シンジュクダンジョン
16.コラボしてくれる相手を募集中です!
「雨だね東くん」
「そうだね吾妻さん」
六月にもなり梅雨の時期となった。
ジメジメする季節に気分も落ち込みそうだが、もちろん吾妻は違った。
「こういう時こそダンジョンだよね! ダンジョンなら外の天気の影響を受けなぁい! 雨に濡れないよ♪」
ダンジョンに潜ったら高確率で濡れるくせに。意味ないだろ。
まぁ、今週末もダンジョンに潜るのは賛成するが、正直このペースだと登録者数はこれ以上増えないだろう。
理由は彼女が女子高生だからだ。
ダンジョンを探索できるのは土日祝日のみ。
編集で動画を小分けにしたとしても、毎日更新はできそうにない。それに、この手の動画は長尺が望まれる。
新人において大事なのは認知してもらうこと。最初の内は毎日投稿必須だ。
どんなに可愛くても、若くても、強くなったとしても、吾妻に似たようなストリーマーは大勢いる。
もちろん、あらゆる方法を惜しまずに取り組んでいる。
探索者として箔をつけるために、ハコネダンジョンの初攻略者になったわけだし、SNS運用にも力を入れている。
カシャ
「ん? 何?」
埃だらけの掃除ロッカーがあるくらいの屋上の入口という何も映えない場所を背景に、吾妻が突然、地べたに座り込む俺と内カメ自撮りツーショットを撮った。
「え? SNSにあげるんだよ! 次の動画作戦会議中〜って! だからスマホ貸して!」
何度目か分からないが、俺は吾妻の脳天にチョップした。
「いだー‼︎ なんでぇ⁉︎ 東くんの顔にはモザイクかけるよ!」
「俺の顔だけか?」
「え? うん」
「あのな……俺たちは今どこにいる」
「屋上!」
「高校のな。制服着てるだろ」
「おぉ……ん?」
「どこの高校に通っているか、身バレするだろ」
あいも変わらず情報管理が甘い吾妻だからこそ、ツッタカターやインヌタのアカウントには俺の許可なしには入れないようにしてある。
本人の言葉で投稿される時は語尾に(マ)を付けて、俺が投稿する。
「え〜、顔全部出してるしもうバレてるでしょ〜。えー! どうしよ、街中で声とか掛けられたら! サイン考えとかなきゃ!」
身バレ、からの今後現れる過激ファンやアンチへと対応を考えないと。そもそも学校の連中には既にバレているだろうし。
吾妻を守るために、考えないといけないことが多すぎるな……。
「ねぇねぇ東くん、今度、葵ちゃんと一緒にダンジョンに潜ろうよ〜。ダンジョンストリーマーとして復帰するためにD級のダンジョンに行くんだって!」
植山と友達になって連絡先を交換して以降、毎日やり取りをしているらしい。
相手はれっきとしたお嬢様だが、ちゃんとスマホを所有している。スマホカバーは緑の麻の葉模様だったが。
リハビリも兼ねた探索らしいので配信はしないという。
「一緒にダンジョンに行くメリットがない」
「えぇ! コラボだよ⁉︎」
「何でもかんでもコラボすればいいってものじゃない。同じ人ばかりと短期間でコラボしては飽きられるし、それに視聴者のジャンルが同じタイプでないとあまり意味がないぞ」
〝マイマイチャンネル〟の主な登録者は男性だが、〝アオイ嬢の優雅なひとときチャンネル〟は女性が多い。
それに普段の配信内容も関わってくる。
同じ男性ファンの多い猛李王の配信内容がガチサバイバルに対し、こっちはラフアドベンチャーだ。視聴者層の需要が全然違ってくる。
当然、別ジャンルから引っ張って来られることもあるだろうが、まだまだ新人のマイマイとコラボしてくれようなんて人気NewTuberはそうそういない。
「そっか〜。じゃあ、おわりんは⁉︎」
「おわりんって、四皇のおわり部長のことか?」
「うん!」
「格が違う。調子に乗るな」
「ガーン⁉︎」
──四皇。
現在ダンジョンストリーマー界には圧倒的人気と実力を誇る四組がいる。
おわり部長──チャンネル登録者数1億400万人。
類稀なるルックスと、それに驕らず挑戦的な配信を行う女性ダンジョンストリーマー。編集が上手く見やすいのも特徴だ。
肉体派の男性6人組ダンジョンストリーマー。武具や宝具を一切使わずにダンジョンを攻略する完全武闘派グループ。
東海オフレコ──チャンネル登録者数6900万人。
こちらも同じく男性6人組ダンジョンストリーマー。探索するのはオカザキダンジョンのみ。そこで様々な革新的企画を実施する大人気グループ。
そして、カイキン──チャンネル登録者数1億1200万人。
黎明期から活躍するダンジョンストリーマーだが、一度も動画更新を休んだ日がない皆勤賞の男性NewTuber。
カリスマ的存在として業界のトップを走り続け、老若男女みんなから愛される存在だ。
そんな彼らは企業のプロモーションや、メディアの出演、交流が深い他のNewTuberとのコラボや、もちろん自身の動画撮影で多忙過ぎる。
相手にコラボするメリットがない以上、相手にしてくれるわけがない。生きている世界が違うのだ。
「じゃあ、片っ端からコラボしちゃおう!」とか、吾妻はほざいているが底辺同士のコラボほど醜いものはない。誰得なんだよ。
それに、これから来そうな吾妻のそこそこの知名度を狙おうとする輩も現れるわけなので、簡単に許可できない。
「むー。じゃあ週末はどこ行くの〜。……ん?」
と、吾妻が俺のスマホでツッタカターをイジってると、DMが届いたみたいだ。
「ええっ⁉︎ み、みてみて東くん! このダンジョンストリーマーならコラボいいよね⁉︎ えりにゃん‼︎ えりにゃんがね、ぜひコラボしたいだって!」
相手はチャンネル登録者数93万人。
〝ダンジョンで踊ってみた。〟などのジャンルを多数投稿する人気美少女ストリーマー〝えりにゃんチャンネル〟だ。
「わたしすっごくファンなんだよ〜、かわいいしダンスも上手いし! かわいいし〜! だから絶対コラボしようよ! ねっ⁉︎ いいよね‼︎」
「……分かったからスマホ返してくれ」
「あぁ、ごめんね〜」
「……それと、俺の上から降りてくれ」
興奮のあまり俺を押し倒して馬乗りになる吾妻を、ゆっくりと降ろした。
「あ……てへ♪ ごめん!」
舌をペロッと出して、可愛く謝罪する吾妻。
いいから早く降りろ。
◇ ◇ ◇
「──
「んー、どもー」
「また、ポテチ。お肌に悪いよ……」
「ぅるさいなぁ、わかってるからっ、チッ……」
「……部屋、片付けるね。ゴミ袋取ってくる……」
暗い部屋の中で、青白く光るPCの画面。そこにはマイマイチャンネルの動画が流れていた。
机上にはゴミが散らかり、部屋には衣服が散乱。
「……動画伸びないなぁ、もうすぐ大台だってのに……この女の方が可愛いとかコメントしやがってアンチが……チッ、イラつくし」
「きゃっ……」
ストローを刺したエナジードリンクを飲み切り、後ろに投げ捨てる。
すると、ゴミ袋を持って帰ってきた女性の顔すぐ横の壁に当たった。
「あ、ごめん。
「うん、大丈夫だよ……」と返事して、さっきのエナドリ缶を拾いあげゴミ袋に入れる。
「はぁ……週二でしか投稿してないのに、この伸び率とか。はっ、さすが初攻略組、このままじゃすぐに抜かれちゃう……」
手には黒色の猫耳カチューシャ。
それを頭に装着し、生配信の準備を始める。
「調子に乗ってる新人は教育してあげないと。誰が一番可愛いかってことをね♡」
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