Scene2

 「なるほど、事情は理解しました」

 食堂に戻ってきた僕は彼女、安住ありさに大まかな事情を説明した。

 安住はこうして向かい合って見ても高校生には見えなかった。むしろませているお嬢様の小学生と言う方がしっくりくる。それに昔の制服に合わせてか、後ろ髪を大きなリボンで結んでいるからより一層そのイメージを引き立てている。

 「でもどうしてそんなにお金を欲しているのですか。別にお金が無いように見えませんが」

 「え?ああ、まあ言っていないもんね」

 当然と言えば当然の反応だ。友人たちの前ではからかわれそうだから一度も話したことは無いが、別段隠すつもりもないので言っておいていいかもしれない。

 「・・・・・・僕の、母方のばあちゃんにいいもんプレゼントしたいんだ」

 「なるほど。でもそれこそカラオケなどのアルバイトでいいと思いますよ」

 「や、それだともう間に合わないんだよね。最近やっと話せるぐらいまで回復した   けど、もう末期でさ、来週の手術も成功率が一桁切っているらしい。それを知ってから僕の親はばあちゃんのことを見放して一切見舞いに来なかった。だからアイツらの金で買うよりは自分の稼いだ金で何とかしたいんだよね」

 「それなら・・・ああ」

 どうやら納得してくれたみたいだ。

 日給という制度が過去にあったようだが、杜撰な仕事をして事故を起こす派遣が多 発したことを受けて、政府は雇用制度改革と称して日給を廃止し代わりに半月給とい うものを制定した。今でも日給や週給が存在するところも存在するが、大抵は違法やブラックな仕事が多いという噂だ。やろうものなら命がいくつあっても足りない。

 「・・・・・・」

 安住はそこで静かに考え始めた。先程までとは打って変わってギラギラとした目をしている。あれが経営者の目なのだろうか。

 「・・・分かりました。あなたをアルバイトとして雇います」

 「ありがとうございます!」

 「ただし、こちらの条件を全てのむことが前提です」

 「うん、了解。一応聞くけど変な契約書とか書いたりしない?」

 これは聞いておいた方がいい。これで少なからず聞かれなかったという言い逃れは封じることは出来る。こんな子供だましみたいな手がよく流行ったと思うとまともな雇用が少なくなるのも分かる気がする。

 「ああ、別に警戒しなくていいですよ。保障云々に電車賃などもこちらで出します。あと別に命に関わるようなこともしないので」

 そこで安住は、今の仕事の依頼主だったら許してくれると思うので、と小さく言った。

 「あ、ありごとうございます・・・?」

 何か裏がありそうだが、とりあえずアルバイトとして働けるようだ。

 「それで、いつやりますか?出来るだけ早いと助かるのですが」

 「露骨に敬語にならなくていいですよ。話しづらいですし」

 「はは、助かる。じゃあ改めて、いつやる?」

 「今週の日曜日という事にしましょう。雨が降るようでしたら土曜日にします」

 サッとスマホで天気と予定を確認する。日曜は晴れ、面接の予定もなし。

 「分かった。他に何かある?来て欲しい服とかさ」

 「ああ、ならまずこれで私を撮ってください」

 渡されたのは今時の女子がしていそうなデコレーションは一切ない手帳のケースに入ったスマホ、なるほどこれが経営者用の携帯ってわけか。

 「写真なんか撮って何に使うの?」

 「一枚は私の制服、もう一枚はあなたを撮ります。多分大丈夫ですが念のために」

 「はあ・・・?」

 その依頼人とやらはどれだけ大きな器を持っているのだろうか。ここで聞いても藪蛇になりそうだから、適当に流しておこう

 「じゃあ撮るぞ」

 画面をスライドしてカメラを起動。そしてレンズ越しに安住を見て思わずドキリとしてしまった。先程までいた少女は夕陽に照らされてどこか大人びていて、古いと思われた制服と大きなリボンが、そこに在りし日の浪漫を感じさせる。先程までの安住の少し垂れた目つきとは裏腹に、依頼主の意向だろうかこちらは強く美しくあれと自分に言い聞かせているような目つきは強くたくましい印象を抱かせる。

 パシャリと二枚ほど撮って、安住にスマホを返す。

 「これでいい?」

 「・・・はい、これで大丈夫です」

 「今度は僕なんだけど、安住みたいに着飾ってないけど大丈夫?」

 安住は既に元の目つきに戻っていたが一朝一夕にできる芸ではないことは把握できた。

 「いえ、あなたの場合はそのままだからいいんです。変に繕わない方がいいと思いますよ」

 あと写真キレイに撮れてますと褒めてもらった。なんだかこそばゆい。

 パシャリと狙ったかのようにその表情を撮られた。ついでにその後のしまったという表情も。

 「はい、これでOKです」

 「いやいや、今の表情はマズくない!?」

 「いえ?変に繕わない方がいいと言いましたが?」

 「僕はそんな演技派じゃないっての!ね、今の無しにしてもう一回撮らない?」

 「あ、もう送りました」

 「うえええええええ!?」

 その後僕は取り消してだのやり直しなどギャアギャア叫んだが認めてもらえず、学校の校門を閉めるからと言う理由で食堂から追い出されて僕らは解散することになった。

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