33.おひるねしてまいります……


 長回しにも関わらず、女子会は盛り上がった。

 ダンジョンを探索する時の裏話や、収入の使い道、最近流行しているものなど、テーマ毎に話題は尽きなかった。

 特に熱を帯びたのは、植山と野田による舌戦だった。


『マイマイはね、アタシのことを身を挺して守ってくれたのよ。チャンネル登録者数が10万人行った時にゃんてアタシたちの救助配信でにゃんだから。あの瞬間を見られるにゃんて、ほんとアタシは持ってるわ〜』

『マイマイさんは龍型のレイドボスを簡単に倒せるほどの実力者ですから、当然でしょう。偶然居合わせたことを威張るほどではないと思いますわ。わたくしなんてマイマイさんに命だけでなく自由も与えてくださったのですから』

『へ、へぇー。まぁ? アタシのとこに出たのもレイドボスだし? それにマイマイは強いだけじゃにゃいの。ダンスもできちゃうんだから』

『アーカイブを拝見させていただきましたよ。ただ少し意地の悪い教え方だったような気がしますが』

『マ、マイマイがかわいかったから照れ隠しよ』

『ならば最後まで隠し通してください。可愛いことには全肯定いたしますが』


 ……多分この辺は全カットだな。


『えへへ〜、照れちゃうな〜』


 吾妻は二人の争いを止める気はなさそうだし。

 あと、お前はもっとちゃんと喋れ。


 このように、視聴者を置いていくだろうトークも多々あったけども、そこは編集で何とかしてくれる。

 公開されるのは一番チャンネル登録者数の多いえりにゃんチャンネルなので、下池が編集をすることになる。

 彼女の編集技術とセンスは素晴らしい。どんな取れ高であっても、クオリティの高い動画に仕立て上げてくる。

 さすが長年野田を支えただけある。彼女の魅力の引き出し方、魅せ方を熟知している。

 今度、ちゃんと教えを乞いたいと思う。



『──それにしても、本当にここはとても可愛らしいダンジョンですわね。まるでテーマパークに来たみたいですわ』

『葵ちゃん、とってもここにマッチングー! してるよー!』

『ふふっ、お褒めの言葉ありがとうございます』

『ホント、ぬいぐるみとかいっぱいあるからにゃー。この辺のは全然持ち帰ってもいいらしいよ』

『ほんと⁉︎ じゃあ、一人お持ち帰りしよーっと!』


 吾妻は立ち上がって俺がいるぬいぐるみコーナーまで駆け寄ると……『この子にするー!』と真っ先に俺を持ち上げた。

 俺だと気付かれてはいけないので、動かないようにしてるが……おい、野田。何笑ってるんだ。


『まぁ、とても可愛らしい猫さんのぬいぐるみですわね。ただ、目つきが悪いですわ』

『そこがかわいんだよ〜。なんかパッと見た時にこの子がいい! って思えたんだー、なんでだろ?』

『タイプにゃんじゃにゃい? 顔が』

『そゆことか〜』


 吾妻は俺を抱いたまま席に座ると、遠慮なくギュッと絞める、いたたたたたたた。


『なんかこの子あったかくていい感じ〜。ふぁーあ、眠くなっちゃうね』

『結構長いことお話致しましたからね』

『お、マイマイの寝顔見たいにゃあ〜』

『まだ寝ないよ! もっと二人とおはなしするもーん!』



   **



『くかー』

『もう寝ましたわね。三分と経っていませんが』

『よく座りながら寝れるにゃー。アタシ、横ににゃらにゃいと寝れにゃいんだよね』


 吾妻の睡眠リタイアにより、二人がいい感じに動画を締めて、撮影は終了した。

 早く脱出したいところだが、野田がすかさずやって来る。


「何事もにゃくてよかったー。じゃ、宝具返して?」

「おい、今はやめ──」


 俺は猫の状態から無理やり耳を引っ張られて、人間に戻されてしまった。


「まぁ。猫さんは東さんでしたか。気付きませんでしたわ」


 嘘だな。

 下池は俺の猫姿を一度見ているから知っていただろうが、植山も大城も途中で気付いていただろう。

 何で吾妻だけ気付かなかったのかは、あいつがアホだからで理由が片付く。

 んで、このアホは膝の上に人間姿の俺が座っているのにも関わらずぐっすり寝ている。


「また編集した動画は……送らせていただきますね」

「おい、このまま話を続けるな」

「では、本日はコラボしていただきありがとうございました」

「ん、じゃあまたコラボしましょー」


 俺は立ち上がろうとするが、吾妻がガッチリと腰を掴んで立てない。

 こいつ、寝てる時の力が強すぎる……⁉︎

 いつの間にか退散準備も大城の手際の良さによりほぼ終了している。


「東さん」


 ようやく吾妻をおんぶする形になったところで、下池に呼びかけられた。


「絵里奈の宝具使ってまで女子会気になってたんですね……分かります、恋愛の話は必ず出ますし」

「別にそうじゃないんだが……」

「吾妻さんのことを大切に思ってるんですよね。わたしも、絵里奈に彼氏ができた時は色々としましたから」

「……え」

「やっぱり、わたしたちは同じですね」


「夏菜ー、にゃにしてんの帰るよー?」


「では……失礼いたします。お疲れ様でした」


 ……今、怖いこと聞いたな。

 同類にされてしまった。確かに同類ではあるんだが、さすがにそこまでのことはしてな……。


 …………吾妻がメンバー集めの時、確か……。


 ………………。


 解散となったわけなので、早くダンジョンを出よう。

 なるべく他の人と遭遇しないよう、行きと同じ裏道を通って入口へと向かった。



   **



「んっん〜……」

「起きたか。そろそろ駅だ。ここから歩けるか?」

「むり〜」

「歩けよ」


 入口で本格的に野田や植山たちに別れを告げた後、駅に向かう道中で吾妻が起きた。

 が、降りてくれない。


「あれぇ、女子会は? それにネコちゃんのにゅいぐるみぃ〜」

「終わったし、置いていったよ」

「マジでか。ふぁ〜あ……ねみゅい」

「寝れてないのか?」

「だって、今日が楽しみすぎて朝5時に起きたもん」


 早すぎだろ。

 遠足が楽しみで夜寝れないとよく聞くが、吾妻は朝早くに起きてしまうのか。

 それで、今日は集合時間よりも早く来すぎていたのか。途中で寝てしまっては本末転倒だが。


「えへへー、東くんの背中あったかいね〜。おんぶしてくれてさー、なんだか本当のお兄ちゃんみたいだよー」

「ま、俺たちはビジネス兄妹だからな」

「あー、そっかー」


 そのまま吾妻は再びまどろみへと沈んでいった。


 ……兄妹か。

 本当に俺たちが兄妹だったら、どれほど良かっただろうか。

 きっとあの感情にも語頭に家族が付いて、その上ずっと一緒にいて、お兄ちゃんとして妹を守って。

 永遠に関係性は変わらずに済んだのだ。


「むにゃむにゃ……おに……おにぎりぃ……」


 ただ、こんなアホな妹は嫌だな。

 肩が涎でビショビショになるのは勘弁してもらいたい。

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