第4話・マシュマロ
ガッシャーーン!
「ギャアッ!」
朝の6時、キッチンから騒音が聞こえた。ついでにエレンの悲鳴も。
「ぅ...んん...何だよ朝から...」
ぐーっと背伸びをし、階段を降りてキッチンへ向かうと、頭に謎の透明な液体の滴るボウルを被り撃沈しているエレンがいた。
「...何してんの...?」
「うぅ...グスッ...」
エレンの綺麗な髪が台無しじゃないか、と呟きながら、ボウルを外す。
頭にはねっちょりした透明な液。
「...卵白か?」
「うん...お菓子を作りたくって」
しょんぼり顔で俯くエレンに、怒ってないよと伝える。少しほっとしたらしく、顔が明るくなった。ここまで単純だと、少し可愛らしい。
話を聞くと、どうやらネットで見たマシュマロを作ろうとしていたようで、なんとか卵を割れたものの、手が滑って頭から卵白を被ったそう。
一旦風呂に入ってもらい、その間に大惨事になったキッチンを片付けた。
因みに、エレンは流水が嫌いなものの、なぜかお風呂は平気らしく、いつもルンルンで入っている。数十分すると、ホカホカになったエレンが髪を拭きながら一つため息をついていた。
「また失敗...卵無駄にしてしまって申し訳ない...」
「いいのいいの。卵一個くらい。怪我はない?」
「あ、あぁ...」
失敗しても全く怒らないリムに感謝しながら、もう一度卵を手にした。
「卵白を泡立てて...」
もたつきながら泡だて器で混ぜていく。
「手伝うよ」
「わ、あ、駄目!」
取られそうになったボールに必死にしがみつき奪い返す。
「あ、すまん...」
「え、えっと...これは自分で作るから...」
少し不思議に感じたものの、大人しく見守る事にした。
「温めたゼラチンと砂糖を混ぜたら、冷蔵庫」
あとは待つだけ。初めて自分で料理が出来たのが心底嬉しかったようで、エレンは小さくガッツポーズを決めた。
「ところで、これ自分で食べるの?」
「あっそれはもうちょっと待って」
「?」
嬉しそうにニヤニヤしているので、特に何も聞かずマシュマロの完成を待つ。
待っている間にキッチンの後始末やその他の家事をこなしていると、エレンが手を後ろに回して近寄って来た。
「どうかした?」
「ん、これ、やる」
「あぁ、さっきのマシュマロ」
「反応が薄いぞ」
「だって何となく分かってたし」
自分で食べるだけならすぐ言うだろうし、隠すという事は誰かにあげると言う事。だが現世から魔界までは遠いので、現世の人にあげる事になる。そうなると知り合いはリムだけとなるのだ。
「食べていい?」
「もちろん!」
食べている最中、ずっと見つめてくるエレンの視線に耐えながらどう感想を言うか考える。
「おいしいよ」
「本当か!」
「まぁ私が作ったんだから当然だよなぁ!」
褒められて調子に乗るエレンを、リムは保護者の目で見守るのであった。
「ねぇ嬢ちゃん、遊ばない?」
「そういうのやめてください」
「いいじゃん、遊ぶだけだって! おごるよ?」
「チッ...」
一陣の風が吹く。
「...あれ」
「あの嬢ちゃん、どこ行った?」
「本当に嫌い」
「どいつもこいつも、偽善者ばっか」
「でも...」
「あの吸血鬼は、リム君と同じ、善人かなぁ」
黒い翼を生やした赤い髪の少女は、腰かけた窓辺から見える月を見上げた。
エレン様は吸血できない アントロ @yanaseyanagi
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