第4話 苦渋の選択
『浩史郎先輩にとって私は妹みたいな存在ですか?それとも猫とか犬とかペットのような存在ですか?』
俺は森野の問い掛けを頭の中でリピートした。
ん??何故その2択なんだ?
今、普通に告って付き合う流れじゃなかったか?
それとも、二つの選択肢をそんなんじゃないよと否定して欲しいとか?
俺の方から第三の選択肢を出されるのを待ってる?
いや、でも、そもそも直球のりんごにそんな回りくどい芸当できたか?
そして、続けてりんごが言った言葉は俺を更なる混乱に陥れた。
「私は浩史郎先輩の傷を癒やしてくれる素敵な恋人ができるように、できる限り協力していきたいと思います。どの立場から、浩史郎先輩の恋愛を応援していけばいいですか?」
???
こいつ、何言ってんだ……?
俺はりんごの言っている事がさっぱり分からず、虚無の瞳になった。
待て待て。順を追って確認しよう。
俺は一つ咳払いをした。
「えっと、その前に俺からも確認したいんだけど、この家に戻って来てくれたという事は、りんごは俺と一緒にいるんの嫌じゃないんだよな?」
「はい。全然嫌じゃないですよ。」
りんごは即答した。
「そうだよな?実家では一緒にいたいと言ってくれたよな?それは、少なからず、俺に好意を抱いていると、慕ってくれていると思っていいよな…?」
「そ、そうですね。私は浩史郎先輩の事をとても大事に思っていますよ。ま、まぁ、し、慕ってい、いますね…。」
りんごは頬を真っ赤に染めて、最後噛み噛みになりながら恥ずかしそうに答えた。
くっそ、可愛いな。抱きしめたい!!
よし!これは告白確定でいいよな?
「それなら、どうして妹かペットの2択なんだ?
他の選択肢はないのか?た、例えば、恋人とか…。
わざわざ探す手間が省けるんじゃないか?」
りんごはパチパチと2回大きく瞬きをすると、ふふっと笑って言った。
「それは有り得ないですね。ボイスレコーダーでも言ってくれたじゃないですか?私は『女じゃない』『モブキャラ』だって。」
???
その設定まだ生きてたのか?りんごと出会って間もない頃、確かにそんな失礼な事言ったけど、
俺が、実家に迎えに行った時点で自動的に破棄されたと思っていた。
「だから、私はモブの『ペット』か『妹』として、浩史郎先輩の恋人作りを応援して行こうかなと思いまして。」
そこからもう分からない。
モブのペットって?
モブの妹って??
たくさんいる妹もしくはペットのうちの目立たない一人(一匹)とか?
設定的に、あり得ねーだろ。
りんごは笑顔だったが、真剣な瞳をしていた。
これが、俺の失言を怒っていて、ボイスレコーダーの内容を訂正して欲しいとかいう事なら、いくらでも謝って撤回するんだが…。
どうもそういう意図はなさそうだ。
くっそ。この天然女め。何を考えてるかさっぱり分からん。
俺、許嫁とされてるりんごの実家まで行って、両親に土下座してまで側に居てほしいって言ったんだぜ?
お前、どんだけの覚悟だったと思ってる?
一緒にいたいと伝え合う会話のやり取りの中で、微妙に男女を匂わす発言をお互いにしていなかったか?
それを今更「妹」とか「ペット」として側に居て欲しいと何故思う??
りんごに縋るような思いで聞いた。
「ちなみにだけど、もし俺に第3の選択肢を望むと言われたらどうするんだ…?」
「…………………………。」
りんごは少し考えて、何故か下を向いて自分の何かを確認すると、きっぱりと答えた。
「それは、私ではお役に立てないと思いますので、その場合は私はまた実家に帰るしかありませんね。」
「また、実家にトンボ返りってことか?」
俺はギョッとして聞き返した。
「は、はい…。残念ですが…。でも、仮定の話です…よね?」
りんごは不安気にこちらをチラッと見てきた。
「〰〰〰〰〰っ。ちょ、ちょっと考えさせてくれ…。」
「はい。」
俺は額に手を当てて、考え込んだ。
こいつが何を考えているかはさっぱり分からんが、
「恋人」の選択肢を選ぶとりんごは実家に帰る=ほぼバッドエンドになるというなら、他の選択肢を選ぶ他ないだろう。
まぁ、りんごの実家に行く前は、同居を断わられて、関係が消滅する可能性も覚悟していたのだから、それを思えば、ここに戻って来てくれただけでも、よしとするしかないか。
うー、期待してたんだけどな…。
三歩進んで二歩下がるとは正にこの事。
浮足立っていた心はすっかり現実に引き戻され、俺は大きなため息をついた。
だとすると、選ぶべき選択肢はやはり二つ。
「妹」は以前その路線で行こうとして、速攻で失敗したし、はっきり定義してしまうと、今後恋愛に発展する可能性が低そうだな。
「ペット」の方がまだなんか、可能性がありそうな気がする。
りんごの性格的には犬っぽいところもあるが、見た目は猫だな。
人懐っこく、いたずら好きの仔猫のイメージ……。
考え込んでいる俺を心配そうに見守っていた森野に俺は宣言した。
「よし……。君は、俺にとって「ペット」の猫!猫みたいな存在だ!!」
「ね…猫ですか?あー、やっぱり人間だと思われていなかったんですね。」
りんごは苦笑いすると、すぐに気を取り直した。
「分かりました、浩史郎先輩!今日から私はあなたの猫です。飼い猫としてあなたのお側に置かせて下さいね。」
りんごは、八重歯を覗かせた満面の笑顔で、聞きようによってはとてもあざといセリフをサラッとのたまった。
俺はゴクッと喉を鳴らした。
こ…、これはこれですごくいいかもしれん!!
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