32.【タマトーーーク‼︎】大好きなみんなと女子会してみた!
「ふぃ〜、楽しかった〜」
「収録おつかれさま」
「ううん、全然疲れてないよ! 答えるだけだからねー」
とある別の撮影で、タマダンジョンへと早く訪れていたので、時間潰しとして以前からやりたいと言っていた100の質問を答えてもらった。
適当なサイトからほぼそのまま引用してきたが、彼女の今を色々と知るいい機会になったな。ファンも増えてきたし、再生数もそれなりに取れるだろう。
気になった答えもいくつかあるが……いや、これ以上は詮索しないでおこう。
聞いたら個人情報を何でも教えてくれる、情報管理が田舎の老人会並みに緩い吾妻だ。下手なことは喋らせない癖付けをしていった方がいい。
「そろそろ待ち合わせの時間だよね。楽しみだな〜女子会!」
この後、植山葵、野田絵里奈と共に女子会を開催する。撮影者は下池夏菜が、その他諸々のサポートは大城優見が担当と、全員が女性である。
ここ、タマダンジョンは危険等級はD級。完全攻略済の安心安全なダンジョンである。
キラキラフワフワで、どこを見てもパステルカラーな、まるで女児の夢の国に迷い込んだようなダンジョンは、インヌタ映え抜群とD級だからこそ探索者以外の女性も多く訪れる人気スポットである。
俺は吾妻がみんなと合流するまでは一緒に待っていたが、別に男子禁制ではないというのに、ここにいるのがとても気まずいな。
そして定刻の15分前に植山たちが。2分前に野田たちのグループがやってきた。
「お初にお目にかかりますわ。わたくしは植山葵と申します。こちらがメイドの大城優見」
「ご紹介に
「ども、えりにゃんこと野田絵里奈です。んで、こっちがカメラマンの」
「下池……夏菜です」
と、一度聞いたことがある挨拶を軽く済ませると、
「わたしがマイマイこと吾妻舞莉です‼︎」
みんなと顔見知りなのに、吾妻が一番大きく挨拶してみせた。
お恥ずかしい限りだが、他の四人は笑って見逃してくれた。できれば甘やかさないでいただきたい。
「あれ、東くん。帰っちゃうの?」
もう野田たちにも本当の兄妹じゃないことはバレてるので、普通に名字呼びされる。
「ああ。外で待ってる。女子会が終わったらまた連絡してくれ」
「う、うん。わかった」
一応、撮影という体を取っているが、このメンツならばリラックスして臨めることだろう。
とりあえずこのメルヘン世界に男が一人でうろついていると、ダンジョン内だというのに通報されることもあるらしいので、急いで入口まで退散するか。
「あ、ちょっとお花摘みに行ってくるね〜──おい、待て」
野田に捕まってしまい、路地裏へと連れ込まれるとなぜか壁ドンされてしまう。
「……なんだ」
「どこ行くの? マイマイを一人置いて行く気?」
「お前たちがいるだろ」
「言葉を変える。女の子たちを危険なダンジョンに放置するの?」
「D級──」
ジャキッと、
……悪意や殺意は感じられないが、一体何を企んでやがる……。
「アタシの宝具、貸してあげる。これ着けて警護しといてよ」
「必要ないだろ。植山に大城……それに吾妻なら、D級を怖がることは──」
「あー、もしかしたらまたアンチに襲われるかもしれなにゃいにゃー。前回のあれも犯人はアンチだったと聞いたよー。怖いにゃ〜、か弱い女の子がまた襲われたらどうしよー」
「……分かった。周囲は警戒しておくから」
「いや、女子会を見てて」
「何でだよ」
「にゃんでも。とにかくそれでよろしくね」
野田の半ば脅迫とも取れるお願いにより、俺は猫となって女子会を見届けなければならなくなった。
いずれ公開された動画をチェックするというのに、野田は何を考えている?
大城の素早いセッティングにより、洋風(ところどころ和が混じっている)の会場ができあがる。他にも中島シェフに持たされたスイーツと抹茶の準備も完璧だ。
下池のカメラのセッティングも終わり、演者のメイクも済み、いつでも撮影可能な状態となっていた。
俺はカメラと吾妻の死角になる場所にある大量のぬいぐるみたちの中に身を潜める。何でダンジョンにぬいぐるみがあるんだろうな。
吾妻の向かいに座る野田と目が合うと、ニヤリと不敵に笑われた。
『みにゃさーん、こにゃにゃちは! えりにゃんチャンネル〜えりにゃんです! そして⁉︎』
『ごきげんよう、紳士淑女の皆様。アオイ嬢の優雅なひとときチャンネルから参りましたアオイ嬢です。そして』
『こんマイリー♪ マイマイチャンネルのマイマイです!』
『今日はにゃんと! 三チャンネルのコラボ女子会でーす‼︎』
『わー!』と吾妻のテンションは上がり、植山も上品に拍手する。
マイマイチャンネル37万人、アオイ嬢の優雅なひとときチャンネル23万人、そしてえりにゃんチャンネル109万人。計169万人の登録者数を誇る。
三人に気付いたファンが押し寄せないように、この辺一帯は貸切にするまでには人気が出てきたな。
全員が宝具持ち探索者による女子会トーク。
一体どのような話が飛び出して来るのか。
そして、吾妻はちゃんと他二人について行き、自分をしっかりとアピールできるのか。
多人数でのコラボだと自分の持ち時間が減るから、視聴者に何の印象も残さず動画を終えてしまうことがある。
今後のためにも、慣れた二人を相手に頑張ってほしい。
『じゃあ、さっそく〜、今、好きにゃ人いる? まずはマイマイから!』
こいつ、豪速球ストレートを投げてきやがった。
しかも、野田はわざと俺に目を合わせてウィンクする。
(やってあげたよ)じゃないんだよ、やりやがっただろ。
野田は人の感情を過敏に受け取ることができる。
俺たちの何を感じ取ったのかは知らんが、いらんお世話だ。
『わ、わたしの好きな人⁉︎ えっと……』
答え方次第でファンの反感を買うことになる。生配信じゃないのでカットすれば済む話だが、こいつまた吾妻を貶めようと……いや、野田は目をキラッキラ輝かせている。
植山は抹茶を美味しそうに頂いている。
『あ、あ……葵ちゃんはいるの⁉︎』
『ブフッ‼︎ わ、わたくしですか……? マイマイさん、ゆとりのあるわたくしであっても、急に話を振らないでくださいませ。縁談の話はいただくことはありますが、殿方を好いたことは未だありませんよ。えりにゃんさんはいかがですか?』
『ん? 今はいないかなー』
『えぇ‼︎ 今はってことは、昔はいたの⁉︎』
『まぁ、元カレいたし、あまり長続きはしなかっ……』
『『『あ……』』』
アイドル、女優に声優、今ではダンジョンストリーマーをはじめとした配信者などは、過去に男がいたとチラつかせるだけでも炎上する理不尽な職業である。
とにかくガッツリと元カレがいた話が出てしまったので、ここは丸々お蔵入りとなった。
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