第4話   四

「恋・・・といいましたが、少し・・・いいえ、ずっと残酷なお話でして、でも、二人、それぞれが意思を貫き通したのでした。

さて・・・

太郎をうまく乗りこなしたということで、佐久衛門と小雪姫は誰に遠慮することなく愛をはぐくみました。誰に遠慮することなく・・・というのは、小雪姫の父である小田喜兵衛に対してです。小田喜兵衛はしぶしぶ佐久衛門と小雪姫の関係を認めましたが、決して引き下がったのではありません。こいつは本性を隠している、と、佐久衛門を見抜いていました。今の所、この二人を懲らしめる手立てはありませんが、その時が来れば・・・と、喜兵衛は思うのでした。

この若い二人は、赤池にやって来る度、堤に座り込み、語り合ったそうです。今でこそ池があったという形跡は全くありませんが、当時の池の湖面は清らかで、池の底まで映し出していたそうです。理由は分かりませんが、時には清らかな紅い水に染まり、佐久衛門様見て下さい、今日もあの紅い水が何処からか流れて来ています、私たちを祝福していますよ、と語り掛けてします。でも、なぜか佐久衛門は無反応なのです。いつの時代でも、恋する女と男の会話は同じ、何でもないことに感動し、笑い、ちょっとしたことでも傷付き、涙を流したりする日もありました。特に小雪姫はまだ十五歳になったばかりですから、自分からあれこれと話せません。だから、前田佐久衛門から話すのが本当なんです。でも、彼もすぐに無口になってしまいます。それでも、特に、小雪姫はこの上なく楽しいものだったに違いありません。

 小雪姫は気になることがありました。時々見せる佐久衛門の眼です。何を考えているのか分からず、その暗く冷たい感じが、小雪姫には嫌いでした。でも、それを植わる好きという気持ちが勝っていました。

そんな時、佐久衛門は自分の愛馬に小雪姫を乗せ、一緒に野山を走り回りました。小田喜兵衛はいつも嬉しそうに城から出て行く小雪姫を苦々しく見ていて。その姿を見る度に、何とか二人の間を裂かなくては・・・と思うのでした。父喜兵衛には佐久衛門ばかりではなく、小雪姫にもじわじわと憎しみの気持ちが湧き上がって来ていました。

 前田佐久衛門の父と母は子供が出来ないのに悩み、鞍馬の毘沙門天に祈願し生まれた子が佐久衛門は、毘沙門天の申し子と言われ、そのせいなのかは分かりませんが、佐久衛門は逞しく育ちました。小雪姫と知り合う四五年前にちょっとした事件が起こりました。佐久衛門が十九歳の時です。

 それは、小田城より西に行った処に菩薩池という池があり、その菩薩池には美しい女が住んでいましたが、佐久衛門はその女に見せられ、その女と交わってしまいました。そして、その美しい女を妻にしてしまったのです。女は懐妊しますが、子が生まれることを恐れて、隠れようとした龍女と格闘になり、勝つには勝ったのですが、若い佐久衛門は遠い常陸の国に流されました。

 二年の後、前田佐久衛門は七人の家来とともに舞い戻って来ます。そして、小雪姫と知り合うこととなったのです。これらの事実を豪族小田喜兵衛は調べて、驚きます。ますます娘の小雪姫を奪った佐久衛門を憎みます。佐久衛門は半ば強引に小雪姫とともに小田城に婿入りしますが、これには喜兵衛は怒り、佐久衛門は毒殺され、七人の家来も殺します。佐久衛門は土葬にされ、七人の家来は火葬にされてしまいます。こうなってしまうと、自分の娘である小雪姫も悲しみに暮れ、なかなか父の言うことを聞きません。

 小雪姫も父の怒りに買い、ついに近くの川に流されてしまい、多分世間体もあったのでしょう。彼女はそのまま行方知れずになってしまったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る