第43話 生徒会長からの頼まれ事
「里見くん、宇多川さん、森野さん、申し訳ないんだが、軟式テニス部の助っ人を引き受けてくれないかい?」
「「「はい?」」」
生徒会長の石狩先輩から、昼休みに突然生徒会室に呼び出されて、そんな話をされた俺、宇多川、りんごの三人は目をパチクリさせた。
「いやね…。強豪の硬式テニス部と違って、軟式テニス部は弱小で、もともと部員も多くなかったんだけど、今年度部長の松平健造くんが、例年になく、やたら厳しい練習メニューを課すもので、多くの新入部員達が辞めてしまったらしいんだ。
今、試合に出るのもギリギリな人数になってしまっていて、どこかから助っ人を調達できないかと軟式テニス部の副部長から相談されてね。
試合までの一、ニヶ月だけでもいいから、助っ人に入ってくれないかというのが、生徒会のお願いなんだよ。」
「浩史郎は、中学の頃テニス部のエースだったし、宇多川さんはスポーツ万能だろ?
森野さんも、中学の頃、テニスやってたって言うし…?
人助けにもなるし、短期間、運動不足の解消だと思って引き受けてくれないかい?ねっ。頼むよ…!」
石狩先輩と共に、副生徒会長の恭介も手を合わせて俺達に頼み込んで来た。
「いや、そう言われても、俺やってたの硬式だしな…。」
「球技は危ないから部活は高校以降は控えると、お祖父様にお約束してしまっているのよね…。」
「有名人の二人はともかく、私の情報まで、よく知ってましたね…?軟式やってたって言っても、中1の一学期だけで、ほとんど初心者なんですけど…。」
俺、宇多川、りんご、それぞれの理由で、その提案を引き受けるのを躊躇い、渋い表情を浮かべたが、
石狩会長は、笑顔でブンブンと手を振った。
「いやいや、もちろん、無理にとは言わないし、多少なりとも得意だったり経験があった方が、君達が入りやすいのではないかと思ったので、調べさせてもらっただけだ。
向こうとしては、試合に出るための人数合わせとして在籍してもらえるだけで充分有りがたいそうだよ。
そうだな。テニスに自信がないのなら、応援係としていてもらってもいいと言っていたね…。」
「応援係…??」
りんごが興味をそそられたようにピクッと肩を揺らした。
「夢ちゃんや、浩史郎先輩が頑張ってるところを応援するのはちょっとやってみたいかな…。ふふっ。」
「「えっ。」」
りんごが何やら想像して零した言葉に、俺と宇多川は反応して、声を上げてしまった。
「はい。じゃあ、森野さん応援係決定!ハイ、これ、仮入部届けね?」
「へっ?!」
石狩会長に、速攻でプリントを渡され、りんごは目をパチクリさせていた。
「いや、あの、私、まだ入るとは…。」
「ありがとう!森野さん、君は軟式テニス部の救い主だ。本当にありがとう〜!!」
「え、え〜っ!?」
石狩会長は、戸惑っているりんごの手を取り、有無を言わさずブンブンと振り回し、
次に、宇多川と俺の方を向いてチラッと視線を送ってきた。
「さて、君達は、どうする?
宇多川さんは、生徒会から頼まれた助っ人という名目で、森野さんと部活動を行う機会が出来るんじゃないかい?
里見くんは、もしかしたら、休日、応援係の森野さんに部活動の練習に付き添ってもらう必要があるかもしれないけど、生徒会からの頼み事として風紀委員に抗弁できるから、気兼ねなく二人で過ごせるよね?」
「「っ〰〰〰!!」」
宇多川と俺は石狩会長に痛いところを突かれ、共にげんなりと肩を落として、こう言うしかなかった。
「「…け、検討してみます…。」」
「うん。ありがとう!休み明けにでも、返事を聞かせてくれるかい?」
石狩会長は俺達とは対照的に、確信犯な笑顔を浮かべている。
「あわわ…。夢ちゃん、浩史郎先輩、私のせいで、なんかごめんなさい…。||||」
渦中に巻き込まれたりんごは、申し訳無さそうに俺達に謝ってきて、
恭介も、苦笑いで俺達に片手で「すまん」ポーズを取ってきた。
確か、恭介も一年の時、石狩会長にスカウトされて入る気のなかった生徒会に入れられ、副会長までさせられてるんだよな。
石狩会長の人心掌握の技よ、恐るべし…。
俺は彼女の事がやはり苦手だと再確認したのだった。
*あとがき*
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