19.えりにゃんの変身を間近でみれたー!【オタクマイリ】
『みんにゃ、おっまたせ〜。第一スポットはウラカブキを見下ろせるこの高台でAメロを振り落としするよ! マイマイ? 準備はいい?』
『うん‼︎』
待機画面明け。
さっそく野田は流行りの音楽をかけて、踊りを披露する。
……それはとても素人だとは思えないレベルだった。
身体の魅せ方、寸分の狂いもないリズム感、プロダンサー並の技術に、コメント欄は称賛の嵐。
『すごい‼︎ カッコいい‼︎』と吾妻も手を叩いて喜んでいた。
本人も満足そうに、息一つ切らさず吾妻に向き直る。
『どう? 覚えた?』
『うーん、な、なんとなく……?』
『じゃあ、またアタシが前で踊るからマネしてみにゃよ!』
曲調からして、全体を通して難しい振付なのが分かる。
本当は圧倒的実力差を見せつけて、自分は優越感に浸り吾妻には恥をかかせる、そう考えていたに違いないと今までの野田からそう思っていた。
だが、相手はアホで単純で……運動神経が人並みには終わらない吾妻だ。
真似するだけなら吾妻にもできる。
加えて、憧れのえりにゃんと踊れることに喜びが全身から溢れて出て、観ているこっちも楽しい気持ちになる。
さらにはファイヤーフランタン──通称フランちゃんも荷物から飛び出して行き、吾妻を正面から綺麗に照らしてくれた。
【マイマイ可愛い!】【ダンスできるんだ!】【すっごい楽しそうに踊ってるのがいいよね】
吾妻の見せたことない特技により、コメント欄は盛り上がりを見せて同接は8000人を超えた。
マイマイチャンネルの登録者も9.3万人まで増えている。
【えりにゃんより上手いんじゃね?】
『……っ。──おっけー! マイマイ踊れるじゃーん、いいね〜』
『ほんと⁉︎ いっぱいえりにゃんの動画をみて練習してたんだ〜。でも、えりにゃんには敵わないよ〜』
『……そんなことにゃいと思うよ。じゃあ、Aメロは完璧ということで、Bメロを振り落とすスポットまで移動しよー! こっからはダンジョン配信だよ!』
『おぉ!』
次の目的地はシンジュクダンジョンの中層にあるらしいので、移動を始める。
下池が首からかけたPCテーブルにパソコンを置いて操作しながら、カメラを三脚から取り外そうとする。
「カメラは私が回しますよ」
「わ……ありがとう……ございます」
吾妻たちの会話よりも小さい、マイクに拾われないほどの小声で話せるくらいに近付き、下池からカメラを譲り受ける。
よし、これで、構図の決定権は俺が持つこととなった。
『踊ったからいっぱいお水取らにゃいとね? 飲んだら行こっか!』
『うん!』
グビグビとペットボトルの水を飲んで、中層へと向かう。
ウラカブキは今回通らない。常に人が多く混雑してるし、生配信中だから居場所も容易く割れてしまっている。
それに、あそこはまだ女子高生が行ってはいけない店があったりするので、危ないから近寄らせることはしたくない。
一番探索者が多いダンジョンというが……正直ほとんどは上層で事を終えている。
人通りの少ない道を選んでも、攻略済みされたダンジョンであるので、魔物とは出会わずに中層には簡単に辿り着いた。
この間はずっと女子会トーク。
最近の音楽、化粧品、これから来ること間違いなしの食べ物まで、主に野田が話を永遠と広げてくれるので、途切れることなく二人の会話は盛り上がっていたが……正直、俺は興味なかった。
きっと、ファン層も同じ感覚なはずだが、二人が仲良さそうに話してたらそれでいいのだ。
【かわいい〜】
この類のコメントが絶えず流れていた。
二つ目のスポットである、シンジュクダンジョン中層名物〝カゲギョエン〟──漆黒の植物が辺りを覆う、影に呑まれた公園だ。
視覚感覚がバグるだけであって、危険度もさほどない。
フランちゃんのお陰で吾妻はこけずに済み、Bメロの踊りも無事にマスターした。
『次はさらに潜って下層行くからね。水分補給も忘れにゃいように!』
さらにダンジョンを下りて行くと、さすがに魔物が出てきた。
だが、ここは一旦野田の実力が見たいので任せる。
『ここは先輩として、見せてあげますかにゃ。宝具:吾輩は猫なのだ。──
『きたー‼︎』
猫耳カチューシャが同化したように耳が生え、黒く長い尻尾と黒猫の手。もちろん肉球付きだ。
一見コスプレにしか見えないが、鋭い爪ならぬ刃物が両手に三本ずつ指の間から出ている。
『にゃにゃにゃー‼︎』
現れた狼型の魔物を次々と裂いていく。
動きが素早過ぎて、カメラに一瞬収められないところもあった。撮影者の無能さをコメントで叩かれるほどだ。
彼女はもっともA級に近いB級探索者である。
おそらく、一ヶ月せずとも昇級するだろう。
『ふん。どうよ』
『すごーい!』
吾妻は大きく手を叩いて、野田のことを称賛した。
……そういえば伝え忘れていたが、吾妻もハコネダンジョンを初攻略したことで一気にB級に昇級した。
B級探索者となった時「東くんと並んじゃったね〜」と言って、しつこかった。
A級になれる日もまぁ、近いだろう。
……ん?
「どうか……されましたか?」
何か見られている気配を感じたが、気のせいか。
正直この辺りは探索者も多いし、えりにゃんに気付いたミーハーが時折盗撮してたりするから、分かりづらい。
隣にいた下池は俺の反応に反応したわけだが、「何でもない」と言って流した。
そして、シンジュクダンジョン下層──〝ヤミトチョウ〟へと辿り着く。
広く深い真っ暗な穴の中に、下層の天井から逆さまに建てられた新宿都庁そっくりな建物。
第三スポットはここらしいが、正直薄暗いこの空間のどこが映えるのか理解できなかった。トリックアートみたいなところか?
『じゃあ、ここでサビを振り落としたら、テストといってみますか!』
『うん‼︎』
……そういえば、さっきから吾妻の語彙力ないな。
もうちょっと勉強の方も努力してほしいものだ。来月期末テストだぞ。そっちを頑張れよ。
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