第2話・卵焼き

「リム! 早速今日から教えてくれるんだろうな!」


まだ寝間着姿のリムにエレンは目を輝かせる。すでにエレンはThe.吸血鬼な私服に着替えていた。

ぼさぼさの髪をしたリムも、エレンの目から見たら立派なシェフだ。


「あー、いいよ」


ふあぁとあくびをしてキッチンへ向かった。白基調のキッチンは清潔感があり、汚れもほぼない。料理好きなのが伝わってくる。


「それじゃあ...今日は卵焼きかな」

「卵焼き? 卵を焼くって事か?」

「そう。これを使ってね」


リムが手にしたのは四角いフライパン。その形にエレンは目を丸くした。


「なんだこれ! 四角いぞ!」

「うん。卵焼きの為にこうなってる」

「卵焼きは四角いのか!」


目を輝かせるエレンにリムは微笑んだ。こうやって誰かに教える事がなかったので、リムも少し楽しんでいた。


「まずは、卵を割って、スパイス少々...これを混ぜる」

「あっちょっと待って。メモしておく」


ポケットからメモ帳を取り出し、言われた事や分量を書き込んでいく。とても詳しく丁寧に書かれており、リムでさえも感心した。


コンコン、パキャ


カシャカシャカシャ...


お坊ちゃまだったエレンにとっては卵を割る事だって一苦労。それでも、静かな朝に美味しい音が響く。


「スパイス少々ってどのくらい?」

「マキシマム3振りかな。あとね、あれ入れると美味しいよ」


そう言って取り出したのはマヨネーズ。


「卵に...何だこれは?」

「マヨネーズ」

「マヨネ...」

「卵を加工した調味料」

「卵と卵だから相性がいいって事だな?」

「そう。隠し味に丁度いいよ」


そう言ってマヨネーズを加える。


「卵液が出来たらコンロに火を付けて、油...オリーブオイルがあるからそれにしよう」


油を中火のフライパンに流し、熱してまんべんなく行きわたらせる。


「ここからはフライ返し。シリコン製のがお勧め」

「ふらいがえし...変な形だな」

「あはは。そんなにまじまじと見ないの。じゃあちょっとずつ卵液を入れようか」


火を使った事のないエレンはびくびくしながら卵液を熱々のフライパンへ4割ほど流し込む。


「こうして...」


リムが交代し、手前の卵を奥へ畳み、空いた手前のスペースに卵液をまた流し込む。


「この時、奥の卵を少し上げて、下に卵液を流し込むと失敗しないよ」


少しして卵液が固まると、今度は手前に巻く。


そうして、いい焼き色の卵焼きが完成した。


「端っこ一番美味しいよ。出来立てどうぞ」

「ん、頂きます...」


エレンの顔はすぐ明るくなった。とても美味しいらしい。


「うまいな! これ。それはそうとして...彼女は?」

「彼女?」


リムが振り向くと、そこには赤髪の少女が立っていた。


「ギャアアアアア!! カラシ! いつ入った!?」

「ん? 卵焼き作ってる所ずっと見てたよ。ちなみにそこの吸血鬼君とは目が合ってたのに無視されてたんよね」

「突っ込んでいいのか分からなくて...」

「突っ込んで!!」

「どぉも。博多出身上京女子のカラシでーす」


赤く長い髪を降ろし、ハイカラなジャンパーを着こなしている。

しかし目は紫色をしており、少し不気味な程だった。

可愛らしく敬礼するカラシは、人間とは少し違う、エレン達と似た匂いがした。


「もしかしてさ、カラシ君、悪魔?」

「流石! 魔物は匂いに敏感やねー。そう、ウチは悪魔やっとるよ」


やはり同族だった。どうやら2人は高校時代の同級生らしく、仲がいいとか。


「というかいい匂いやね! 卵焼き食べてもええ?」

「あ、いいぞ! 私も手伝ったから、食べてほしい!」


目を爛々とさせ、子供の様に純粋なエレンに、カラシは笑った。


「ふふ、いただきます」

「どうだ?」

「うん、うまかっちゃん!」

「うま...?」

「美味しいって事よー。訛りが強いっちゃんね」

「???」


日本の言葉をやっとネイティブレベルで覚えたエレンからすると、魔法の言葉の様に感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る