54.これがダンジョンストリーマー流〝アンチエイジング〟‼︎
「モフモフ〜!」
「おにくー!」
「すやぁ……」
柔らかいぬいぐるみ、漫画に出るような骨付き肉、豪華絢爛なふかふかベッドと、欲求三連コンボを喰らった吾妻は巫女服姿のまま眠った。
「ソウシが力を移動させると、こんなことも創造できるってわけ。ねぇ、すごくない?」
「あれらは実在しているのか」
「本物に決まってるっしょ。森羅万象あらゆるものはエネルギーの源と流れからできているから。エネルギーの移動、即ち物体も移動させられる」
「吾妻をここに誘拐したのも、同じ力か?」
俺は本題を切り出した。
ソウシはニヤつきながら頷く。
多用はできないらしいが、集中すればダンジョン外に視点を移し、気に入ったものは何であれ持ち込めるらしい。いわばチートな直行便が使えるわけだ。
イズモダンジョンは入口時点から電波が一切通らないが、ソウシの能力ならダンジョンの外に出ずとも世界情勢を把握できる。
「マイマイ可愛くて強いよね。悔しいけど、ソウシよりもね! だから、彼女こそが次の世界を導く者として相応しい」
「過激なファンか? あいつはそういうのによく好かれやすいな……」
天下星羅こと中原灯里や、親友で変態色が強い金子悠。
それに多くの関わってきた人はみんな吾妻のことを好いている。
これだけ急成長するダンジョンストリーマーの中では珍しく、アンチの数は少ない方だと思う。
「天性の才よ。あの子には周りを惹きつける力がある。それこそ神が信奉を集めるよりも、もっと強大な力が。どんな人間よりも器が遥かに違うのよ」
スヤスヤと幸せそうに眠る吾妻の枕元に、瞬きの間にソウシは移動し、彼女の頭を撫でた。
「おい、気安く触るな」
「あら? マイマイはあなたの何なの? 止める権利をあなたが持っていまして?」
「……っ。マイマイのバディだ。うちのタレントはお触り厳禁だ」
「あら、ごめんなさい♡」
今度は麗しいお姉様のように話すソウシ。
相手は一人なはずなのに、大人数と会話しているみたいだ。数的不利に意見が押し負ける感覚に陥る。
「どうして吾妻を、人間を攫うんだ。他の奴らはどうした」
「みーんな、中身は消えちゃった。ソウシはね、有望ある若者に力を与えるのよ。言ったでしょ? 世界を導く者が必要なの。ただ、力に耐えられなかったものは自我を失い、皆抜け殻のようになってしまう。そういうのは外に捨ててるから、そっからどうなってるかは興味ないなー」
イズモの神隠し。
その正体はソウシが連れ込んだ人々。
そして、時に入口で発見されるのは、ソウシの期待にそぐわなかった抜け殻。
「もしかして吾妻にも同じことをするつもりか」
「ん? 何を言ってるの?」
「なに?」
「もう終わってるよ。あんたが来る数えて35分前には全てね」
思わず俺は吾妻を見た。
「うーん、モフモフ……」と寝言を言っている様から、何の変哲もないただの吾妻のままだ。
あの探索者とSS級異端者との間に生まれた娘だからだろうか。ソウシが言う抜け殻のようにはならなかったみたいだ。
しかし今の彼女の中には、ソウシから託されたあの膨大なエネルギーが内包されているというのか……⁉︎
「マイマイはすごいよ。吸収がとても良いわ! ソウシの力が全部吸い取られちゃうくらいなんだから!」
「それ以上彼女に手を出してみろ。容赦なく、お前を消す……‼︎」
「──今のこの状況、見えてねぇわけないよなぁ? 側にいなくたって、もう二度と起きれなくなるまで力を奪うこともできるんだぞ」
再び偉そうな男になったソウシ。
どんなに友好的に接していようとも、やはり根本的に俺たち異端者は……どこか狂ってる……。
吾妻は人質にされている状況にも関わらず、「くかー」と起きる気配は一切ない。
「……吾妻から離れてくれ」
「別に彼女には何もしたくないさ。せっかく見つけた先導者たる器なんだからよ……。まぁ、今は何も起きないよ。いずれ来るその日まで。ソウシたちは更新されるマイマイの動画、楽しみにしているよ。──だから、また遊びに来てね〜」
多重人格のソウシはそう言って、吾妻の元を離れた。
入れ替わりに近付いた俺は、微睡みの中を迷子中の彼女を起こした。
「吾妻の服は?」
「掃除したよ? ソウシ、いらないものはいらないから」
他人の物を平気で処分する、どこまでも自分勝手な奴だ。
仕方ないから吾妻の格好はそのままに、イズモダンジョンの入口へと向かった。
振り返れば、止めることなくただ笑顔で手を振っているソウシの姿が見えた。
「わー、ソウシくんバイバイ〜」
フワフワした状態で隣を歩く吾妻だが、彼女の中には底知れぬエネルギーがある。
それは正にいつ爆発するか分からない時限爆弾みたいなもの。
無理やり切ろうにも、今の俺ではどうすることもできない。自分の力不足に歯を食い縛るしかなかった。
◇ ◇ ◇
「──時代の流れは刻々と加速していく。さて、彼らは戻った時に追いつくことができるかな。それとも、時代を作るのか……。世界はもうすぐ次の段階に入る」
ソウシが作り出した、吾妻にとって夢の国は消えて、形成していたエネルギーはソウシの元に戻る。
「んー、見送ったのはいいけども、ソウシも久々に外出て、みんなに会いに行っちゃおっかな。ぜったいソウシに会えて嬉しいよね。SS級のみんなは♡」
◇ ◇ ◇
「ふふーん、元気いっぱ〜い! ってあれ、今思ったけど、ここってダンジョンだよね。ソウシくんもダンジョンストリーマーだったのかな!」
行きよりも帰りの方が短時間で安全に帰れたのは、ソウシの計らいか、吾妻の運か、それとも俺が彼女と一緒にいるからか……どれにせよ、無事に入口の鳥居まで戻ってきた。
「えっへへ〜フランちゃんも元気そうだね〜。お〜メガちゃんもツヤツヤになったー?」
吾妻との再会に嬉しそうに飛ぶフランちゃん。
早く戻って、吾妻の帰りを待つ人たちにも会わせてあげたい。
そして、撮影も再開しないとだな。
あと夏休みの宿題を提出させる。
だが、その前に一つばかり問題がある。
「コソコソ出るんだよね?」
「あぁ。このダンジョンにはライセンスカード見せずに吾妻は入ってしまっただろ?」
「うん! え、つまり?」
「バレたら大炎上だ」
「なるほど! じゃあ息を止めて動かなきゃね」
殺せよ、息は。
本当にお前が死にそうになってどうする。
とにかく入ったことは恐らくバレていないだろうから、少しずつ外や周りの様子を窺いながら外へ──ぐっ⁉︎
「うわ! 眩しい!」
外の景色が見えた途端、複数の強いスポットライトに当てられた。
明朝に侵入してからそんなに時間が経ったとは思っていなかったが、辺りはすっかり暗くなっていた。
目が慣れてくると、周囲に多くの人がいるのが分かる。
「やはり私の予感は正しかったようだ」
「そのようですね、ボス(くーっ! 流石すぎる‼︎)」
こちらに向かって歩いて来た人物は、唯一探求省で公に顔が割れている人物。
「探求省の大臣を務めている、下谷健太郎だ。よろしく、吾妻舞莉さんと東亮くん」
握手を求められたので、素直に返す。
ガチャッ、といきなり両腕を拘束された。
「東くん⁉︎ わわ、勝手にダンジョンに入ったことは謝るから東くんを離してあげて!」
「あぁ、知っているとも。だが、その件とはまた別だ。すまないね。君なら拘束具を取れるだろうが、今は形式上従って欲しい。来週のハロウィンの反乱を止めるには君の力が必要だからね」
「──来週の……ハロウィン……?」
「外とイズモダンジョン内の時間の流れは乖離している。現在は10月24日22時19分だ。安心したまえ、年越しはしていない」
吾妻が呑気にしていた理由。
彼女が過ごした時間は、彼女にとってほんの数時間程度であったからだ。
「えっ⁉︎ うそっ⁉︎ ……つまり、わたしたち……ちょっと若返ったってこと……?」
あと、性格と馬鹿なことも理由に挙げられる。
別に若返ったわけではないからな。
とにかく、これ以上無駄に問題事を増やしたくない俺は、抵抗することなく探求省が用意した車に乗り込んだ。
「わたしも一緒に行くからね! 東くん!」
「ええ、吾妻舞莉さんも一緒にご同行を(巫女さん……?)」
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