カルイザワダンジョン

34.ダンジョンを探索してたら不審者に遭遇してしまいました……。


『ユッキーでぇす!』

『カナデです』


『二人合わせて〜ユキカナチャンネルです! って、さんしょーちゃんも言ってよぉ〜!』

『おめぇ、本名で呼ぶなよ』

『あー! さんしょーちゃんがおこったぁ! ワタシも逆ギレしちゃうよ〜、こらぁー♪』

『というわけで、危険等級B級のカルイザワダンジョンをサクッと初攻略したいとおもいまーす』

『あー! さんしょーちゃんが無視するー! あー、こまったなー。これは解散かもしれないなー』

『いいんじゃない、解散しても』

『でも、さんしょーちゃんワタシのこと好きだからなぁ〜、バイバイになったら『うっえーん、さびちぃよぉ、ゆきちゃんに会えなくなるのさびちぃ』って泣いちゃうね。ワタシわかるよ〜』

『それ誰のマネ』

『えぇ? さんしょーちゃん! めっちゃ似てるよね。あー、モノマネ女王だなぁ、ワタシは〜、すまぬすまぬ〜』

『似てない』

『さんしょーちゃん、こんなんだよ。こうやって顎を突き出して、うっふふウェーイってやるよ』

『おめぇ、さっきから私のことバカにしてんだろぉ‼︎ いい加減にしろ‼︎』

『だってワタシ頭いいからね〜! 数学できるよ〜! 素数言えるもーん! えっと、1』

『ちがうだろ、バカ。最初はから始まんの』

『えぇっ⁉︎ しょなの〜、さんしょーちゃん賢ぉい!』


「…………あわわ」


『はっ! 普通の人が映り込んじゃってる! あちゃー、これは撮り直しだー! もう、さんしょーちゃんがグダってるからぁ〜』

『おめぇのせいだろ。それに普通の人じゃないよ。最近伸びてるダンジョンストリーマーだよ。私たちと同じ』

『おぉ! かわいいねぇ!』


「へ……」


『『へ?』』


『変態さんがいるぅ⁉︎』


 そうである。

 ここまで漫談を繰り広げていた二人の格好は、身体中に白い点々とした丸い突起物がいくつも付いた黒い全身タイツ。

 頭からつま先まで包まれており、顔にも白い点が付いているので、集合体恐怖症の人は見るのもキツいだろう。


『うぇー⁉︎ 変態だってー! さんしょーちゃん言われてるよぉ‼︎』

『私じゃねぇわ、お前を見て言ってんだよ』

『えー、さんしょーちゃんヒドーい! ねぇねぇ、とわくーん。さんしょーちゃん、ヒドいよね⁉︎』


 と、ここで一旦相手側の撮影が終了した。


「すみませんすみません、うちの松實まつみ三昌さんしょうが迷惑をおかけして」

「いえ、こちらこそうちの吾妻がすみません」


 俺がマイマイのマネージャーであることを先に挨拶をすると、二人を撮影していた彼も自己紹介をしてくれた。


「僕は彼女たちのマネージャーをしております。永田兎羽ながた とわです。それであの二人が松實幸まつみ ゆき三昌奏さんしょう かなでです」


「うぇー⁉︎ マイマイかわいいねー!」と奇声を上げているテンションが高い方が松實、溜息ばかりついてたまに怒る方が三昌らしい。

 二人は今、吾妻に変態呼ばわりされていたのに、仲睦まじく話している。

 吾妻も心を開くのが早すぎる。


「それであの奇抜な防具は何ですか?」

「あぁ、あれは防具じゃなくて普通のモーションキャプチャですね。VNewTuberブイニューチューバーって知ってますか? アニメーションモデルを使って配信をするNewTuberです」


 知識としてだけは軽く入れていた。

 現実の動きや物体をデジタル化し、映像に表現するために必要な技術がモーションキャプチャ。あの白い点々だ。

 2Dや3Dのアバターを使用して動画を投稿するVNewTuberは一定の人気はあるが、こうしてダンジョンストリーマーとして活動するのはたった一チャンネルしかいない。


「あ、ユキカナチャンネルの方々でしたか」

「ええ、そうです。彼女たちがユッキーとカナデの中身です」


 ユッキーはピンク色のサイドテールの、いかにも太陽のように明るいキャラクター。

 中身の松實は黒髪ロングの清楚系な見た目をしているが、口を開けばユッキーそのものだ。吾妻とかなり近しい性格をしている。


 対してカナデは、ユッキーとは対照の場所に水色のサイドテールの、月のように基本静かなキャラクター。

 中身の三昌は黒髪の肩ラインボブに、イメージカラーでもある水色のインナーカラーを入れており、こちらもキャラ同様の性格をしている。時折激しいツッコミをしているが。


「普通に教えてくれるんですね」

「すみません、夢を壊してしまいましたか? 普段は徹底して人目の付かないところで活動していますが、まぁ見られてしまったので、いっそお伝えしたのちに、口外しないことを約束した方が早いかと」


 俺は当然、首を縦に振った。チャンネルにはそれぞれの方針が存在するので、それには従いたいと思うが……演者が守ってない時点で大丈夫だろうか。


 永田が見せてくれたパソコン画面には、現実の吾妻とキャラ化している二人が同時に映っている。

 二次元と三次元の共存に、何だか脳がバグりそうだ。


「すごいですね。VNewTuberでダンジョンに挑むなんて」

「あはは、売れるためには他にないような個性を出さないとですから。だから誰もいなかったジャンルのダンジョンストリーマーを目指したんです。最初はお金もかかるし、専門的な技術もいるとかで大変でしたよ。まぁ、それでもここまでやれたのは、彼女たちのおかげです」


「──マイマイ〜、ワタシね、毎日が幸せなの!」

「おぉ、わたしも幸せだよ! ダンジョンを探索するだけじゃなくて、準備するのも動画を見返すのも楽しいもんね!」

「そそー! それに大好きなさんしょーちゃんと冒険するのも最高に楽しいのー! ねー♪」

「いや、私は別に」

「うぇ〜、さんしょーちゃんツンデレだぁ〜。ほんとはワタシに会えて嬉しいくせにぃ〜」

「嬉しく……あ、なんか来たよ」


 ダンジョン奥からやって来るのは、氷を纏いし三つ目の鬼。

 それも二体いる。

 このカルイザワダンジョンではかなり強い方の魔物になるが、吾妻や俺よりも先に松實たちが前に出る。


「ふっふっふっ〜、マイマイ見ててねー。A級1位と2位の実力ってやつをね!」

「非公式だけどね」

「ちなみにワタシが1位だよ〜、さんしょーちゃんが2位〜」

「おめぇ、黙って戦え‼︎」


 松實は紅色の双剣を、三昌は蒼色の二丁拳銃を取り出した。

 もちろん、これらにもモーションキャプチャが付いてある。


「宝具:海月かいげつ


 銃声が六発。撃ち出したの弾丸は魔物の三つ目を全て撃ち抜く。


「へへーん! 宝具:海日マンボウ‼︎」


 ぐるぐる双剣を回しながら突撃していく松實は、一瞬にして鬼の首を獲った。

 なんかネーミングセンスも吾妻に似てるな……。


 彼女たちが防具もなしに奇怪な姿で探索できる理由──答えは単純だ。

 公には20人しかいないS級探索者に一番近い強さを、持っているから。


「とわくーん! 今の撮影してたぁ〜⁉︎」

「すみません、してないです」

「うぇっ⁉︎」

「相変わらず戦う前に、まず撮影してるか確認しろって言ってるだろ」

「えぇー! さんしょーちゃんも確認してなかったじゃーん!」


 チャンネル登録者数321万人。

 個性はかなり尖っている二人だが、撮影されていないだけで、もしかすればこれ以上に評価されていいユニットなのかもしれない。

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