第31話 ファーストキス談義

自分で提案してしまった以上、仕方がない。


俺は、渋々りんごにファーストキスの体験談を話し出した。


「俺は中1の時、初めて出来た彼女とだったな。校庭の木の下で告白されて、その時に。」


「キャー!ギャルゲーみたいですね…。告白されて、その場でって!キャー!浩史郎先輩、どんだけ手が早いやら!」


頬を赤らめつつ、キャーキャー言ってるりんごに言い訳をするように言った。


「いや、あっちからされたんだよ。向こうは一つ年上だったし、その、色々リードされる感じで…。」


「浩史郎先輩、年上の女性好きですものね。

で?で?その彼女さんとはどうなったんですか?」


興味津々で聞いてくるりんごに、俺は言い辛い事を、正直に言った。


「いや、もともとすごく好きで付き合ってた訳じゃないし、彼女とはうまく行かなくなってたところに、叔母であるよしのさんに出会って、まぁ、段々フェードアウトして自然消滅した感じかな?」


「あらら…。そうなんですね。残念…。

でも、浩史郎先輩の初恋は叔母さんですものね。初めての女ひとって言ってたし…。ガキンチョだった私の中学時代と比べてどんだけ、アダルトな時間を過ごしていたことやら。」


りんごは手を恥ずかしげに頬をあてた。


うっ!知られている!


そういえば、りんごがホームシックになって、言い合いをしたときに、よしのさんが、初めての女って行ったっけ?


よく覚えてるな!


というか、俺はなんで今好きな奴の前で、中学時代の性生活について赤裸々に語ってるんだ?


しかも、相手は興味津々で楽しそうに聞いてるし…。


「ふふっ。でも話してくれて嬉しいです。その…。叔母さんの事は浩史郎先輩にとって、傷になってる事かなと思ってるから、私からは聞けないし…。少しずつ話題に出せるようになったって事は、浩史郎先輩が、前を向けるようになってきたのかなって私は思いますけど、どうですかね…?」


おずおずと窺うようにりんごに言われて、傍と気づいた。


そういえば、以前はよしのさんの事なんて、話題に出すどころか、思い出すのも辛いぐらいだったのに、今、普通に口にしていたな。


まぁ、思い浮かべると、胸が痛むのは避けられないのだが、今までと比べると、やはり軽くなっている気がする。


その一因には、目の前で心配そうにこちらを見守っている少女の存在が大きいのだろう。


「そう…だな…。」


肯定するとりんごは安心したように笑顔になった。


「よかった。」


「いつか、りんごにあの人の事全部話せる時が来ると思う。その時は話を聞いてくれるか…?」


「もちろんですよ?私はいつでも待っています。」


満面の笑みを浮かべてりんごは言った。


「さ、もうこんな時間になってしまいましたね。私は夕食の後片付けしちゃいます。浩史郎先輩は、お風呂早めに入っちゃって下さいね。」


と言って、席を立とうとするりんごの手首を掴んで俺は言った。


「ちょっと待て!君の話を聞いていないぞ?」


明らかにりんごはギクッとした表情で、目を逸した。


「あ…。覚えてました?」


「当然だ。」


「いや、今、いい感じで話を終われそうだったし、今更私の話なんて、どうでもよくないですか?」


「いや、俺は聞きたいね。俺だってここまで話したんだ。次は君の番だ。」


「うーん、でもなぁ、浩史郎先輩のあんな話の後に、私の話なんて大した事ないし、馬鹿にされるのがオチですよ。」


「そんなの聞いてみないと分からないだろ?」


「うーっ。でも今は嫌です!その話はまた今度という事でっ。あっ。やだ!離して!」


ダッシュで逃げ出そうとするりんごの肩をはっしとつかまえた。


「コラッ!ずるいぞ、りんご。そっちがそういう気ならこっちも考えがあるからな!」


俺は両手でりんごの脇腹を思うさまくすぐってやった。


「やっ。あはっ。あはははっ。やめ!浩史郎先輩やめてぇっ!あはははっ。」


「白状するまでやめないぞっ。」


「あっ。脇はやめてっ。やんっ。言うっ。言うからぁっ。」


「よし。」


解放してやると、りんごは、床に崩れ落ちた。


「はぁっ。はぁっ。浩史郎…先輩っ。ひ、卑怯…ですよ?」


りんごは顔を紅潮させて、息荒く、悪態をついた。


抵抗した為か衣服が乱れ、ノースリーブの服がまくれ、お腹が見えてしまっている。


おおぅ…。割とクる絵面だな…。


俺は顔を赤らめながらも、反論した。


「り、りんごだってずるいだろ?で?」


りんごは床に座りこんで、息を整えると、観念したように言った。


「もう、分かりましたよ。というか、本当に大した事ないんですよ。私が11才のとき、まだ赤ちゃんのかっくんにほっぺにチューしようとしたら、いきなり動かれて、口にしちゃったの。かっくんは姉にファーストキスを奪われたなんて気付いてないし、言わないで下さいね。それだけです!こんなひどい目に合うならなら初めに言っちゃえばよかった。」


涙目になって唇を尖らせるりんごを見下ろすと、俺は途端に愉快な気分になって、罵倒し始めた。


「ふっ。君の事だからそんなオチだと思ってたよ。っていうか、そんなのノーカンじゃないか?無理して、経験者ぶりたい気持ちは分からんでもないが、本当に浅はかというか…。愚かというか…。」


りんごに経験がなかった事に安心した反動で、気が大きくなった俺は結構強めの発言をしてしまっていた。


りんごは、怒りに顔を真っ赤にして叫んだ。


そうやって、馬鹿にされると思ったから言いたくなかったんですよ!くすぐられた上、ひどい事言われて、踏んだり蹴ったりです。一回は一回ですからね!」


「うわっ。何するんだ?」


りんごは俺の腕を手にとると、躊躇いなく唇をつけ、ブーッと吹いた。


!!!


腕にビリビリ震えるような擽ったさを感じ、体の芯がふるえた。


これは…まずい…!!


りんごは口を離すと、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ふふん、くすぐったかったでしょう?いーちゃん、かっくんが赤ちゃんの頃、よくお腹にやっていた遊びです。」


分かってる。りんごは子供で、単にイタズラでやってる事だって。別に煽ったり、誘惑する気持ちがある訳じゃないって。


でも。


理性では理解していても、本能は違う。


「一回は一回だからな。」


「きゃっ?」


そう言って俺はりんごを押し倒した。


その弾みで服がまくれ、露わになった白い腹部に、唇を押し付けた。ブーッと吹くとりんごの白い肌が震えるのが感じられた。


「やだっ。やあぁんっ。」


次の瞬間、りんごに渾身の力を込めて突き飛ばされ、俺はバランスを崩して床に転がった。


「いてて…。」


頭をさすりながら、身を起こすと、素早く立ち上がったりんごが、こちらを覗き込み、涙を散らしながら、喚き散らした。


「浩史郎先輩のバカぁ!!浩史郎先輩は私を、小さな子供や猫のように思ってるかもしれないけど、生物学上は年頃の女の子なんですよ!?やっていい事と悪い事があります!!二度とこんな事しないで下さい!!」


「ご、ごめん、りんご。つい調子に乗って…。」


我に帰った俺はりんごに謝ったが時すでに遅し…。


「もう、知りません!!」


そっぽを向いてそう言うと、りんごはそのまま自分の部屋までダッシュで逃げていった。


俺はりんごの部屋のドアがすごい勢いで閉まり、鍵をかけられる音を聞きながら、えらい事をやらかしてしまったのを自覚した。


俺は今、りんごに何を…?


まくれた服から可愛く覗いたお臍。そのやや下の白いお腹に、思いっ切り口付けて、空気を震わせるように吹き付けた。まだ唇に感触が残っている。


「すっげー、柔らかかった…。」


今のは本当やばかった…!りんごが抵抗しなければあのままどうなっていたことか。


というか、体は既に反応しており、完全にアウトな状態だった。


『生物学上は年頃の女の子なんですよっ!?』


「そんなの、分かってるよ…。」


俺は物理的、精神的理由により、しばらくその場から動けなかった…。



*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。













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