シブヤダンジョン
55.活動休止中にこんなことがありました!
──9月3日
この日、危険等級SS級のアキハバラダンジョン攻略が行われることとなった。
SS級に指定されてから、本格的に政府指導で攻略に乗り出したのは今回が初となる。
「えっ⁉︎ 東さん居ないんですか⁉︎」
探求省内で押し付けられた大量の仕事をこなす永田の元に、そのような報告が飛んで来た。
「とわくん、どしたのー?」
「何か東さんが掃討作戦にいないんだと。推薦した永田が上から怒られることが決定した」
「あちゃー、可哀想なとわくん。ワタシが代わりに行ってあげよっか⁉︎」
永田が仕事しているすぐ側の床で、ミニカーで「ぶーん」と遊んでいた松實と、それに付き合ってあげてた三昌。
さらさら彼の仕事を手伝ってあげる気はないどころか、全部の仕事を永田に投げている張本人たちだ。
「すみません、無理です。あなた達は待機が命じられてますから」
「えー、ワタシたち強いのに。ねー、さんしょーちゃん」
「確かに。納得できないな」
「ワタシなんてさんしょーちゃんの34倍強いのに〜」
「はぁ? おめぇは私の34倍バカだろ」
「うぇ〜⁉︎ さんしょーちゃん知ってる〜? 0に何掛けても0なんだよぉー。つまり、ワタシたちの頭の良さは、うー、ゼロ〜」
「うるせぇ!」
集団の輪を乱し、作戦が無に
とは、言えない永田。
「……色々事情があるんですよ」
探求省には本当に色々事情があるので、指示がない限り松實たちを動かすわけにはいかなかった。
ユキカナチャンネルで配信活動をしていいというのが、かなり譲歩された策なのだから。
「まぁ、東さんがいなくとも、何とかはなります。アキハバラダンジョンは内部が常に変わり続ける広いダンジョンなだけで、特段強い魔物がいるわけではないです。未知な領域も多いですが、レイドボスなどない限り大丈夫でしょう」
「「へー」」
自分たちの出番がないと悟った松實と三昌は適当に聞き流して、またミニカーで遊び出した。
実力ある探索者、人気のダンジョンストリーマー、探求省の探索官など、多くの人員が投入された今回の掃討作戦は──ものの二時間で壊滅した。
「……異端者に、それも複数襲われたとは、どういうことですか⁉︎」
緊急で開かれた会議にて。
繁長楓は動揺から、アキハバラダンジョンから生きて帰って来た探索官を強く問い詰めた。
探求省大臣、下谷は両肘を机に付いて両手を口元で組んで、黙って話を聞く。
会議室は他に、さっきまで仕事していた永田や仲田兄妹。管理官の溝口、遠藤、今川などが召集された。
報告された内容はこうだ。
9月3日。正午。
定刻通り、アキハバラダンジョンに突入開始。
12:20頃。
ダンジョン内の構造が変化し、いくつかの班が分断されるも、予定通り。常に連絡は取れたので、そのまま探索を続ける。
しかし、12:30頃。
事態は一変。
一つの班が襲われているという報告から、連鎖的に次々と各地で戦闘が開始された。
襲ったのは、凶悪な魔物や厳しい環境ではなく、
「異端者です。それも複数の個体の。探求省管理下に置かれていた者、未確認の者、そして我々が追っていたハザマなどのブラックリストなど、10人近くの異端者が確認されました」
「だから言ってるだろ! 異端者は魔物何ら変わりない人類の敵だと!」
「まぁまぁ今川管理官。まずは話を聞くっすよ。で、どんな異端者がいたんすか?」
溝口管理官が宥めたところで、探索官の男性は情報が整理されたものを語り始める。
──探求省の管理下に置かれていたはずの異端者は四人。
「ふんっ! ……ふははっ! そんな固さじゃ守れないぞっ! もっと筋肉付けないとだなっ! まぁ、全部破壊するんだがなっ!」
東亮、下池夏菜のように、異端者には生きていく上で与えられた、あるいは自分で付けた社会名が存在する。
社会名、
危険等級C級、ヒメジダンジョン出身の彼はガタイが良い上に全身が硬質化し、何者の攻撃も効かず、全てを打ち砕いた。
「キャハハ! おっそ、どこ見てんのか……ねっ‼︎」
両脚をバネにして、ダンジョン内部の壁や天井を自由に跳び回る彼女の社会名は、
危険等級C級、スミダダンジョンの出身。
「ヒックッ、うぃ〜、酒が足りないなぁ。君たちは酔ったことがあるかぁ……? 泥に溺れるまでよ、ヒック。ヒッ、宝具ゥ:
危険等級B級、イワクニダンジョンの異端者、
持っている一升瓶をひっくり返すと、中から茶色く粘着質のある液体、泥が溢れ出す。
探索者たちの立つ地面にまで広がると、泥の中へと引き摺り込んで行く。
「わぁ、やることエグいね」
「ん? ヒックッ、なんだ迷ったのか。お前の担当はあっちだろぃヒクッ」
「違う違う。ボクはもう終わったから。ほら」
一人称をボクと呼ぶ彼女の社会名は
危険等級B級、ミトダンジョンの異端者だ。
彼女が見せたスケッチブックには、人間が怪物から逃げ惑う絵が、パラパラ漫画の如く動いていた。
「ぜーんぶ閉じ込めちゃったんだ♪」
「ヒックッ、趣味わりぃ……」
──さらには探求省の目をすり抜け、既に社会に溶け込んでいた異端者。
報告された内容と撮影された顔写真から、後日特定される。
「ふふっ……ははははっ! 気持ちが良いでしょう。あなたたちのために、用意した猛毒よ。ゆっくりおやすみなさい……ふふっ」
危険等級A級、アマミダンジョンの異端者。
社会名、
普段は東京のコールセンターで働く彼女。
蛇のような目つきで、目の前の人間が毒で溶けていくのをジトッと見つめている。
「んー? 君はどんな悲鳴を奏でてくれるのかなぁ? おっ、いいねぇ〜君いいよぉ〜。君は〝シ〟の音がベースだね! これでドレミが揃ったよぉ〜!」
捕まえた探索者たちを針で拷問するのは社会名、
相手の顔が歪めば歪むほど、少年のように目を大きく開いて輝かせながら、追加で針を刺していく。
危険等級A級、シマバラダンジョンの異端者である。
彼らは潜伏しながら、時に自分の欲を満たすためだけに、人間を襲っていたことが、のちの調査で判明する。
「──そして、ハザマとケーシィ、さらに溝口管理官から報告を受けた女性の異端者など確認。彼らが連携していたのは状況からしても間違いなく、これらのことから異端者たちが計画的に襲撃したと断定してよいかと思われます」
さらに報告で受けた被害の中には、誰もいないのに突如襲われたなどの報告もあり、まだ異端者がいるのではないかとの推測もされている。
「アキハバラ掃討作戦は大々的に報道していた。そこをまんまと突かれたわけだな」
「しかし、彼らの目的は何でしょう。異端者を集めて、反乱でも起こすつもり──」
「下谷大臣!」と、繁長の会話を遮り、一人の男性管理官が入ってきた。
「現在、会議中です。用があるなら後で──」
「構わん。続けさせろ」
「は、はい……(なんと、器の大きい……! すきっ!)」
「ハザマです。ハザマがNewTube上にて動画投稿をいたしました! それだけじゃありません。アキハバラダンジョンから帰還していないはずのダンジョンストリーマーもまた、同時に動画を投稿しています!」
放火系ストリーマーとして、ディープウェブで活動していたハザマが表立って、しかも初の完全顔出しで動画投稿したという。
急ぎ、会議室の大きなモニターに映し、内容を見届けることにした。
最初に映ったのは、ハザマが悲しそうな表情で涙を流していた場面だった……。
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