第11話 カンペ
「はあ?」
西園寺先輩は私の発言に目を丸くした。
「私、夢ちゃんも浩史郎先輩も大好きで、あの二人がカップルになったらどんなにお似合いで素敵なことと思っていたんです。
それなのに、夢ちゃんの気持ちにも気付かず、あまつさえ、二人の恋路の邪魔をしていたなんて…。
くうっ!森野林檎一生の不覚です。そりゃ、夢ちゃんに空気読めないって疎まれても仕方がないかもしれません。後で、夢ちゃんに謝らなければ!あっ。そうだ。今日の昼休みは取り敢えず仮病を使って夢ちゃんと浩史郎先輩を二人きりにしてあげなければ!そうと決まれば、東先輩にもメールを打っとかなきゃ。「今日の昼休みは適当に用事を作って屋上には行かないで下さい」…と。」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」
鋭い声で制止の声をかけられ、私は西園寺先輩を見た。
西園寺先輩は先程までの儚げな雰囲気を一変させて、眉間に皺を寄せて、全身に怒りのオーラを身に纏っていた。
「西園寺…先輩…?」
「そうじゃないでしょう!?そこは、『がーん!親友だと思ってたのに夢ちゃんに裏切られてショックぅ!愛しの里見先輩をあんな子にとられるくらいだったら、私が蹴落としてやるわ!西園寺先輩。力を貸してくださいぃっ。』って、私に擦り寄ってくるシーンでしょ?シナリオ通りちゃんとやりなさいよ!!」
急に態度を豹変させて、ソプラノボイスをヒステリックに張り上げて怒鳴り込んでくる西園寺先輩に私はどう対応したらいいか分からず、目を白黒させた。
「し、シナリオって…?」
『っうん。』
『ゴホン。』
??
その時、どこからか、複数の場所から咳払いの声が聞こえた気がした。
私は辺りをキョロキョロしたが、他に誰かがいる様子はなかった。
空耳…かな…?
昂ぶる西園寺先輩にはその声が聞こえなかったらしく、更に私に指を突きつけて叱りつけてきた。
「貴方は所詮、宇多川夢の取り巻きBぐらいの立ち位置なんだから余計な言動をとらないの!モブキャラの癖に生意気よ?」
「は、はぁ…。なんかすみません…。」
取り巻きB?モブキャラ?西園寺先輩は一体何を言ってるのだろうか?
私は何が何やら分からないまま勢いに押されて謝ってしまっていた。
さっきまでの色白で貧血で倒れそうな儚げな美少女と、悪役令嬢よろしく手を腰にあてて、青筋たてて私を怒鳴りつけている目の前の西園寺先輩が同一人物とは思えない程の変わりようだった。
「あ、あの、そんなに興奮して大丈夫ですか?貧血ぶり返しちゃうんじゃ…。」
恐る恐る私が言うと、西園寺先輩はハッと息を飲み、手で額を抑え、華麗な仕草で倒れるようにベッドに座り込んだ。
「ああっ。また貧血がっ…。」
「大丈夫ですかっ?」
慌てて駆け寄ったとき、西園寺先輩のブレザーのポケットから何か小さいノートのような切れ端が落ちたのに気が付いた。
私はベッドの下に落ちたその紙を、さっと紙を拾い上げると、また、複数の方向から息を飲む音が聞こえた。
「「っ…!!」」
??
私は辺りをキョロキョロしたが、やはり私と西園寺先輩の他には誰もいないようだった。
さっきから何だろうか??
やはり西園寺先輩は今の気配には気付いていないらしく、顔を背けてプリプリと怒っていた。
「全くあなたが私を興奮させるような事を言うからよ?」
「すみませんでした。あの、西園寺先輩、これ落ち…。」
西園寺先輩の肩を叩いて、その紙を渡そうとしたが、書かれた文字が紙の裏から透けて見えてしまい、ギクッとした。
その紙には“宇多川夢を孤立させる方法”と書かれていたのだ。
私は少し躊躇ったが、まだぶちぶち文句を言っている西園寺先輩から背を向けるようにしてその紙を広げてこっそり中身を見ることにした。
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《宇多川夢を孤立させる方法》
〜プロデュースバイ西園寺茉莉花〜
➀宇多川夢の悪口を取り巻きBに吹き込む。
→宇多川夢に不信感を抱かせ、学園のアイドル里見
くんをとられる不安を煽る。
②取り巻きBを風紀委員の裏の顔=白薔薇の会(里見
くんファンクラブ)の手駒に引き入れ、宇多川夢の
弱点や弱みを掴む。
③里見くんに宇多川夢に関する情報(事実を含めた悪
い情報)を吹き込み、幻滅させる。
④取り巻きに裏切られ、里見くんにも見捨てられた
宇多川夢は孤立し、学園を追放される。
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お、おおぅ…、なんて計画だ…!
私はノートの切れ端に書かれていたあまりにもすごい内容に絶句した。
里見先輩って学園のアイドルだったの?もともと人気はあったけど、二股事件で大分評判落としてしまったし、アイドルとまでは言えないんじゃないの?
風紀委員って裏の顔、里見先輩のファンクラブだったんだ!知らなかったなぁ。
と、細かい突っ込みどころはともかくだ、夢ちゃんを陥れる計画が練られている…!
これは大変よろしくない!
さっき、西園寺先輩は私の事を“取り巻きB”と呼んだ。この計画において、夢ちゃんを裏切る取り巻きBを私に演じさせようとしている?
西園寺先輩は②の取り巻きBの私を里見先輩ファンクラブの仲間に引き入れる事に失敗したから、シナリオ通りじゃないと怒ったんだ。
だけど、西園寺先輩は一体何のために夢ちゃんを陥れようとしているんだろう?
私はノートの切れ端を元のように四つ折りに畳むと、
膝の上に置き、両手でギュッと握りしめ、限られた情報の中で、今自分がどう行動すればよいかを必死で考えた。
西園寺先輩はこちらに振り向くと、私に言い聞かせるように大きなソプラノボイスを張り上げた。
「ちょっとあなた!聞いているの?この私からわざわざモブの庶民に歩み寄ってやろうなんて、滅多にない事なのよ?そこは『有難き幸せ』と涙を流して、足元に跪くべき…。」
「西園寺先輩!!」
私は西園寺先輩に負けない大音量でよびかけた。
「な、何よ?モブのくせに大声出して!」
「ネタはあがっているんです。
あなたの企みはすっかり○っとお見通しですよ!」
私は西園寺先輩に指を突きつけて一度言ってみたかったセリフを言い切った。
*あとがき*
いつも、読んで頂きまして、フォロー、応援、評価頂きまして本当にありがとうございます。
やらかしまして、8/22(火)投稿予定の12話を8/12(土)に投稿してしまいました。
本来8/15(火)投稿予定だった11話の方も投稿させて頂きますので、よろしくお願いします。
混乱を招いてしまい大変申し訳ありません。
m(__)m💦💦
次回13話は、8/29(火)12:00投稿予定とさせて頂きます。
間が空いてしまいますが、見守って下さると有難いです。
今後もどうかよろしくお願いしますm(__)m
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