第35話 好みどストレートな女性

《森野林檎視点》


『ロンリーブルーな浩史郎先輩に告ぐ!萌えキュンプルンな彼女をゲットするのだ!!〜巨乳捕獲計画☆彡』

と表紙に書かれ、デコシールで飾られたノートに、浩史郎先輩の女性遍歴について記入していたところ、自分についての記述を書くように言われ、面映ゆい思いで、私は次のように書き込んだ。


『森野林檎:両親同士の取り決めにより、◯年5月より、許嫁としてシェアハウスで同居。実際の関係は飼い主と猫のような関係で、男女の仲ではない。恋人が出来次第、許嫁&同居は解消予定』


「ううっ…。//なんか、自分の事書くなんて恥ずかしい…。」


「ふっ。どうせ書くなら完璧に記載しなきゃいけないからな。」


「むぅ〜…。」


顔を赤らめていると、向かいの席の浩史郎先輩に、小馬鹿にしたような物言いをされ、私は頬を軽く膨らませた。


浩史郎先輩、ご両親お金持ちで、本人も成績優秀、スポーツ万能とスペックが高いのは多くの女子にとって魅力的だろうし、

その気になればすぐ恋人なんて作れるのだろうけど、ご性格がかなり難アリなんだよな…。

いくら素敵でも、恋人になって、毎日のように、「君はバカなのか?」なんて言われた日には100年の恋も醒めてしまうだろう。


だとすれば、浩史郎先輩の恋人になる人は、「君はバカなのか?」と言われる余地のない程の賢さが求められるということだ。


好みの要件「年上、巨乳、優しい」に「賢い」まで加わり、ますます探すのが難しくなりそう…。


飼い主=浩史郎先輩に、幸せになってもらうよう画策する猫=私としては、

難易度高めのミッションにため息をついた。


「はぁっ。まぁ、気長に行きますか…。」


そして、ケーキの最後のかけらを口に放り込むと、横目でガラスの扉で区切られた猫スペースの方を見遣った…。


そして正面に向き合って、既に飲食を終えている浩史郎先輩に向かって、私は微笑んだ。


「浩史郎先輩、また猫に癒やされに行きましょうか。」

「ああ。そうだな。(こいつ、あさっての方向に何か難しい事を考えた末、行き詰まって、放棄したな…。)」


浩史郎先輩は返事をしながら、何故だか私に「こいつ、バカだな」って目を向けて来たけど、平常運転なので、気にしなかった。


          *


「ふりふり…ホラ、あっち行った!」

「ニャッ!」


パシッ!


私が猫じゃらしを振り回し、おもりを遠くへやると、目の前の白猫、みるくちゃんは、見事におもりを捕獲した。


「おお〜すごいすごい!みるくちゃん、ナイスキャッチ!」

「ニャ〜ン♡」

「ほう…。」


私が猫の頭を撫でているところを、浩史郎先輩が感心したような声を出した。


「君は猫に好かれるな…。」


見れば、浩史郎先輩は猫から遠ざかり、私と猫のやり取りを見守っているだけだった。


「浩史郎先輩も猫と戯れればいいのに。」


私が勧めたが、浩史郎はぷるぷると首を振った。


「いや、俺はいいよ。さっき抱っこしようとしたら、逃げられてしまったし、猫に好かれないみたいなんだ。

りんごのような猫タイプじゃないと、モテないんじゃないかな?」


「うんうん、まぁね〜。猫の気持ちは猫タイプの私が一番分かるっ…て、そんな事ないでしょー。」


ビシッと手刀をかざして、ツッコミをしていると…。


「うふふっ。この子達にどう接していいか分からないって方結構いるんですよ?」


後ろから、優しそうな女の人の声がして、振り向くと、猫のイラストが描かれたエプロンを身に着けた美人の店員さんが微笑んでいた。


「この子達におやつでも、あげて親睦を深めてみませんか?」


豊満な胸のあたりに掲げられたプラカードには、

・アイスキャンディー 500円

・カリカリ      350円 


と書いてあった。


「はいっ。ぜひっ!」

「あ、はい…。じゃあ、お願いします。」


私は二つ返事で、浩史郎先輩は戸惑いながらもスタッフのお姉さんにおやつをお願いする事にした。


          *


「ニャーニャー♡」


ガツガツペロペロ!


「ふわぁ…!猫の舌のザラザラ何ともいえない〜。」


手のひらからカリカリを食べるみるくちゃんの舌の感触に、私がぷるぷるしている横で…。


「うわっ、三匹一遍に寄って来た!」


「アイスキャンディーは、皆でペロペロするものなので、慌てないで大丈夫ですよ〜。落とさないように持ち手をしっかり握ってあげてて下さい〜。」


複数の猫が集まって来て、焦る浩史郎先輩に、さっきの女性スタッフさんが、優しく声をかけてくれていた。


ふふっ。浩史郎先輩、意外とビビリなんだよね。


「猫は、大きな物音を立てられたり、いきなり動かれたりするのを好まないので、この子達が自然と寄ってきてくれるのを待ってあげて下さいね。


いきなり抱っこしようとするのも、嫌がりますよ?」


「ああ…。それで、さっき避けられていたのか…。」


ふんふんと、浩史郎先輩は素直に頷いていた。


おおっ。あの浩史郎先輩が、ジゴロモードでなく、自然体でフレンドリーに女性と接している!


あの女性スタッフさん、すごいな…。


と考えて、女性スタッフさんの豊かなお胸に目が行き、はたと気付いた。


あれ?


「巨乳、美人、優しい」


あの女性スタッフさん、全部要件満たしてない!?


加えて、(猫についての知識があり)「賢い」も兼ね備えている?!


「猫じゃらしには動かし方がいくつかあってですね。まず、クネクネとヘビのように動かすやり方…。クロミちゃん…。えい!ホレホレ〜!」


「ニャッ!」

パシッ!


「おお〜!!」


「その猫の性格によって、好みが違うので、それぞれに合った動かし方をしてあげて下さい。」


「そうなんだ…。ハハッ。面白いですね?(りんごが本当に猫だったら、絶対すげー元気な性格な奴だろうな。)」


なんか、めちゃめちゃいい感じの雰囲気!

よし、かくなる上は…!



浩史郎先輩が女性スタッフさんとにこやかにやり取りをしているところを尻目に、私はソーッとその場を抜け出したのだった。













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