27.【黒歴史】実は昔こっそり配信してました……


 金子悠──吾妻とは中学からの付き合いであり、自由奔放な彼女に対して身の回りの世話をしてあげる、保護者的な立ち位置の友達だ。


「舞莉、行くよ」


 俺と同じような役割だから気持ちも分かってくれるはずなのだが、彼女は俺に対してかなり手厳しい態度を示す。

 それもそのはず。

 金子こそが一番最初にダンジョンストリーマーになることを吾妻に告げられ、勧誘されたが、それを断った人物だ。

 理由は当然、危険だから。


 なので、彼女からしてみれば俺が吾妻を唆し、ダンジョンに連れて行く悪い男として見えてしまうのは至極当然のことである。

 いつも一緒にいた友人が恋人できたからと遊ぶ時間がなくなって、相手に嫉妬するのと同じ原理だ。

 ……自分で言ってて恥ずかしくなった。


「もうすぐ期末テストでしょ。勉強教えてあげるから」

「ほんと! さっすが悠ちゃん! 赤点取ったらダンジョン行けなくなるもんね〜」

「……じゃあ、勉強教えない」

「えっ⁉︎ なんで⁉︎」

「危ないからに決まってるでしょ。別に配信なんてダンジョンじゃなくてもできるじゃんか。前みたいに家でやっても、今はファンがいるんだから観てくれるでしょ」


「家で?」と疑問に思ったことを口にすると、金子はこっちを睨みつける。

 思った以上に嫌われているようだ……。そんな中、吾妻は顔を赤くして俯いていた。


「舞莉は昔、NewTubeで配信してたのよ。まぁ、全然面白くなかったし人気も出なかったから、すぐにアカウントごと削除したけど。そんなことも知らずにバディやってたんだ。へー」

「わー! 悠ちゃん恥ずかしいから言わないでー‼︎」


 ぴょこぴょこと金子を止めようとする吾妻だったが止められず、ただマウントを取られた。

 きっと本当に仲のいい友人にしか話してなかったのだろう。俺でもその情報は知らなかった。

 金子曰く、再生回数は平均2回ほど。どんな底辺でももうちょっと再生回数は稼げるだろ。

 内1回は金子が情けで観ていたらしい。


 吾妻がやけにカメラ慣れしてるなと内心密かに思っていたが、まさかそのような過去があっただなんて。

 その撮った動画とやらを観てみたい気持ちはあるが、吾妻は頑なに「ダメ‼︎ 恥ずかしいからダメ‼︎」と断った。


「舞莉、私観てたよ。前のシンジュクダンジョンで酷い目に遭ったじゃん。今回はたまたま無事だったし、強い人が助けてくれたから良かったけどさ。……ねぇ、もうダンジョンに行くのはやめよ?」

「やだ! ダンジョンに行く!」

「子供か。私は舞莉のことを思って言ってるんだよ! 行くとしても、せめてD級で──」

「やだ! わたしはいつかSS級ダンジョンを初攻略するもん!」


 SS級ダンジョン──出現してから10年以上、攻略どころかまともに進行すらできてない超高難易度ダンジョン。

 以前も説明したが、探究省が重い腰をあげて許可を出さない限り、入ることすら許されない禁足区域。


 シレトコダンジョン──雪と氷に覆われた地。

 どんな防寒をしても一時間も耐えられない過酷な環境が待っているダンジョン。


 アキハバラダンジョン──過密都市のような入り組んだ迷路のような場所。

 時間経過により常に道が変わり続けるため、一度入ると出られないダンジョン。


 フジヤマダンジョン──アーカイブストーンに名はあるというのに、見つからない入口。

 内部を誰も観測していないので、難易度自体が未知なダンジョン。


 ビワダンジョン──ほとんどが水に沈んだ空間。

 全国で初めて発見された元祖ダンジョンだが、未だに攻略されていない。


 アカシダンジョン──濃霧に浮かんだ橋を渡り切るだけだと言われている所。

 一本道で、魔物も出ないらしいが、探索者の記憶に干渉してくる怨呪に確実にかかり、正常には生きて帰れないダンジョン。


 イズモダンジョン──他とは比べ物にならないほどに強大な魔物が棲息するエリア。

 こちらも同じく出入りできないはずだが、魂が抜けた、まるで人形のように変わり果てた人が、時々入口で見つかることから、人々に畏れられているダンジョン。


 そして、ヨナグニダンジョン──俺が生まれた故郷──


 以上、7つが現在SS級に指定されているダンジョンだ。

 これらを初攻略することが、探索者全ての夢であり、ダンジョンストリーマーにとって、大バズり間違いなしのコンテンツ。


「いや、無理でしょ。だって誰も攻略してないんだよ。分かってる?」

「だからわたしが初攻略するんだよ。わたし最強だからね!」

「そんな冗談やめて。趣味に命かけるなんてバカバカしいよ!」

「趣味じゃない、本気だもん‼︎」


 珍しい吾妻の激情に金子はたじろいでしまった。

 吾妻はどんなことにも全力だ。

 食べ放題に行けば腹がはち切れるほど食べるし、遊ぶ時も体力がなくなるまでセーブすることなく張り切る。

 楽しいと感じるものには本気で挑む。

 幸せになることを遠慮しない。

 それが彼女の人生観だからだ。


 しかし、それでも金子が心配する気持ちも変わらない。

 仲良い二人は、頑固者である点は似ているのかもしれない。


「……分かった。じゃあ、テスト明け、次のダンジョンには私も連れてって」

「えっ、悠ちゃんを⁉︎ ダンジョンは危ないんだよ!」

「どの口が言ってるのよ。最強なんでしょ? だったら私くらい守れるよね」

「もちろん! 悠ちゃんに傷一つ付けないんだから! ねっ、東くん!」

「あ、この男は付いてくるの禁止ね」


 金子は自身のスマホを取り出すと、俺に向かって突きつける。


「撮影は私がする。私が一番舞莉を可愛く撮れるから。どうせお前も舞莉に近付きたくて甘い言葉をかけたただの変態でしょ。男ってみんなそうだから」

「あ、東くんはそんなことないよ! わたしから誘ったし、それに温泉の時もすっこぐ気遣ってくれたもん!」

「あー! はいはいハコネのやつね⁉︎ やっぱりあの時いたんだ、編集したんだ⁉︎ どんな手と言葉を使ったのか知らないけど、舞莉はチョロいのよ……舞莉は私が守るから……‼︎」

「……あれ、わたしバカにされてる??」


 吾妻みたいに、可愛い女の子に下心持って近付く男ばかりなのは分かっている。俺もその内の一人に数えられても仕方ない。


 ──吾妻がまだバディを探していた頃。

 俺は、彼女に近付いてきた男を全てように仕向けるため、あの手この手で妨害していた。もちろんギリギリ法に触れない程度でな。

 女子ならまだしも、男はその辺り信用できないからな。

 だからこそ吾妻に勧誘された時、同じ立場に俺もなってしまうため断ろうと最初はしたが、自分が側にいた方が守れると思い、承諾し直したのだった。

 俺がここまでして彼女を守る理由、それは──


「じゃ、そういうことで。再来週末に舞莉と私の二人きりでダンジョンに行くから。分かったよね、舞莉」

「うん! よぉし、ダンジョン頑張るぞー!」

「その前に赤点取ったら問答無用で探索するの禁止にするから」

「……はい、勉強頑張りましゅ……」


 完全にペースを金子に取られてしまったが、ここで簡単に引くわけにはいかない。

 俺は二人にバレないように、ダンジョンでサポートすることを決意した。


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