時を紡ぐ

霞(@tera1012)

雨のような音がする

 さらさらさら。


 かいこが桑の葉を食べる音は、「蚕時雨こしぐれ」という名がついている。

 あんなどこが口かもわからないような生き物が、音を立てて物を食べているということに、嫁いで来た当初の私は衝撃を受けたものだ。

 その音はいつでも、いのちの浅ましさといじらしさを私に突き付け、胸をかすかにざわめかせる。


 それにしても、絹とはなんという傲慢な存在なのだろう。一反の絹を得るのに、繭は2600個ほど必要だという。2600のいのち。私たちは、そのいのちを紡ぐために、日がな一日くわを摘む。


 私はこの家で、夫や義理の両親に飼われ、彼らは、このおびただしい数の白い芋虫の吐き出す糸に飼われている。一反の絹は、どれほどの男たちの、少女たちのいのちを養い、奪ったのだろうか。


 そして蚕は、私に飼われている。うまれたてのこの虫は、筆で桑の葉に運ばれる。幼虫は、餌がもらえるまで、動き回りもせず頭をあげて待つ。大人になっても飛ぶこともできず、人が離してやらねばいつまでも交尾を続けている。

 蚕は、野では生きられないいきものなのだ。そして、私も。


 これまでもこれからも、私は、ここで蚕に飼われ続け、紡ぎ続ける。

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