大賢者の孫ですが田舎でのんびり赤字続きの店をやっています

レッド

第1話 店の名前はビスケッツ

「………後はこれを入れて完成する……」

 興奮のあまり思わず呟いてしまった。遂にここまでたどり着いたんだ。完成を目の前に試験管を持つ僕の手も微かに震えてしまう。無理もないと思う、この一ヶ月、新商品の発明のためにどれだけの失敗をしただろうか……?色々なことがあり過ぎて思い出したくないことも何個かある。特にあの爆発のせいでどれだけ被害が出てしまったかと思うと……いや今はこれ以上考えるな集中しろ、そして実験を完成させるんだ。覚悟を決め僕は試験管に入っている緑色の液体をガラス瓶に流し込んだ。ガラス瓶に入っている液体が反応し透明に変色した。

「この反応だと………よし、後はこれを冷やせば完成だな」

 一ヶ月の成果が遂に完成した、これを量産して販売すれば大ヒットは間違いないであろう。自分で言うのもなんだが、この閃きをできる僕の頭脳は、片田舎に埋もれていいものだろうか考えてしまう。いずれ世界中から注文が殺到することだろう。

「フフフ我ながら素晴らしい発明ですな」

「…………あんた店開かないで何してんのよ?」

「………カレン、商品開発をしてるときは地下には入るなって何度も言ってる弟子ょ」

 今後の素晴らしい未来を妄想していたが、幼なじみの声で現実に戻ってしまった。

「今何時だと思ってるのよ?わざわざ見に来てあげてるだけでも感謝してもらいたいわ」

 腕を組みあきれ顔で言ってくるこの少女の名はカレン=ローズン、活気ある僕の幼なじみである。もう少し落ちつきがあれば見た目は可愛いんだからモテるんだろうに……後胸ももうすこしね………と言ってしまいたいが、その瞬間に僕の体が彼女の理不尽な攻撃で悲鳴を上げるのが目に見えてるので、絶対に言わないようには気をつけています。

「まぁいいやそれよりカレン、遂に完成したよこの世界的大発明を」

「あなたねぇ、発明する暇あるならお店の整理整頓や商品の補充、帳簿の管理しなさいよね。今月も赤字じゃないの?売上も上げないといけないけど出費も抑えないと………」

「きてそうそう、私の心を傷つけないでいただけないでしょうか」

「いいえ、今日ははっきり言うわよ。あんたは借りにもビスケットの経営者何でしょう?経営者ってのはねぇ、仕事以前にまず自分の身だしなみからしっかりしないといけないんじゃないの?ちゃんと朝起きてから顔洗って髭は沿ったの?昨日はちゃんとお風呂にはいっているのよね?後、こんな時間なのにまだ寝巻を着てるのよ!?早く着替えなさいよ。まだまだあるわよ他にもね~………」

 …………泣いていいかな?何で朝からここまで言われないといけないんだろうか僕のライフはもうぜろでっせカレンさんよ。

「はぁっー、でっ今度は何を発明したの?どうせろくでもないものなんでしょうけどね」

「おっ、よくぞ聞いてくれました。」

 仕方ないから聞いてやるよオーラが出ている気はするが僕は自信漫々でカレンに発明品の説明していった。

「カレンさん、思い出してほしいのですが昔パープルスライムに噛まれて毒状態になったことがあるじゃないですか?」

 因みにパープルスライムとはこの付近にたまに現れるモンスターである。大人なら戦えば簡単に倒せるモンスターだが弱い毒を持っており、噛まれても大人なら自然治癒で大抵は回復するのだが、子供が噛まれたときは免疫がなく重症になる場合もあり、最悪死にいたることもある。幼い頃カレンは一度噛まれており、幸い大事には至らなかったが痛い目を見た過去があるのだ。

「あぁ、そういえばそんなこともあったわねぇ。小さかったけどはっきり覚えているわね」

「辛かったでしょ?」

「たしかにあのときは、熱は出るしお腹が痛いこともあってご飯も食べれなかったし辛かったわねぇ」

 懐かしがっていうのはいいけど僕は忘れないからな。カレンが毒から完治したあとに今まで食べれなかった分も食べるといいお菓子をドカ食いして、その後ダイエットのため僕もむりやり付き合いで走らされたことはね。まぁ話を進めたいから今回は言わないでおくけど。

「そんな毒で苦しむ人にこちらの商品をおすすめします」

「……これは?」

「10分舐めればあら不思議、あなたの体を蝕んでていた毒も中和されていく魔法の商品……その名も毒消し飴!!」ドャッ

「……………」

 ふふふ、あまりにも素晴らしい発明に何も言えないだろカレン?僕はどんどんこの毒消し飴の魅力をカレンに語っていった。

「今は試作品なのでパープルスライム程度の毒しか中和できないけど、やがてはデススライム、いやデスキングスライムでも中和が可能に……」

「……………………」

「更に味も豊富!メープル味からシュガー味、果物の味もできちゃいますので小さなお子さんからお年寄りまで食べれる人は多種多様!」

「……………………………」

「いずれは量産も視野に入れてるので比較的値段も安く提供可能!まさに奇跡のしょう……」

「それって普通に毒消し草でいいんじゃないの?」

「…えっ!?」

 この子は何を言ってるのかな?、ふぅ〜〜、カレンはこの発明の魅力をわかってないなぁ……ヤレヤレだ。

「だって、毒で苦しい時に飴を舐めとけないですし、そもそも中和まで10分は長いよね」

「いや時間に関しては、飴を噛みくだいて飲み込めばすぐに効果は出るからね?中心に毒消し草のエキスを入れてるから苦いけど」

「なら余計毒消し草でいいじゃない?毒消し草なら2,3分で効くでしょ?」

「でも美味しくないじゃん……」

「あんたねぇ……毒で苦しんでるときに味なんか分からないでしょうが!!そんなものより効き目が早いもののほうがいいに決まってるでしょ?」

 なっなんだと………そこまで考えてなかった。僕としたことが今期12回目の致命的ミスだ。

「……確かにそれは盲点だったな」

「………………でっ、これをいくらで売ろうと思ってたのよ?」

「なるべくコストを抑えたからね………まぁ太っ腹サービスで銀貨1枚位では売りたいよね」

「ちょっと待ちなさい銀貨一枚?高すぎるでしょ!!毒消し草何個買えると思ってるのよ!!」

 イヤイヤカレンさん、この毒消し成分の抽出でどれだけ毒消し草を使ってると思ってるの?コストを考えたら銀貨一枚で販売してもけして安くはないんですよ。おまけに味も美味しいし。このあともこれの魅力を色々な角度から丁寧に熱弁したのだが我慢ができなかったのかカレンが大声で言った。

「もういいからさっさと仕事しろーー!!」パシーン

 どこから出てきたかも知らないハリセンで頭を叩かれる。いつも思うのだかいつもこのハリセンはどこに隠しているのだろうか?これ以上カレンを怒らせても面倒なので僕は仕方無しにお店の開店準備を始めた。毒消し飴いけると思ったんだけもなぁ………。まぁ仕方ない。気持ちを切り替え僕の店ビスケッツのオープンだ!!

「よ〜し、さぁ本日も開店しましたよー!何でも売ってる夢のお店、その名もビスケッツ!、今日も営業が始まり始まりーー」

 誰も聞いていないが僕は店の扉を開け看板を設置したあと空に向かって大きく叫んだ。

 今日は晴天だ。きっと、お客様もたくさんくるだろう。どんな人と出会えるだろうか?どんな物語が生まれるだろうか?そんな期待にワクワクしながら僕は扉を締め店内に入った。

 

 これは、勇者が魔王を倒すファンタジーではなく、世界中をチートで無双する話でもない、また、一人の人間がハーレムを築く話でもない。どこにでもある小さな町の田舎でお店を開いてのんびり生活をしている一人の少年の物語である。

「最も赤字続きでいつ潰れてもおかしくないんだけどけね」

「これ以上僕の心を削らないでカレン。いやホンマに。あなたもさっさと自分の仕事に行きなさいな」

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