第4話 パイナップルと小猿と

食虫植物、もとい食獣植物というべきか。

太い蔓をまるで触手のように使い縦横無尽に振り回している。

相対するは自分……ではなく、緑の毛並みを持つ猿の群れ。弱肉強食、自然界は食うか食われるかの修羅の巷。猿は集団でパイナップルを囲み、パイナップルも蔓で弾き捕まえて捕食している。

赤く染まるパイナップルの口元。猿に引きちぎられた蔓や葉。それは互角の戦いか。

羊はそっと、木陰草葉に隠れることにした。

幸い、距離があるおかげか双方に気が付かれてはいない。

単に羊如きに構ってる暇が無いせいかもしれないが、眼前の戦いは激しさを増していく。羊そっちのけで。


「キキィ!」

「メェ!?」


ドザザザザッ……!!。ツルで吹き飛ばされ土草を身で削り轍を刻みながら、一匹の猿が羊の隠れる木へと叩きつけられる。木が揺れ衝撃が地面を伝う。その時、木の上から甲高い声が聞こえてきた。


『なんだ……?』


声につられて見上げると、木の上には震えて互いに抱き合う小猿が数匹。うち一匹は怪我を負っているようで、仲間の子猿に支えられて何とか枝の上に止まっているような状態に見えた。


『そうか……そういう事か』


巨大な蔓がふるわれる。

回避もできたはずのその攻撃を、猿たちはあえて受け止める。まるで背後に通さないように。

きっとこれは、子を守る大人の戦いなのだろうと理解した。

普通、動物はよほど飢えない限り無茶な狩はしない。

するにしても自分を捕食する相手にわざわざ喧嘩を売ることはない。

それが見た限り既に仲間が捕食されているのにずっと戦い続けているということは、引けない理由があるということ。そんなものは明白だ。子を守るため、不退転の戦をしているのだ。


「キキー!!」


振るわれる蔓で打ち払われ、一匹が吹き飛んだ。

鋭利な葉が一匹の背中を抉る。

数匹がかりで押さえにかかるが、薙ぎ倒され、うち一匹が捕まった。

蔓で拘束され、何とか脱出しようと足掻くが叶わず。

真っ赤に裂けた口元へと運ばれていく。

猿と、パイナップルの実力差は明白だった。悲しいまでに。

羊はふと、頭から地面におち起き上がれないでいる猿を見た。 

世は弱肉強食。子供なんて捕食者から見ればいい餌でしかない。

それは分かっている。分かっているが……。

敵わない戦いに身を投じ、時には自ら盾となり、だが子供を庇う。

子を守るために命を投げ出す覚悟を見た以上、この猿達を見過ごせるのか。

答えは否だ。


『悪いね、食わせないよ』


隠れていた影から跳躍し、無意識下で身体強化をしながらパイナップルに接敵。

生成した刀を咥えて構え一閃し、今まさに猿を捕獲して口元に運ぼうとしていた蔓を半ばで両断した。

金気法術:武具創生。

こちとら今は羊だが、元は自然の理に真っ向から歯向かうことを進歩と呼んでいた人間だったのだ。

エゴ、偽善、大いに結構。

それに何も、助太刀は猿達のためだけじゃない。


「ギュアアア」

「めえ……」


草食動物の今世にとって。

目の前のパイナップルは、この上ないご馳走に見えるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る