實と三昌は来ていた。
「……いるぞ」
二人の目先には、膝を組んで座り読書する男がいた。
松實たちが来たことで、パタリと本を閉じて立ち上がる。
「だれー?」
「……私は君たちの先生ですよ。未来を提示する先行く者です」
「えー、ワタシ勉強きらーい!」
「同感」
三昌と松實はそれぞれ宝具を取り出した。
男は溜息を吐き、眼鏡を掛け直した。
「まずは勉強が好きになるところからですね──それでは、授業を始めます」
◇ ◇ ◇
『こんマイリー! 今日は緊急生配信! なんとなんと……SS級ダンジョン、アキハバラダンジョンを攻略しまーす! それでは……まいります!』
ハロウィン当日。
俺たちはとうとう異端者たちとぶつかることになる。
この配信は、NewTubeの歴史上最高のものになる。
チャンネル登録、通知をONにして、ぜひともリアタイで見届けてもらいたい。
お楽しみに。
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