第3話 二者択一
「お茶…ここに置いとくな…。確か静岡のおばあちゃんのお茶だったよな。」
取り敢えず、疲れただろうし、リビングでお茶でもと俺はりんごに勧め、自分が淹れるというのを止めて、キッチンで用意したお茶をカウンター席に座っているりんごの目の前に置いた。
「あ、ありがとうございます!よもや、浩史郎先輩にお茶を淹れてもらえるなんて、感動です!!」
「あ、ああ…。たまにはいいだろ?」
大好きな家族から離れてシェアハウスに帰って来てくれたりんごに、今日は、何でもサービスしてやりたい気持ちになっていた。
「ズズッ…あ。やっぱ、おばあちゃんのお茶、うま〜!」
目の前で、美味しそうに茶をすすってくつろいでいるりんごを見て、俺は今までの疲れが吹き飛ぶような癒やされるような気持ちがしていた。
「浩史郎先輩。その…立ち入った事を聞いてしまっていいですか?」
りんごが躊躇いがちに口を開いた。
「ん?」
「浩史郎先輩の好きだったという叔母さんの事なのですが…。」
「!!」
「浩史郎先輩は今でもその方の事が忘れられないのでしょうか?そ、そのっ…。まだ死にたいとか思ってしまうことはありますか?」
りんごは膝の上で拳を固めて、神妙な顔でこちらを窺っていた。
踏み込んだ事を聞いているという自覚があるのか、こちらが怒って答えてくれなくても仕方ないと覚悟をしている風でもあった。
これは俺とりんごのこれからにも関係してくる問題だ。
俺も真剣に答えなくてはいけない。
長い黒髪。美しい面差しに、少女の様な笑顔。
豊かな胸に引き締まったウエスト。
優しく甘い声。
あの人を思い浮かべると、まだ胸の傷が鈍く痛む。
でも…。
改めてりんごに向き直ると、俺は言った。
「今も全く胸が痛まないかというと、嘘だが、中学の時みたいな鋭い痛みはもうない。あの人のことを忘れることはできないけど、少なくとも今は、死にたいとまで思い詰める事はないし、ずっとそれにとらわれているという訳でもないよ。」
「そ、そうですか…。よかった…。」
張り詰めた表情をしていたりんごはホッとしたように、表情を緩め、笑顔になった。
中学の時、俺が自殺未遂をしたと聞いて、大分心配させちゃったんだな。りんごに申し訳ないような気がしていた。
「あ、あのっ。」
りんごは更にずいっと前に進み出て、距離を詰めてきた。
??
潤んだ瞳でりんごは問いかけてきた。
「“恋愛で受けた傷は恋愛で癒やす”のが一番だと思うのですが、浩史郎先輩はどう思いますか?」
!!!
今日のりんごはどうしたんだ?すごい積極的じゃないか?
やはり、実家にまで行って、土下座までして側にいてくれと頼み込んだのが、余程効いたのだろう。
俺とりんごの間にいつになく甘いムードが漂っていた。
この機を逃してはならない。
俺は動揺で声が上擦りそうになりながら、慎重に答えた。
「あ、ああ…。悪くないと思うぞ。」
むしろすごくいい!
りんごは意を決したように真っ赤な顔で、決定的とも言える言葉を口にした。
「あの!できたら、私が浩史郎先輩の傷を癒やすお手伝いをできたらと思うのですが、い、嫌ですか…?」
!!!!
「嫌じゃない!むしろこっちからぜひお願いしたい!!」
俺は感激のあまり、りんごの手を両手で握り込んだ。
「本当ですか?嬉しい…!」
りんごは頬を染めて満面の笑みを浮かべた。
ああ、ここまで本当に長かった……!!
心の中でガッツポーズをとりながら、口角の上がった口元に唇を寄せようとすると…。
その薔薇色の唇が更に動き、問いかけてきた。
「浩士郎先輩にとって、私は妹みたいな存在でしょうか?それとも、猫とか犬とかペットのような存在でしょうか?」
??
目の前の少女は変わらぬ笑顔で俺の返答を待っていた…。
*あとがき*
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4話と同時投稿になりますので、こちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
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