22.登録者10万人突破!みんなありがと〜‼︎
銀の盾を手に入れた吾妻は、ムカデからの執拗な攻撃を動体視力だけで全部防ぐ。
だが、一撃が重い。
盾を持つ左腕には痣ができ始めていた。
「うぅ、このままじゃやられちゃうぅ……よぉし!」
吾妻は注意を引きながら、魔物を野田たちから引き離すようにして逃げる。
「わたしはなっがーい魔物倒したことあるもんね! こういうデカいやつは、拡散だぁ!」
撹乱である。
ダンジョン内を縦横無尽に逃げ回る吾妻、こうすれば巨体な魔物は付いていけない。
が、ただの巨大なムカデではなかった。
なんと節目ごとに分裂し、それぞれが個体として活動し始めたのだ。
「いやぁー! キモーい‼︎」
威力は弱まったが、増える攻撃の手数。
「うっ、痛っ……!」
次第に吾妻の身体にも当たるようになり、ボコボコにされてしまう。
「──このままで終わってたまるもんですか」
「絵里奈、これ以上動いちゃ……」
「バカ! 新人に好き勝手されるのムカつくでしょ。それに、止まってても死ぬだけなら、最期くらい派手にバズってやる……‼︎」
野田は左脚に刺さった鉄筋を、歯を食い縛りながら無理やり引き抜いた。
「宝具:吾輩は猫なのだ。──
吾妻を助けるため、小さく分裂したムカデの魔物を次々と引き裂いていく。
「えりにゃん!」
「あー! もう! ムカデがキモい‼︎ 嫌い! さっさと追い払うわよ‼︎」
「うん‼︎」
二人は背中合わせとなり、襲いかかる魔物を野田が引き裂き、吾妻が後ろを盾で守る。野田が自由に動けないので、これで少しずつ削っていくしかない。
だが、魔物も単純ではなかった。
再び合体して巨大な姿に戻ると、また大きくなって突進してきた。
「ふん! ぐっ……あぁ、盾が!」
一度は攻撃を防いだものの、銀の盾は二つに割れてしまった。
また、突進しようとする魔物──
『……うっ、みなさん、お願いします。あの魔物を倒すために、チャンネル登録お願いします……!』
戦闘中、下池は飛ばされたカメラの元に行き、視聴者に登録を呼びかけた。
【えりにゃんのバディ? かわいい】
【儚い……】
【戻ってやるか】
91万、92万──
【登録必死で草】
【でも登録するだけならタダだろ】
【頑張って〜】
93万、94万、95万──
【サブ垢作りました】
【いつも応援してます!】
【おぉ、めっちゃ増えてる】
96万、97万、98万、99万──
【チャンネル登録しました。みんな生きて帰ってきて‼︎】
「──あ、金の盾……」
チャンネル登録者数100万人。
達成すると届く金の盾──
それが野田の手に渡った。
「……っ! これでどうよ‼︎」
金の盾が再度魔物の攻撃を防いだ。
「わぁ! すごい!」
「でも、これじゃ倒せない。ただ時間を稼ぐことしか……」
「──いや、十分だ」
すると、一際輝く何かが上から降りてきた。
「あ! フランちゃん!」
ファイヤーフランタンは吾妻のことをちゃんと所有者だと認識しているので、今彼女がどこにいるかを把握していた。
そのフランちゃんを追いかけるように降り立った一人の男。
フルフェイスのヘルメットを被って顔を確認できないが、少なくとも吾妻たちを庇うようにして前に登場したので、敵ではなさそうだった。
「待たせた」
「あ、アンタはマイマイのスタ──」
「ひ、ヒーローが助けに来てくれたぁ⁉︎」
「……え? いや、この人アンタの……」
「……あぁ、ヒーローだ」
野田はこの男が誰だかは、声と変わっていない服装ですぐに分かった。
だが、それでも吾妻は何も気付かない。
「もう、いいわよ。……来るわ‼︎」
ムカデ型の魔物は巨体の本体を残しつつ分裂をして、四方八方から襲いかかってくる。
野田たちは盾を構えるが……次の瞬間には、魔物は消し飛んでいた。
「なっ⁉︎」
木っ端微塵になった魔物。
きっと、立っているだけの彼が何かしたのだろうが、野田の目には何も映らなかった。
「と、とうとう目覚めちゃったか……マイマイの覇気的ななにかが!」
「はいはい、そうね」
「協力してくれてありがとー! 謎の人! お、お名前は何ですか⁉︎」
「えっ……。……ヒーリョー」
この人ネーミングセンスないのかな。と野田は思った。
「か、カッコいいー‼︎」
だが、吾妻は興奮冷めやまなかった。
「──絵里奈……‼︎」
カメラを抱えた下池が野田たちの元にやってきた。
と思ったらカメラを投げ捨てて絵里奈に抱きついた。
「ちょ、カメラ⁉︎」
「絵里奈ぁ……無事で、無事で良かったよぉ……」
「……もう。分かったから。離れてって」
野田は照れながら下池を自分から引き剥がし、捨てたカメラを拾って、無事であることとチャンネル登録してくれたことについて感謝を伝える。
コメント欄には安堵と歓喜の声が流れているが、PCは向こうに置いてきたので、反応の確認はできない。
だが、そんなことは今はどうでもよかった。
それと同時に、【最強の探索者現れたか⁉︎】【あのヘルメットの正体は誰?】とも話題になっていたが、三人がそれを知るのはもう少し先の話である。
「ここから脱出するなら、そのランタンを使えば上がれる。では」
「どこ行くのヒーリョー‼︎ 一緒に出ないの?」
「ああ。ここから先はプライベートだ……まだやることがあるんでね。だから撮影禁止だ」
「そっか、じゃあまた会おうね!」
「ああ」
そして、ヒーリョー──こと、東亮は出っ張った壁の部分を足場にして、跳んで上っていった。
「か、カッコいいー!」
キラキラと目を輝かせる吾妻。
いつかコラボしてみたい、そう思っているが、毎日出会って一緒撮影してる仲であることは気付かないままである。
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