第25話 取引

「異議あり!」


バンと音をたてて会議室の扉を開いたのは夢ちゃんだった。


「!?あなたは…!宇多川さんじゃないの。あなた、学級委員の集まりがあったんじゃ?」


「途中で具合が悪くなったので、保健室へ行こうとしたところ、会議室から穏やかでない内容の会話が聞こえてきたんで、飛び込んできてしまいました。」


「よくもまぁ、恥ずかしげもなく、たった一人の下級生女子に相手に風紀委員の先輩でよってたかって詰め寄って!これがいじめでなくてなんですか!これは、校長先生にご報告しなくてはなりませんね。」


「わ、私達はただ学園の風紀を乱す森野さんの行為を咎めているだけであって!」


「風紀を乱す行為?」


夢ちゃんはスクリーンに映し出されている写真を見遣って言った。


「りんごが里見先輩とシェアハウスで同居している事をそうだというなら、糾弾すべきは里見先輩も一緒でしょう?なぜりんごだけを」


「里見様は悪くありませんわ。このふしだらな女に無理矢理同居を迫られたに違いありません。ボイスレコーダーの記録でもこの女を嫌がっていましたもの。」


「万一そうだったとしても、シェアハウスを用意したのは、里見先輩のご両親でしょう?責任は免れません。二股事件を起こした里見先輩とお母様である理事長はもう一度問題を起こせば、今度こそ重大な処分を受けることになるでしょうねぇ。あなた方の大好きな里見先輩が、このことで、学園を去ることになってもいいんですか?」


西園寺先輩は青ざめた。


「さ、里見が、退学だなんてそんな…!あなた、私を脅す気ですか!」


「ちょっと冷静になって状況を考えてみて下さいと言ってるだけです。りんごはハウスキーパーとして、シェアハウスで住み込みで働いているだけです。買い物もその延長線上で、里見先輩はただ荷物を持つのを手伝っただけ。」


「だからって、男女二人きりで同居なんて…!」


「たまたま今まで入居者が二人だっただけの事ですよね?私も、こんな事態になるんではないかと思って、親友を心配して、理事長に聞いてみたんです。そしたら、もう二人入れるようですよ?あのシェアハウス。」


「?!」


「10月から二人入居の予定があって、それまでの短い期間私も入居させてもらうようお願いしました。」


「な、何ですって!?」


「そうですよね?」


「その通りよ。宇多川さん。」


 !!


「?!」


開きっぱなしの扉をからもう一人出てきた人物に、私も風紀委員の方々も目を見張った。


スラッと白いスーツを着こなしているその人は理事長=里見先輩のお母さんだった。


「宇多川さんは、夏休みの後半、財閥の御令嬢でありながら自立のためにシェアハウスに滞在するなんて素晴らしい心がけよね。西園寺さんはどう思われて?」


「え、ええ。心がけは素晴らしいと思いますわ。でも、男女でシェアハウスなんて、やはり、どうかと。何か間違いでもあったら取り返しが付きませんわ。」


「ああ、西園寺さんは風紀委員として」という事かしら?」


「え、ええ。そ、そうですわ。」


西園寺先輩は引き攣った笑みを浮かべた。


え。さっきと言ってる事180度違うじゃん。


私が夢ちゃんを見ると夢ちゃんは呆れたように肩をすくめてみせた。


「では、こうしたらどうかしら?夏休みの間西園寺さんが風紀委員代表として、女子達の安全がちゃんとはかれているかシェアハウスに視察しに来るというのは?」


「えっ!!わ、私が里見様のお家に?」


「ええ。もし、西園寺さんのお家の人に許可がとれるなら、で来て頂いてもと思っているわ。」


「里見様のお家に泊まり込み!!ぶふぅっ。」


西園寺先輩は何を想像したのか、たらっと一筋の鼻血を出し、鼻をハンカチで抑えた。


「え、えがってほはいほほへふは。(ね、願ってもない事ですわ。)」


「では、西園寺さんは、放課後に手続きの書類をお渡しするするので、理事長室に来て下さいね。


では、森野さんの件はこれでいいかしら。解散して下さいね。


風紀委員さんがあまり、問題を起こすと、視察の件も難しくなってしまうかも…。」


「も、もちろん。森野さんの容疑は晴れました。

これで風紀委員の会議は解散にしますわ。いいですわね。あなた達!」


「「は、はい…。」」


「そう。よかったわ。では、私はこれで失礼するわね。」


理事長は颯爽と会議室を去って行った。


理事長の登場、そして一連のやり取りは、さっきまでの風紀委員さん達の雰囲気を一変させてしまった。


私への憎悪一色で固まっていた風紀委員の結束は、

今や私の存在などどこかに飛んでしまい浮かれた西園寺先輩と、そんな西園寺先輩に対して困惑と不満を抱える他の風紀委員の方々と微妙な空気に変わっていた。


*あとがき*


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