第3話・親子丼

「なぁエレン」


 フサフサ


「エレン」


 さわさわ


「エーレーン」


 モフモフ


「エレン! 尻尾を触るな!」

「じゃあ料理を教えてくれよぅ」

「面倒くさい」

「やだやだやだやだ! 料理したい!」


 ソファに座るリムの尻尾。モフモフ好きの暇人はモフるしかやる事がなかった。

 昨日の卵焼きで料理の沼にハマり、すっかり料理好きになった。


「うーん、でも自分も得意って訳ではないからなぁ...そうだ、お料理アプリ入れたらどうだ?」

「アプリ...? まさか、料理をアプリが教えてくれるのか!?」

「そう。他の主婦さんが作ったレシピとか、初心者向けのレシピとか、沢山載ってるよ」


 その言葉に目を輝かせ、早速アプリをインストールした。

 アプリ名は【クックラブ】。名前のセンスはさておき、画面はシンプルで見やすく、料理中でも操作しやすい様設計されている。これを作った人はかなりの料理好きだろう。


「ん、おやこどん、か。簡単と書いてあるし、確か冷凍庫に鶏肉あったな...」


 親子丼。名前が可愛いし、味も美味しい。しかしよくよく考えると残酷な食べ物である。初心者でも作りやすい、エレンにぴったりな料理だった。


「へぇ、親子丼。火は使えそう?」

「昨日の卵焼きで慣れた! これでも適応能力はある方だぞ!」

「早いな」

「ところで、3人分用意した方がいい?」

「え? 何で?」

「カラシ君来るのかなって」

「知らない。あいつすぐ不法侵入するから」


 犯罪じゃねえかと突っ込みながらも、エレンは材料を用意した。

 モモ肉、卵、調味料。レシピを見ていると、お料理番組でよく聞く材料が目に入った。


「だしある?」

「ない。めんつゆでいいよ」

「醤油は」

「ある」

「料理酒は?」

「ない。いらないかな」

「みりん」

「ない。いらない」

「砂糖」

「めんつゆ甘いから大丈夫」

「ほとんど無くない??」

「意外に調味料って代用できるよ」

「ふむふむ...メモ...っと」


 意外な情報にエレンはメモを書いた。その後、材料を揃え、いざ調理に挑む。今回はなるべく自力で作る事にした。


めんつゆと醤油を中火で熱して沸かせる。香ばしい匂いがする。

鍋からジュウジュウといい音が聞こえる。

肉を入れて、少し炒めた後放置して煮る。


「エレン、煮てる間暇だからって尻尾を触るな」


さわさわ


「耳は良いとかではないが?」

「えっじゃあどこ触れば?」

「触んな」


火が通ったら卵を混ぜて卵液を作る。この作業は一度やったので余裕。

鍋に入れて少し待つ。ちょっとしたら混ぜる。


「で、出来た...!」


鍋からいい匂いが漂う。


「あとは...緑を加えなくちゃ」


上に乗せたのはミツバ。

ここまでして親子丼の完成である。


「そうそう、前までミツバの事クローバーだと思ってたんだよね」

「えっ?」

「あるあるじゃない?」

「いや...」


丼に盛り付けて2人でハイタッチする。

同時に手を合わせ、口に運んだ。


「いただきまーす」

「....!」


始めて自分で作った料理の味は、







「「まっず」」


まずかった。それはもうまずかった。味が濃く、口の中で混ざり合い、せっかくの鶏肉が謎の塊になっている。


「調味料計った?」

「あっ」

「馬鹿か貴様は」

「馬鹿です」

「認めんな」

「.....」


完全に拗ねたエレンを励ましながら、「次は計ろうな?」と諭したリムであった。


ちなみに残りは腹をすかせたスタッフカラシが完食した(させられたとも言う)とか。

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