56.活動再開します!みんなおまたせ‼︎


『この動画を観てくださっている皆さん、多くの人が初めまして、ですよね。ハザマと申します』


 関西弁やダジャレを取り入れたいつもの喋り方ではなく、丁寧な言葉遣いで話すハザマ。


『僕たちは〝異端者〟──と呼ばれる存在です。海外ではヘレティックなんて呼ぶとか』


「すぐに消させろ」と仲田兄が言うも、もう遅い。

 既に動画は拡散されているだけでなく、他のダンジョンストリーマーも同様の件を配信していた。


『僕たちはダンジョンで生まれました。だから探求省からは、魔物と同じように括られて、狩られ、捕らえられては酷い拷問や実験を繰り返されてきました』


 裏付けるように提示するのは、探求省の悪事が書かれた記録書や写真の数々。


「ふん。異端者の言うことを誰が信じるか。偽造されたものを並べたところで誰が……」

「うーん、あれ本物も混じってるすねー……」

「嘘だろ⁉︎」


 機密文書を探求省から持ち出して流用させた者、つまり省内に裏切り者がいる。

 疑心暗鬼になる中、ハザマのスピーチは続く。


『──生まれた場所は違えど、僕たちもみなさんと同じ人間です。僕たちはただ穏やかに暮らしたいだけなんです……。──10月31日。渋谷。異端者に対する人権を得るためのデモ行進を開催したいと思います。もし、賛同してくれる方がいらっしゃいましたら、参加していただけると嬉しいです。配信もいたしますので、遠方の方は観てくださる──』


 と、ハザマはただ真面目に宣告をし、意外にもあっさりと動画は終わった。


 しかし、投稿された動画はこれだけじゃない。

『探求省が長年ひた隠しにしていた真実が!』『アキハバラダンジョンで見てしまいました。どうして立入禁止なのかなと思っていたのですが……』『ハザマという異端者がディープウェブで活動していたのは、NewTubeだと削除されるからなんですよね』『探求省がいつも揉み消してきた。彼が芸能人や政治家の悪事をバラし、正義を執行しているだけだと言うのに!』



「──上手いな。足りない情報を他のストリーマーの動画で補完することによって、まるで大多数が賛同しているかのように視聴者は勘違いする。自ら情報を得ているつもりが、敵の思想の沼に嵌る」

「しかし、下谷大臣……」

「…………」

「あ、ボス。この動画を観てください」


『【緊急配信】異端者に騙されるな。彼らは嘘を付いている』と、ハザマに少し遅れて配信された生配信があった。


「このダンジョンストリーマーもアキハバラダンジョンに向かった者です。彼のように正常な、異端者を否定する動画も上がれば……」

「彼は正常じゃありませんよ」


 繁長の言葉を遮ったのは永田だった。


「あ、すみません。僕もこの動画を観ましたが、正直印象が薄いです。人は自分が信じたいと思ったものが否定されれば、より強く信じるという傾向があります」


 例えば、暴力を振るう恋人に悩まされている人に、周りが別れなよと告げても、「悪いところもあるけど、良いところちゃんとあるから」と、真実を見ようとして周りが見えなくなること。


「認知バイアスを上手く取り入れているな」

「はい。何よりも、僕たちを批判することの方が世間にとっては面白いですから」


 ダンジョン関連を全て取り仕切る探求省を目の敵にする人は多い。

 その後、山下好奇をはじめとした多くの都市伝説系配信者が取り上げてしまい、さらに世間に認知されてしまう結果となる。


「この配信者たちはみんな……もしかして洗脳されている? 紫草という男の仕業でしょうか」

「すみません、僕もそう思います。アキハバラダンジョンに行った人たちはもう……」

「待て。──ならば何故君は無傷で帰って来れている」


 下谷が制止すると、報告に来ていた探索官の男が口を開く。


「それは……異端者の方に私は優しくしていただいたので、こうして無事でいるのです。私もそうでありたい。だから、皆さんも一緒に新人類へと生まれ変わりましょう!」


「「「っ⁉︎」」」


 男が叫ぶと、胸から炎が湧き出し、そして大爆発を起こした。


 ……しかし、探求省職員はもちろん、部屋も彼が立っていたところが少し焼け焦げたくらいで被害はなかった。


 今川の宝具:鏡壁虚像きょうへききょぞう──〈六面鉄壁りくめんてっぺき

 手鏡型の宝具で、鏡に映した狭い光景内に、障害物がなければ現実世界で好きに不壊の壁を作ることができる。鏡から対象を外せば消える。


「魔法少女の変身道具みたいっすね」

「やめろっ⁉︎」


 すると、突然仲田兄妹が元いた、永田の隣席に再び現れる。

 もちろん今日も肩車。


「僕たち置いてですか」

「定員は2人までだからな」

「お兄ちゃんったら莉奈想い〜!」


「──彼もまた洗脳されていたとは……今川管理官。できそうですか?」

「無理だわ! 〆切多すぎて死ぬっつーの‼︎」


 繁長の質問に、遠藤は悲鳴を上げた。


「──会見を開こう」


 下谷の言葉に、それぞれ会話していた人たちの注目が集まる。


「しかし、ボス……!」

「メディアに顔出しをしているのは私だけだ。それくらい大臣の責務として当然だ」

「ボス……(かっくいー!)」


 そして、探求省は数時間後には例の動画について会見を開くなど、迅速な対応を見せた。

 だが、非難轟轟の嵐であった。

 異端者について。探求省が隠してきた事実。何よりアキハバラダンジョンで多くの犠牲者を出してしまったという事実が、彼一人に全て責任がのしかかることとなった。



   ◇ ◇ ◇



「──ということがありました。すみません、長かったですよね」


 探求省内の個室にて、永田と対面してこの二ヶ月で起こったことを聞いた。


 10月25日。

 この日までに、確認できる異端者は皆、探求省内へと保護されている。

 下池夏菜や吾妻の母、那緒子さんもだ。


 現在、吾妻は母親の元にいる。

 きっと異端者について聞いているかもしれない。

 世界に存在が完全に公にされた以上、吾妻に隠しておく理由も手段もない。

 ただ気になるのは、吾妻は俺が人間じゃないことを知って、どう思うのか。


「あ、東くん。いた〜。ねぇ、聞いてよ! お母さんが、機関車? だったの⁉︎」

「……異端者な」


 いや、正直分かってた。

 人語を話す魔物がいれば仲良くなりたいと言っていたぐらいだ。


「そうそれ! あっ! あと、東くんも異端者だって聞いたよ。も〜、何でそんな面白いこと言わないの〜」

「……わざわざ言う必要がなかったからだ」

「おぉ、なるほど。なんか大人だ。これが異端者……!」

「関係ないな」


「さて、東さんたち」


 永田が話の指揮権を取り戻す。

 そう、さっきまでは経緯を聞いていただけで、目的としては一番最初に話されていた。


「来週のハロウィン。ハザマたちは必ず姿を現します。すみませんが、彼らを止めていただきたい」

「任せて!」


 一つ返事で元気よく吾妻が答えた。


「吾妻さん。相手は異端者、知能を持った強い相手だ」

「えー? わたし最強だからだいじょぶだよ。それに、東くんも異端者で最強だったんでしょ! 最強と最強がいれば、ちょー最強‼︎ 余裕だよ‼︎」


 吾妻は絶対止まらない。

 ならば、それを制御するのが俺のしご──


「えぇ! 焼肉屋さんあるの⁉︎」

「はい。探求省が運営する魔物の肉を用いた焼肉屋です」

「行きたい‼︎」


 ……締まらないな。

 まぁ、いいか。

 マイマイ復帰記念だ。


「肉でも食べながら、来週の作戦でも考えるか」

「おー!」


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