第48話 不穏な空気
「え?森野さん…!?」
「「?!」」
俺達がそんなやり取りをしていた時、後ろから誰かに声をかけられ振り向くと…。
テニスラケットとスポーツバッグを担いだ見知らぬ女子がりんごに険しい顔を向けていた。
「…!宮内先輩…。」
りんごは呆然と呟いた。
「森野さん…。久しぶり…だね?遊びにでも来てたの?」
「は、はい…。ちょっとラウンド8に…。」
スポーツバッグを担いだ女子に不機嫌そうな表情で問いかけられ、りんごは気まずそうに答えた。
「へえ…。彼氏さんと遊んでたんだぁ…。」
俺を一瞥して一段低いトーンを出した彼女に、慌ててりんごは否定した。
「いえ!彼氏ではなくて、学校の先輩ですけど…。」
そんなに否定しなくても…。許嫁なんだから、彼氏扱いしてくれても構わないぞ?と俺は思ったが、この不穏な雰囲気の中で、余計な事を言いたくないという気持ちは、分かった。
「(りんご、この人は…?)」
「(中学の時の部活の先輩です…。)」
俺がひそっと聞くと、りんごは困ったような表情で小声で教えてくれた。
険悪とまではいかなくとも、あまり親しくない間柄だというのはなんとなく察せられた。
「ふぅん、学校の先輩ね…。そう言えば、森野さん、市立のいい学校行ったんだっけ。」
「えっと…。宮内先輩は、テニスの練習ですか?」
りんごに聞かれ、宮内というらしいその女子は面白くもなさそうに答えた。
「まぁね。すぐそこのテニススクール通ってんの。
いいよね〜。こっちは女子校で、男っ気もなく、毎日練習に励んでるっていうのに…。
ってかさ〜、森野さん兄弟の面倒みなきゃいけないから、部活辞めたんじゃなかったっけ?
イケメンの先輩と遊ぶ時間はあるわけ?
辞める為の口実だった?」
「はぁっ?」
何だ、この女子は…?
理不尽な尋問口調で詰め寄ってくる宮内という女子に眉を顰めたとき、りんごが慌てて前へ出た。
「い、いえ!あの時は、本当に弟と妹が小さくて大変な時期だったんです。今は二人も小学校に入って、手がかからなくなりましたので…。」
「え〜、ホントかな…。」
疑いの目で見て来る宮内という女子に、俺はついキレて口を出してしまった。
「ちょっと君、さっきから失礼じゃないか?
彼女は今でもよく弟と妹の面倒を見ているし、いつも色々頑張っているよ!
たまたま空いている日に俺が遊びに誘っただけで、何で君に文句言われなきゃいけないんだよ!」
「こ、浩史郎先輩っ…!」
りんごは「止めろ」と俺のシャツを引っ張って来たが、人の事情も考えずに、ズケズケした物言いをしてくる宮内に腹が立って仕方なかった。
「お〜怖い!凄まないで下さいよ。
そうやって、また男に庇ってもらうんだ。
森野さん、そういうの得意だもんね。」
「っ…!」
「はぁっ、何言っ…。りんご…?」
宮内が小馬鹿にしたように言うと、りんごは顔を強張らせ、文句を言おうとする俺に、ブンブンと首を横に振って来た。
「また乗り換えられないよう、せいぜい頑張ってね?じゃっ!」
意地悪な笑みを浮かべて、宮内は去って行った。
「何だよ、あいつっ…!りんごも、何で止めるんだよ?あれじゃ言われっ放しじゃないか…。」
「浩史郎先輩、有り難いけど、私は大丈夫です。それに、あの先輩に言い返したところで意味がないんですよ。
私の実際の状況がどうかって事より、自分より下だって思っている相手が、浩史郎先輩みたいな人と並んで歩いていたのが気に食わないだけなんですから。」
「りんご…。」
言葉に詰まる俺に、りんごは、困ったような笑顔を向けた。
「女の子の集団って、大抵そういうものですよ?
さっ。大好き屋行きましょうか?」
*あとがき*
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