エレン様は吸血できない

アントロ

第1話・卵かけご飯

魔界の魔王城にて。自室でトランクに荷物を積める男がいた。

「......エレン...」

「どうしました? お母様」

「本当に現世に行くの?」

「ええ。もう魔界の食べ物は飽きました」


肩まで伸び、オールバックにしている銀の髪に尖った耳。人外を象徴する赤い瞳。エレンは吸血鬼だった。しかし、血は飲めない。あの鉄の味、生臭い感じがどうも苦手だった。

そこでしょうがなく食べていたのが魔界の食べ物。しかしほとんどが不味い。どれくらいのクオリティーかと言うと、火を通しさえしない程である。その時小耳に挟んだのが、現世の食べ物は美味しいという噂。という事で現世に住む知り合いの家で過ごさせてもらう事にした。


「おぉ、エレン、いらっしゃい」

「お邪魔させてもらうぞ!」


友人の名前はリム。チャーチ・グリムという墓を守る番犬だ。こげ茶の髪色で、シェパードの様な耳と尻尾が生えている。


家に入った瞬間、ふわりといい香りがした。これは...穀物だろうか。


「米炊いてたんだ。日本の主食だよ」

「いい香りだぞ! さっそく食べさせてもらっても?」

「まぁまぁ落ち着け。先に手を洗え」


その後、洗面器に入った水で手を洗った(吸血鬼は流水が嫌いなので用意してくれていたようだ)。

リビングに戻ると、白米、卵、めんつゆと醤油が並んでいた。


「まず卵をご飯の上にかけてみろ」

「こうか?」

「で、次に醤油かだしをかける」

「えっと、じゃあ、つゆで」


チョロロロロ...


「で、混ぜて出来上がり」

「これだけ?」

「うん」


エレンはびくびくしながらドロッとした白米を口にする。


「う」

「あれ、だめだった?」

「うま...」

「....アハハ! そっか。もっと食べろ食べろ!」


エレンは卵かけご飯を勢いよくかき込んだ。


世界にはこんなにも美味しいものがあるのか、としみじみ感じた。

エレンは考えた。


「私も作りたい!」

「へ?」

「私に、料理を教えてくれ!」

「....ふふ。いいよ」


エレンは、リムに料理を教わる事を決心した。

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