第33話 猫カフェデート

「ああ…、浩史郎先輩…。もう私…、幸せです…。」


りんごは白地にぶち模様のある、その小さな生き物の体に頬をすり付けて、柔らかい毛並みを堪能していた。


「ああ、幸せそうで何よりだな。」


俺はその様子を見ながら、同じような生き物同士がじゃれているのを見るような、不思議な感覚に陥った。


ここは猫カフェ。


期末テストが終わり、風紀委員との対立もなんとかやり過ごした俺とりんごは、お疲れ様会のような感じでここに来ていた。


りんごは数匹の猫にすり寄られ、ご機嫌だった。


「浩史郎先輩。今の見た?この白い子、前足を曲げてニャンって挨拶した!可愛いぃ〜!」


りんごが同じポーズをとって、フニャっとした笑顔で説明してくるのを、眼福に思いながら、俺はニヤける口元を抑えて、必死にポーカーフェイスを保ち続けた。


メチャメチャ可愛い…!!!


くっそ、猫カフェ最高じゃねーか!!


柔らかそうな、少しクセのあるショートヘアに小動物系の愛らしい顔立ち、小柄で華奢な体つきのりんごは普段から猫を思わせるところがあるが、


今日は白いレースの半袖ブラウスに、黒のショートパンツ、肉球アクセのついた黒と白のしまのハイソックスと更にそれらしく見える格好をしていた。


以前、恭介に乗せられて、りんごが猫耳を着けた事があったが、すごく似合っていた。


りんごの今の格好で猫耳を身に着けたら、可愛らしさのあまり、鼻血を吹く自信がある。


「写真撮りたいな…。」


思わず漏れた俺の呟きに、りんごは同意した。


「ホントですね〜。でも、猫ちゃん達がびっくりしちゃうから、写真撮影は禁止って書いてあります。残念です…。」


そう言って、さも無念そうに唇を尖らせた。


いや、多分お互い撮る対象、違うものを思い浮かべていると思うけどな…。


そこへ、猫の絵が描かれたエプロンを身に着けた女の店員さんから声をかけられた。


「3番テーブルの方、肉球ぷにぷにプリンと猫のしっぽケーキご用意できましたよ!」


「あっ。はーい。」


りんごはパッと顔を輝かせて、返事をした。




俺はりんごと、猫達のいる部屋から、ガラス戸一枚隔てたカフェスペースへと移動して、お店の入口近くにある洗面所で手を洗うと、もと居たテーブル席についた。


テーブルには、既にスイーツと飲み物のセットが置かれており、りんごはそれを見て目を輝かせた。


「うわー、可愛い!」


りんごが紅茶とセットで頼んだ「猫のしっぽケーキ」なる一品は、猫の形のチョコレートケーキにアクセントにしっぽの形のチョコクッキーがトッピングされていて、

俺がコーヒーとセットで頼んだ「肉球プリン」はシンプルなプリンに肉球型の窪みがあり、そこにトロッとしたカラメルソースがかかっており、

どちらも可愛らしい外観のメニューだった。


いわゆるインスタ映えするって奴だ。


「浩士郎先輩のも撮らせてくださいね?」


りんごはスマホで、ケーキの写真を撮ると、画像を確認しながら満足気に何度も頷いた。


「ふふっ。いいのが撮れました。」


「りんごも投稿とかするのか?」


「??」


不思議そうに首を傾げるりんごに、俺は愚問だったなと思い、苦笑いをした。


機械や、パソコンが苦手なりんごが、スマホの基本操作やメールのやり取り以外できる訳がないのだった。


インスタの投稿の事だと説明してやると、納得したようにりんごは大きく頷いた。


「ああ〜、あの毎日リア充の方がされる奴ですね!

いやいや、そんな大それた事私には100年早いですよ。」


いや、今どきリア充じゃなくても誰でもやってると思うが…。100年早いって言う事は今生ではもうできなそうだな。


「私を可愛い格好にしてくれた夢ちゃんに、後でLI◯Eでご報告する用の画像を撮っていたんですよ。」


「ああ…。宇多川に送る奴か…。」


今日の猫っぽい可愛い格好のりんごは、大きな目を引き立たせる化粧が施されており、

前回のデート同様、ひと目ではりんごと分からないぐらいの超美少女へと変身していた。


まじまじとその可愛らしさを目で愛でながら、それをプロデュースしたのが俺を嫌っている宇多川だと不思議に、俺は首を傾げた。


「宇多川は俺がりんごに近付くの嫌がるのに、どうしていつもこういう時は協力的なんだ…?」


「うーん。それは…。」


りんごは一瞬言葉に詰まり、目を伏せた。


「友達の私が体験する事に関わることで、自分もそれを体験したような気分になれるからじゃないかと思うんですよね…。


夢ちゃんは、財閥の姫という立場上、気軽に外出できないので。本当は、夢ちゃんをもっと外に連れて行ってあげたいんですけどね…。」


そう言うりんごは切なそうだった。


大会社の父に名家の母の間に生まれた俺は、上に立つ人間になるべく小さい頃からプレッシャーをかけられて育って来た。


増してや、財閥の姫である宇多川は、俺よりも窮屈な生活を強いられているであろう事は想像に難くなかった。


りんごをめぐっていつも俺に剣突を食らわせてくる宇多川だが、少しだけ同情してしまった。


「今度宇多川が行けそうなところに連れて行く計画立ててやればいいんじゃないか?必要なら俺も協力するからさ。」


「…!はい!ありがとうございます!」


俺がそう言うとりんごは手を組み合わせ、にぱっとした笑顔になった。


「あっ…。いつの間にかクッキーのかけら落としちゃってた…。」


「…!!//」


そう言ってりんごは、手を伸ばしたのは、ニーソックスと間の太ももの際どい位置で、俺は思わず見入ってしまった。


ほほう…!りんご、華奢な体つきと思っていたが、太ももは結構むっちりしてるんだな…。


「もぐもぐ…。ん…?浩史郎先輩??」


拾ったクッキーのかけらを食べているりんごが、俺に見られている事に気付いてキョトンとしている。


「い、いや、なんでも!」


慌てて目を逸らしたが、りんごはいたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見上げて来た。


「ふふっ…。浩史郎先輩?もしかして触りたいんですか…?」


「な、何言ってんだよ!!」


「ふふふっ。遠慮しなくていいんですよ…?」


自分の欲望を言い当てられて狼狽する俺に、りんごは可笑しそうに笑って、座る位置をずらして、俺の近くに寄って来た。


「り、りんご、何を…?!//」


りんごは俺に美味しそうな左の太ももをこちらに向けて…。





そのニーソックスについていた肉球マークのアクセを外して、俺に差し出すと満面の笑顔になった。


「はい。これ、可愛くて気になりますよね〜?分かります!触り心地試してみて下さい。」


「えっ。コレの事…か…!??」


その肉球アクセを受け取り、指で突いてその小さなぷにぷにした感触を感じながら、俺は一気に脱力した。


「なぁ…。りんご、わざとやってるのか?」


「え?何がですか?肉球アクセを触ってみたかったんじゃなかったんですか?あ。もしかして、黒猫ちゃんの肉球の方がよかったですか?」


「もういい…。」


慌てて右足についていたアクセを外そうとするりんごに、俺は深いため息をついたのだった…。



*あとがき*


年内の投稿はこちらで最後になります。

いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


どうか皆様良いお年をお迎え下さい。

よければ、来年もよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る