15.【初宝具】わたしの新しい相方を紹介しちゃいます!
「ん〜!
「
「それそれー。焚き火もして、美味しいお肉も食べて! いいソロキャンだったね!」
ソロとは何か。
暴走した哲学が正面衝突してきた。
「夜だったのは一時間くらいで外はまだ昼時だ。吾妻さんがライトを壊さなかったらもっと動けてた」
「ちゃんと予備用意しないと〜」
「予備含めて三つ壊されたんだよ」
ミノブダンジョンが昼夜の入れ替わりが激しいことは事前情報で把握済み。
だからライトを複数用意したが……やはり予備は最低でも七つはいるな。それに次はヘルメットライトにしよう。
俺たちは今回、このダンジョンのどこかにあるであろう宝具を狙ってきた。
ボスが倒されてはいるのでミノブの危険等級はC級と低いが、この特殊な環境下において物を探すのには苦労がいる。
だが、まだ宝具を手にしてない吾妻のためにも、そろそろ彼女を護れる何かが欲しい。
宝具こそがダンジョンストリーマーのアイデンティティともなるわけなので、登録者を増やす役にも立つ。
それに、「ちょっと遠いとこ行ってみたい!」と吾妻が駄々をこねたので、ギリギリで日帰りできそうな山梨県身延町までやってきたのだ。
始発でここまでやって来たが、今日中に帰れるとは思っていない。宿泊する覚悟はできている。
一応、男女での泊まり。吾妻に対して家族に許可をしっかり取るように言ったが、即OK貰ったという。
本当かは定かではないが……。
「じゃあ、撮影するか」
「おっけ!」
『──こんマイリー♪ 今日はミノブダンジョンで宝具を探していくよ! それではマイリます! いやー、暗くなる前に探さないとね、あ、見つけた!!』
撮影開始して15秒。
吾妻は近くに落ちていた白いランタンを拾い上げた。
[それが宝具か?]
あとで俺の音声だけ抜いて、それっぽいテロップを入れる技術を習得したので、吾妻とは言葉が被らなければ短い言葉で会話ができる。
『うん! わたしの勘がそう言っているね。じゃあ、さっそくつけてみましょう!』
もしこれが罠ならば止めるが、危険が孕んでいる気配は感じない。
吾妻が下部に付いているダイヤルを回すと火が付き……それが宙に浮き出した。
『ほらぁ! わぁ、キレイ……蛍みたい! よし、なんて名前にしよっかな〜』
宝具は第一発見者が名付けることとなっている。
一度は探究省に提出しなければならないが、調査が終わり問題がなければ返却されて、名付けた名と共に宝具リストに記載される。
ネーミングセンス皆無の吾妻。
一生残る名だぞ、なんて宣言するのか固唾を飲んで見守った。
『よし! ファイヤーフランタンにする! ぱっと見蛍っぽいでしょー? 蛍のファイヤーフライに、火のランタンを足して、ファイヤーフランタン!』
今日はまだマシなネーミングだったか。
蛍の英単語を知っているからと、自慢げにカメラ前で話す吾妻。火はカタカナでファイアと書く方が……まぁどうでもいいか。
そんなことよりもだ。
尺。
尺がない。
動画を締めるには明らかに早すぎる。
これが目当ての宝具かは判断できないから続けてもいいが、この先も取れ高があるとは確証がないからな……いつも気にすることだが。
『みてみてー! ついてくるよー! かわいい〜!!』
追尾性のあるランタンなので、ライトを壊す吾妻にとって、頑丈な宝具ならばとても便利だろう。
暗闇から彼女のことを守ってくれるはず。
もう今日はショート動画でいいか。
再生回数だけは取りやすいから、名前も広がりやすいしな。
『うわー! 一生ついてくるー!?』
即獲得からの宝具に弄ばれるマイマイの動画に決めた。
今から帰れば終電までには帰宅できそうなので、動画を締めるよう吾妻にハンドサインを送る。
『それじゃあ、今日の動画はここまでです! おつマイうわっ!?』
挨拶しようとしたところ何者かが近付いてくるのを察知したので、吾妻の手をこちらに引く。
彼女が元いたところを男が通過し、そのまま走り去って行った。
『もう、撮影中だったのにー! なんだったんだろ、わたしのファンかな!』
〈宝具、ないぞ〉
『えぇっ⁉︎ わたしのフランちゃんが⁉︎』
宝具のことをもうニックネームで呼んでいる。お掃除ロボットがペットみたく感じるあれと同じだろうか。
とにかくさっき通り過ぎていった奴の腹部には、ランタンが抱えられている。
『盗まれた! まてー! ドロボー!!』
迷わず追いかける吾妻の後を、撮影しながら追う。
取れ高ができそうだ。
**
「はっ、はっ……やっと、宝具を手に入れた! これで俺は億万長者だ!」
「──待て〜……!!」
「ちっ、しつこい女だな。長距離走、市大会準々決勝進出の足と体力を舐めるな──」
『追いついた!!』
『はやぁっ!? クソッ!!』
『きゃっ!?』
……っ!? こいつ……! 振り払うのと同時に、吾妻の顔に手を当てやがった。
もし顔に傷が付いて、映像に出られないと吾妻が悲しんだらどうするつもりだ。
傷付けるってことは、相応の覚悟ができてるだろうな。俺はカメラを持っていない右手で──
『……宝具:黒鷺──
男が逃げる先に現れたのは、先程焚き火場所を貸し出してくれた猛李王。
黒に染まった大剣の面部分を、下から振るい上げるようにして盗人の顔面にぶち当てた。
男の手から離れたランタンは宙を舞い、そのまま帰って来た犬のように、吾妻の周りを嬉しそうに飛ぶ。
「フランちゃんおかえり! わぁ、オジサン! ありがとう‼︎」
「………………おう。……転売」
なるほど、この鼻血を垂れ流している男は転売ヤーだったのか。
宝具は先程述べた通り探究省に提出義務がある。
だが、それを無視して外へと持ち帰り、宝具を欲しがる者──例えば海外の
これがいずれ他国の兵器利用や、テロ組織の道具として使われてしまう。
そのため国連の議会において、各国からの反発はあったものの、探索者は基本的に日本国籍保持者のみと定められた。
だからこそ転売ヤーにはスパイとして高値で雇われた日本人のパターンが多い。これは一種の社会問題であり、戦争やテロにも繋がりかねない話だ。
彼女に襲いかかる脅威はダンジョンの中だけじゃない。
現実の世界でも、悪人や世界を相手取らないといけない。
それも、人気になればなるほど注目度が上がり、宝具を奪おうとする輩も現れる。
「猛李王さん、取り戻してくれてありがとうございました」
だからこそ信頼できる人物は多い方が良い。
前回の植山たち然り、この人も信用と実力が備わっている。
彼はS級探索者である。
探索者を分析するオタクが勝手に作った非公式ランキングでは、S級7位に名が載るほどの実力者だ。
大きな鎧を着ても俊敏に動ける筋肉とガタイの良さ。
「………………」
無言の返事。
多くを語らない。
それが彼の魅力であり、チャンネル登録者数520万人を誇るダンジョンストリーマー。
これも何かの縁だ。繋がりは持っておいた方がいいだろうと思い、俺が彼と連絡先を交換した。
「東くん! また暗くなってきちゃった」
「そうだけど、宝具のおかげで明るいな」
「おぉ! これで撮影できるね! さすがフランちゃん!」
この宝具は灯としての役割だけでなく、吾妻を照らしてくれる照明も担っているから、より可愛く映像に残せる。光量も色合いも調整できるのは素晴らしい。
彼女の身を直接守る宝具ではなかったが、撮影では役立ちそうだ。
そして改めてのエンディング撮影中、猛李王さんが適度な距離を保ちつつ、周囲に目を配らせていたおかげで、こちらも撮影に集中できた。
改めてDMにて感謝の言葉を伝えたいと思う。
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