第3話 三
若い女の名は、小雪姫といい、ここからそう遠くないところに住んでいます。父は小田喜兵衛といい、小田城の城主で、彼女は一人娘だった。その一人娘が、なぜ夫となるべき人を探しに旅に出たのか・・・それは、父の喜兵衛は小雪姫に、このところ勢いを得ている武将に縁付かせようと企んでいた。父のその企みに気付いた小雪姫は、ある深夜、夫探しの旅に出たのである。この時代の女には仕方がない宿命のようなものでした。
小雪姫は、このまま黙っているわけにはいかず、前田佐久衛門を父に合わそうと企みます。
「どうか、父に会い、承諾を得て下さい」
「ああ、喜んで、そうしよう」
と、佐久衛門は同意しました。
小田小雪は一人娘ということもあり、父喜兵衛に溺愛されていました。彼女は今十五歳で、まだ結婚どうこうにはまだ早すぎます。でも、周りの状況は、それを許さなかったのです。まだ乱立の戦国の時でしたから、しかも小田翔はそれ程大きな城でなかったので、血からとしては大きくなかったのです。父としては、娘をこの先ずっとそばに置いておきたかったのです。小雪姫は父のこの気持ちをよく理解しています。だが、今は戦国の世です。そういう親子の感情が成り立つわけがありません。父である小田喜兵衛も分かっています。佐久衛門は小田城に小雪姫とともに行きます。二人して、佐久衛門の愛馬とともに城門に立ち、案内を乞いました。そこで、小雪姫の父と会います。
「お父様、私はこの方と一緒になります。どうかお許し下さいませ」
と、紹介しました。
こいつ、小田喜兵衛は前田佐久衛門にいい顔をしませんでした。
俺の可愛い娘をどうする気だ、と言う眼で若い武士を睨みます。娘を持つどこの親でもおなじだと思いますが、特に小田喜兵衛は猶更でした。愛情を注ぎ育てた娘でしたから、さっきも言いましたように出来うるならば手放したくないのが、本心です。確かにいい若者で、眼も鋭くて、武将として・・・いや男としての魅力は備わっています。でも、やはり小田喜兵衛は気に入らない。娘が一緒になりたいと連れて来た若者だから表向きは嫌わずにいます。
「ひとつ・・・こいつを懲らしめてやろう。恥をかかしてやる。そうすれば、娘もこの男を諦めるに違いない」
と、喜兵衛は策略を練ることとしました。
小田城には暴れ馬がいて、この城にいる誰も乗りこなせてはいませんでした。
そこで、この馬を乗りこなせれば、娘の婿となるのを認めようといいます。佐久衛門はもちろん承諾します。小雪姫は微笑みましたが、少しだけ不安に襲われ、愛する佐久衛門に眼をやると、にこりと微笑んでいます。そんな佐久衛門を見て、この方はきっと太郎を乗りこなして下さいますと信じました。小雪姫も太郎の気性の荒さはよく知っていました。小田城の武将の誰ひとりとして、太郎を乗りこなせたものはいなかったのです。
「この馬だ」
連れて来られた馬は確かに暴れ馬でした。今にも佐久衛門に飛び掛かって行きそうな勢いがあります。
小雪姫はそんな太郎を見て、
「今日は・・・特に気が立っているのかしら・・・」
少し心配になりましたが、愛する佐久衛門を見ると、自信に満ちた眼を輝かせているのを見て、彼女は安堵しました。これまで何度も佐久衛門と一緒に馬に乗ったりしましたから、うまく乗りこなしてくれるに違いない、と思いました。でも、小雪姫が知らない秘密があって、太郎は時々人の手足など混ぜたまぐさを与えられていました。そのことと太郎の気性の荒さがどう関係しているのか定かではありませんが・・・。手綱は佐久衛門に渡されたが、それでも太郎は気が立っていて、大人しくしません。
「よし、よし・・・」
佐久衛門は太郎に声を掛けます。やはり、太郎は気が立っているようです。彼は思い切って、手綱を強く引き寄せ、太郎の背に乗りました。こうなると、佐久衛門の仕草は自信に満ちたもので、太郎の首を何度も叩き、落ち着かせようとし、やがて太郎の動きは落ち着き始めました。その動きを見て、それを見ていた武士たちも驚き、小田喜兵衛はむしろ怒りを太郎にではなく佐久衛門に露わにしました。
何だが、前置きが長くなりましたね。ここからが、本題の二人の恋のお話です。
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