第41話 おまけ話 我が家の猫事情
夕食時に、向かいの席に座っているりんごが、身を乗り出して聞いて来た。
「ねぇ、浩史郎先輩、今日のポトフのお味、どうですか?ご実家の味と変わりありませんか?」
「う〜ん。そうだな…。」
食卓に並ぶポトフの皿に口を付け、野菜とウインナーの出汁が出た、旨味を味わいながら俺は考えた。
今日は、実家のレシピで作ってくれていたんだよな。
そう言えば、実家で使っていた香辛料と同じ味がするような…。
「ああ…。ウインナーの味は少し違うが、スープの味は、一緒だと思う。」
「そうですかぁ…。ウインナーのメーカーどこのか聞いとけばよかったですね…。」
「いや、そんな全く同じ味にしなくても…!これはこれで美味いから変えなくていいよ。」
残念そうに肩を落とすりんごに俺は慌てて付け足した。
「そうですか?そう言えば、これは浩史郎先輩が自分で選んだウインナーでしたもんね?」
「あ、ああ…。//」
今日、帰りにスーパーの近くでりんごにばったり会って、買い物に付き合った時の事を、思い出して俺は赤面した。
ちょうどポトフを作るという話をしていて、精肉売り場にて…。
『おっ。このウインナーポトフ用にいいんじゃないか?』
『いいですね。太くて大きくてジューシーな感じで美味しそう!』
こんなやり取りをしてしまったのであるが、りんごの嬉しそうに言った発言が妙に意味深に頭に残ってしまっていた。
「はむっ。うん!このウインナー最っ高に美味しいです!!流石、浩史郎先輩が勧めてくれるウインナーなだけありますね?」
「お、おうっ…。//」
りんごがウインナーをかじっている様子を気になって、チラチラ見てしまう。
ほほう…。俺の勧めるウインナー最っ高に美味しいのか…。ふーん…。
「??どうかしましたか?」
「い、いや、何でもない!」
見られている事に気付いたりんごがキョトンと純粋な瞳でこちらを見返して来たので、慌てて俺は邪な思いを振り払うように首を振り、目を逸らした。
いやいや、何を考えている、俺?!
りんごは度々意味ありげな言動をして来て、元カノ達ともそれなりに経験のある思春期の俺には、欲求を抑えるのに苦労する時があるんだよな…。
事故とはいえ、上半身の裸も見てしまったし…。//
りんごは無邪気に、猫と飼い主の関係なんて、言ってくるが、人の気も知らないで…。
けど、実家からシェアハウスにりんごを連れ帰った時、俺に対する好意があるかを聞くと、
『私は浩史郎先輩の事をとても大事に思っていますよ。ま、まぁ、し、慕ってい、いますね…。』
って、真っ赤な顔で答えてくれたんだよな。
まぁ、家族的な想いにせよ、慕ってくれていることに違いはないワケだし、案外強引に迫ったら押し切れるんじゃないか?
肩書きは猫でも何でもいいが、なし崩し的にそういう関係になって、既成事実を作ってしまえば、りんごだって…。
邪な計画を巡らせてしまいそうになった時、りんごが俺に問いかけて来た。
「そう言えば、知ってますか?浩史郎先輩。」
「ん?」
「猫って妊娠率ほぼ100%らしいですよ?」
「ぶふうっ!」
俺は危うく口に含んでいたスープを吹きそうになった。
「や、やるな…!りんご、いい牽制だな。」
口を抑えて、衝撃を堪えている俺を見て、りんごは目を丸くした。
「牽制…?」
「いや、何でもない。何でいきなりそんな話を?」
「ああ。テレビのバラエティ番組で、ワンニャン豆知識のクイズをやっていたんですよ。
猫は、人間や犬のような自然排卵ではなくって、交尾の時に排卵が起こり、ほぼ確実に妊娠するので、
家で飼っていると、二匹の猫があっと言う間に数百匹になってしまう事もあるそうですよ?」
「へ、へー?そ、そうなんだぁ…。大変だなぁ。」
お、落ち着け、俺。りんごは猫じゃない。多少エキセントリックな性格では、あるが、人間、人間だ…!
そう自分に言い聞かせながらも、まだ沢山の子供に囲まれてんやわんやしている未来の自分を想像してしまった…。
「私はその話を聞いて、猫というのは、外の環境ではそのぐらい子猫を産まないと、種の保存が出来ないぐらい儚い生き物なんだなぁ…と切ない気持ちになりまして…。
何だかすごく、猫カフェに行きたい気持ちになったのです。」
「何でそうなるんだ?」
胸に手を当ててしんみりとしているりんごに問うと、りんごは猫のように目を細め微笑んだ。
「ふふっ。調べたら、猫カフェがこの近くにあるが分かりまして…。売上の一部を、野良猫の保護活動に寄付していて、募金も出来るみたいなんです。
頑張る猫ちゃん達を少しでも応援出来ればと、思いまして…!あと、猫ちゃんに触れ合いたいなぁという気持ちもちょっぴしだけありますが…。」
りんごはワキワキと手を動かして、うっとりとした表情になっていた。
自分で言ってるより、猫に触りたいからという動機によるものが大きい気がするが、これは好機だ。
「じゃあ、行くときは俺も一緒に付き合ってやるよ。」
「ええ!いいんですか?」
俺がそう申し出ると、りんごは顔を輝かせた。
「ああ…。俺も、こう見えて結構猫、好きだしな。」
「ふふっ。そうですよね?後輩を猫として愛でているぐらいですもんね…。」
「おい、言い方…!」
クスクス笑うりんごを軽く睨みながらも、内心では新たなデートの約束に胸を踊らせていたのだった。
*あとがき*
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