第2話 ビスケッツの日常

 なんだかんだで実験の片付けや店の清掃をしていたらお昼を過ぎてしまった。その間一人の来店も無し。

「やることもないし、新商品の研究でもするかな」

 呟くと同時に準備を始めた。毒消し飴は駄目だったかもしれないが薬草飴ならどうだろうか?モンスターとの戦闘中にも舐めながら回復できるし、味ももっと種類を増やしてドロップ缶にいれて販売すれば売れるのではないだろうか?いや、飴という固定概念に囚われないで薬草パンというのはどうだろうか?パンを作るならオーブンも買わなければならない。

「よし、そうと決まれば今日は臨時休業して……」

「なにサボろうとしてるんじゃぁー」パシーン

 後ろから本日2回目のハリセン攻撃。正直結構痛いんですよ……。

「サボるんじゃなくて新商品の開発をしようと…」

「それをサボりと言うのよ。はい、お弁当もってきたからさっさと食べて仕事仕事」

 そういってカレンは水色のお弁当箱を渡してきた。幼なじみのカレンには仕事のときは毎日昼ご飯を作ってもらっているのだが、なんだかんだでこれが一日の楽しみでもある。

「おっ、今日はサンドイッチだ。いただきます」

「はいはい、どうぞ召し上がってください」

パクパク食べ始める。レタスとハムが挟んでいるシンプルなものだが、マヨネーズに隠し味のマスタードと酢が入っており、より具材の美味しさを引き立てている。今日も美味しくお腹も膨れ満足感でいっぱいだ。

「カレンは本当に料理が上手いからいつも助かっていますよ、本当に」

「はいはいありがとうございます。よし、じゃあ仕事に戻りましょうね」

 なんだかんだでいつも僕のことを気にかけてくれてるのは本当に嬉しいだ。でも、何かあったら仕事のことばっかり言うのは玉に瑕なんだよね。それを訴えようとしても『あんたが仕事しないから言ってるのよ』とジロっとにらめつけてくるから言うのを諦めるのもいつものことなんだ。

「カレンさん慌てない慌てない。一休み一休みですよ」

 お腹もいっぱいになったので一旦一休みしようとそのまま眠る準備を始めようとしたら、本日3回目のハリセン攻撃が僕の頭にクリティカルヒットした。

「あ、ん、た、い、い、加、減、にしなさいよ」

 これはまずい、一ヶ月に一回起きるか分からない激おこカレン一号になってしまった。対応を誤ってしまうと明日から一週間弁当を貰えなくなってしまう。それだけは避けなくてはならない。よし、僕に付き合ってくれてる精霊たち、今からの数刻だけでいい。僕を助けてくれ!

「そんなことで精霊を使うなーー!!!」

 ハリセンを持つカレンの手が僕の頭上に向かってきた。流石に一日4回目もハリセンをくらう気は僕の中では毛頭もない。今こそ僕の真の力をみせてやる!!…………あっ、いや、ゴメンね、ごめんなさい。僕の力じゃないよね。精霊くんの力ですから拗ねないで僕を助けてください。精霊さんお願いします。いや本当にちょっと待って、あっ駄目だ。間に合わない…………。

『バッシーーン!!』

「………ものすごく痛いです、仕事しますのでもうハリセンは辞めましょうねカレンさん」

「ならさっさと戻りなさい。私も仕事に戻るわよ」

「今年の収穫はどんな感じなの?」

「もう少し芋が実ればいいんだけどねぇ。まぁあんたのお店よりは順調だからあなたは自分のお店のことだけを考えなさいよ」

 それだけ言うと、カレンはビスケッツを出ていった。きっと自分の畑に戻ってまた農作をするのであろう。

「さてと商品整理でもしましょうかね」

 僕が店主をしているビスケッツは『何でも売ってる魔法のお店』と言われることをモットーに運営をしている。なので日常品から冒険用、今日の献立に使うものなどもおいている。万が一今まで在庫がなくても時間だけ貰えれば極力は商品を提供しているので客観的に見ても中々の良店だとは自負している。

「おじちゃーーん買い物来たよー!」

「おっいらっしゃいませだよー!後前も行ったけどオジちゃんじゃなくてお兄さんだからね」

「オジちゃんオジちゃん卵とはちみつとね、あとは………そう小麦粉ちょうだーーい」

こいつ僕の言う事聞いてないな……。まぁいつものことだから別にいいんだけどね………。まだオジちゃんて言われる年じゃないんだけどなぁ…………。

「まぁいいや………奥から取ってくるからちょっと待っといてね」

「ハーーイオジちゃん!」

 僕は言うのを諦めて商品を取るため奥の倉庫に向かった。

「卵、小麦粉はあるっと、後ははちみつはちみつと………あったあった」

 はちみつを手に取ったとき毒消しはちみつは売れるんじゃないかと一瞬期待したが、カレンの鬼の顔が脳裏に浮かんだので考えをすぐに辞めた。

「おまたせしましたよ」

「ありがとうオジちゃん!」

お金をもらい商品を渡したら女の子は笑顔で受け取り駆け足で帰っていく。お母さんにお菓子でも作ってもらうのかな?………毒消しホットケーキ………流石に無理があるかな……。それからもちょくちょくお客さんが来店してきた。

「薬草に包帯ねありがとうございます…………はいはい、頼まれていた鶏肉は仕入れてますよ!…………王都で流行っている香水はあるかって?時間もらえましたら発注しますけどどうしますか?」

気がついたらあっという間に夕方になっていた。

「さてと、店じまいの準備をしますかね」

 今日も無事に一日が終わりましたよ。明日の準備もしないといけないなぁ。後は朝の商品開発の片付けもしないと………やることはまだいっぱいあるな

「………じいちゃん僕は負けないよ。どんなことがあっても」

ふと呟いてしまった一言。僕らしくもないな。

「よし、片付けが終わったら新しい商品を考えますかね」

前向きにのんびりやっていこう。そう思いつつ僕はビスケッツの看板を直した。



つづく

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